第3話『結衣と姫奈のメイドバイト-④-』

 結衣達3人の働きぶりを見たり、漫画やアニメのメイドキャラについて語ったり、芹花姉さんと一口交換したりしながらお昼ご飯の時間を楽しんでいく。

 芹花姉さんが注文したパンケーキも結構美味しいな。パンケーキ以外にもスイーツは何種類もあるし、おやつ時や学校の放課後に来るのもいいかもしれない。いつかは結衣や伊集院さんと一緒にお客としてここに来てみたいな。そんなことを考えながらお昼ご飯を食べていると、


「あっ、悠真さん! 胡桃さん達もこんにちは!」


 柚月ちゃんが3人の友人と一緒に来店してきた。ちなみに、結衣によって席に案内されている。俺達はもちろんのこと、柚月ちゃんの友人達も「こんにちは」と挨拶する。


「お姉ちゃん達のメイド服姿可愛いですよね!」

「可愛いよな。メイドさんらしい接客もいいし、オムライスとかも美味しいから最高だよ」

「そうなんですね! あたし達も楽しみますね!」

「ああ」


 柚月ちゃん達は俺達に軽く頭を下げて、結衣に4人用のテーブル席に案内された。柚月ちゃん達にとっても楽しい時間になるといいな。

 柚月ちゃん達が来てから10分ほどで、俺達はみんなお昼ご飯を食べ終わる。接客だけでなく、食事としても満足できたなぁ。美味しかった。

 そろそろ会計をしようかという話になったとき、


「今日の思い出に、メイドのチェキサービスはいかがですか?」


 結衣達3人がやってきて、志田さんがそんな提案をしてきた。

 志田さん曰く、カナイ~ノでのチェキサービスというのは、店員であるメイドさんに好きなポーズをしてもらってインスタントカメラで撮影。写真に写るメイドさんにメッセージを書いてもらった写真をもらえる有料のサービスとのことだ。

 俺達5人はチェキサービスをしてもらうことに。

 もちろん、俺がサービスしてもらうのは結衣。両手で作ったハートマークのポーズをリクエストして撮影した。その写真に写る結衣はとても可愛くて。今日、緊急にメイドのバイトをしているとは思えないほどだ。

