エピローグ『コアマからの帰り』

 当初は芹花姉さんのコスプレ記念に写真を1、2枚撮ろうと思っていた。

 だけど、芹花姉さんが色々なポーズをしたり、俺とのツーショットを所望したり、女性5人の集合写真を撮ったりと、気づけば10枚以上も撮っていた。

 写真撮影会が終わった後は、芹花姉さんと月読さんも一緒に、ここ第1ホールと第2ホールを廻ることに。サークル『よみつき』の本は完売したし、今日はここに来てから2人はお手洗いのとき以外はサークルスペースにいたからだそうだ。

 女性5人はみんな美人だし、芹花姉さんは宮坂のコスプレをしている。それもあってか、男性中心にこちらに視線を向ける人も多い。一緒に歩いている唯一の男として5人を守らなければ。

 ホールを廻っていると、みやび様や結衣と胡桃と劇場に観に行った『ひまわりと綾瀬さん。』など、好きな作品の同人誌を頒布しているサークルがある。あと、午後2時を過ぎた時間帯だからか、既に撤収したと思われるサークルスペースがちらほらと。

 みんな、たまにサークルの前に立ち止まり、見本誌を見た後に同人誌を購入することも。もちろん俺も。中には初めてのサークルもあって。ふとした出会いがあるのも、同人誌即売会のいいところだと個人的には思う。

 第1と第2ホールを一通り廻って、俺達は『よみつき』のサークルスペース前に戻ってきた。そのときには、時刻は午後3時を過ぎていた。


「彩乃ちゃんやユウちゃん達と廻れて楽しかった! いいなって思った同人誌を何冊も買えたし」

「私も芹花ちゃん達と廻れて楽しかったよ。6人でコアマのホールを廻るのは初めてだったけどいいなって思ったよ」


 芹花姉さんと月読さんにとっても楽しい時間になって良かった。

 月読さんは芹花姉さんと俺だけでなく、今日が初対面の結衣達とも楽しそうに話す場面が何度もあって。きっと、今日のことを機に結衣達との仲が深まっていくんじゃないだろうか。連絡先も交換していたし。


「私達も楽しかったですよ! ねっ、みんな」


 結衣の問いかけに俺、胡桃、福王寺先生は首を縦にしっかりと振る。そのことに芹花姉さんと月読さんは嬉しそうにしていた。

 6人で廻ったことも、今回のコアマでのいい思い出の一つになったな。


「さてと……俺達はそろそろ帰りますか? それとも、もう少し会場を廻りますか? 俺はどちらでもかまいませんが」

「私は……帰ってもいいかな。東西どちらのホールも廻れたし、コスプレしたお姉様や月読さんともお話しできたし、満足だよ」

「あたしも満足。あと、家に帰って目当てのソンプリのCDを聴いたり、同人誌を読んだりしたいのもあるかな」

「私も帰るのに賛成だよ。自分が買った本はもちろんのこと、低田君達が買ってきてくれたものを早く堪能したいな。買った本のうちの2冊くらいは、我慢できなくてサークルの待機列に並んでいる間に読んだけど」


 読んだのかよ。買った本ってことは……エロい意味で成人向けのやつか。さすがは福王寺先生。興奮しながら読んでいる姿が容易に思い浮かぶ。

 それにしても、3人とも帰ることに賛成か。早く家に帰って、コアマで買ったものを楽しみたい気持ちは分かる。CDはポータブルプレイヤーを持っていなければ、家で聴くのが主だろうし。


「分かりました。じゃあ、俺達はこれで帰りますね」

「分かったよ、ユウちゃん。みなさん、気をつけて帰ってくださいね」

「お気をつけて。私達はサークルスペースの片付けをしてから会場を後にしようと思います。芹花ちゃんは着替えもあるね」

「そうだね。宮坂は好きなキャラクターだし、接客も楽しかったから着替えるのが名残惜しいな」

「ふふっ、そっか」


 そう返事する月読さんはとても嬉しそうに見える。

 もしかしたら、今後、サークル『よみつき』が同人誌即売会に参加するときは、芹花姉さんがコスプレをして売り子をすることが定着するかもしれないな。『よみつき』だけじゃなくて、他の友人の同人サークルでも売り子をする可能性もありそうだ。


「姉さん達も気をつけて帰ってください。では、俺達はこれで失礼します」

「また会いましょうね、お姉様、彩乃さん!」

「失礼します、芹花さん、彩乃さん」

「漫画やアニメのことを話すの楽しかったよ。また話そうね、芹花ちゃん、彩乃ちゃん」

「はいっ。ユウちゃん達とコアマで会って、一緒に廻れて楽しかったです」

「そうだね、芹花ちゃん。私の描いた同人誌を買ってもらって、楽しんでもらえて嬉しかったです。また会いましょう」


 俺達4人は芹花姉さんと月読さんとそんな挨拶を交わし、手