 また、チェキの写真に結衣は、


『大好きな悠真様! 今日は来てくれてありがとう! ず~っとあなたにご奉仕したいな』


 というメッセージを書いてくれた。可愛いな。


「はい、悠真様!」

「ありがとう、結衣。大切にするよ」


 結衣からチェキの写真を受け取る。その際に結衣の頭を優しく撫でた。

 5人それぞれ希望のチェキサービスを終わった後は、俺達は会計に向かい、各々が自分の注文したメニューの代金を支払う。

 会計を担当してくれたのは結衣。コンサート物販のバイトの経験が活きているようで、結衣は特にミスすることなく落ち着いて会計の業務をしていた。


「これで全員の会計が終わりですね」

「お疲れ様なのです、結衣」

「お疲れ様、ゆーゆ」

「2人ともありがとう。そして、ご主人様とお嬢様。今日は帰ってきてくれてありがとうございました! 元気をもらいました」

「皆様のおかげで残りのバイトも頑張れそうなのです。ありがとうございました」


 結衣と伊集院さんは可愛らしい笑顔でそうお礼を言ってくれる。


「いえいえ。ここでの時間は楽しかったよ。結衣達にメイドさんらしく接客してもらったし、料理も美味しかったし」

「そうだね、ユウちゃん。とっても良かったよ! メイドカフェっていいなって思った!」

「あたしもそう思いました、芹花さん。メイドカフェ初体験がここで良かったよ」

「久しぶり来たけど本当に楽しかった! 3人のメイド服姿も可愛かったし、姫奈ちゃんにケチャップで描いてもらった猫も可愛かったから」

「先生も楽しかったよ。久しぶりにオムライスをまた食べられたし。可愛いメイドさんに接客もされたから、午後の仕事を頑張れそうだよ」


 胡桃達もカナイ~ノでの時間が楽しくて満足なものになって良かった。みんな今言ったことが本当であると示すように、お店に入ったときよりも楽しげな笑みを浮かべている。

 あと、福王寺先生は仕事の昼休み中なんだよな。メイドカフェを楽しみすぎてすっかり忘れていた。


「じゃあ、俺達はこれで帰るよ。3人とも、残りのバイト頑張ってね」

「ありがとうございます、ご主人様!」

「ありがとうなのです」

「ありがとうございます。じゃあ、ゆーゆ、ひなっち。せーの」

『ご主人様! お嬢様! いってらっしゃいませ!』


 満面の笑みで元気良くそう言うと、結衣達は俺達に向かって深めに頭を下げた。来店したときは「おかえりなさいませ」だったから、退店するときは「いってらっしゃいませ」になるんだな。

 そして、これでこのメイド服姿の結衣と伊集院さんを生で見るのはこれで最後か。メイドとして接客してくれるのも。そう思うと何だか寂しいな。


「……結衣」

「……はい」


 返事をすると、結衣はゆっくり顔を上げて俺を見つめてくる。そんな彼女に俺はキスをした。その瞬間に結衣の体がピクッと震えて。胡桃と志田さんの「きゃっ」という黄色い声が聞こえて。

 1、2秒ほどキスをして、俺の方から唇を離す。すると、目の前には今日一番の強い赤みを帯びた結衣の顔があった。


「悠真君……」

「メイドとして接客してくれたお礼と、このメイド服を着た可愛い結衣を生で見られるのが最後だから」

「ふふっ、そっか。急にキスされたからビックリしちゃった。でも、今はバイト中だよ?」

「ご、ごめんな」


 周りを見ると……幸いにも、俺達8人と柚月ちゃんグループ以外はこちらを見ている人は一人もいなかった。そのことにほっと一安心。


「ううん、いいんだよ。そういう理由でキスしてくれたのは嬉しかったし」

「それなら良かった」

「……ご主人様から最高のご褒美をいただいちゃいました。そのおかげで、残りのメイドとしてのお仕事を頑張れそうです。ありがとうございます」

「いえいえ。じゃあ、残りのバイトも頑張ってね」


 そう言って、俺は結衣の頭をポンポンと軽く叩いた。

 俺達はメイドカフェ・カナイ~ノを後にする。そのときも結衣達に「いってらっしゃいませ~」と見送られた。頑張れよ、結衣、伊集院さん、志田さん。

 一時間近く涼しいお店の中にいたから、外に出ると結構暑く感じる。中野先輩と福王寺先生も「暑い……」と声を漏らしている。


「帰り際に、ゆう君が結衣ちゃんに突然キスしたときには驚いて声が出ちゃったよ」

「結衣のメイド服姿が凄く可愛かったからさ」

「ふふっ、ユウちゃんらしい」

「主人とメイドの禁断の関係を見ているようで、先生は凄く興奮したわ」

「杏樹先生らしいですね。あと、メイドカフェを一番楽しんでいたのは先生な気がします」

「俺も同じことを思いましたよ、中野先輩」

「そうかしら? 私には低田君が一番楽しんでいたように見えたけど。まあ、とても楽しんだ自覚はあるわ。あと、メイド服姿の女子高生は最強だと思ったよ! 本当に可愛かったから!」


 興奮気味にそう話す福王寺先生。結衣と伊集院さんは今日限定だけど、志田さんは今後もバイトを続けていく。これからも、先生は定期的にカナイ~ノへ遊びに行きそうな気がする。

 メイドカフェの感想を話しながら話していると、あっという間に武蔵金井駅に到着した。午後の仕事がある福王寺先生とはここでお別れ。

 せっかく外に出ているんだし、どこかお店に行こう……という話になり、俺達4人はエオンに行くのであった。




 夕方になって、結衣と伊集院さんから、旅行に行ったメンバーのグループトークにメイド服姿の自撮り写真がたくさん送られてきた。結衣の写っている写真は全てスマホに保存した。写真を見ると、メイドカフェで結衣達に接客されたときのことを思い出す。最高だったな。

 さらに、夜になると、無事にバイトを終えて帰宅したとメッセージが届いた。緊急のことだったし、一日中バイトしていたので結構なバイト代をもらえたそうだ。みんな、バイトお疲れ様。

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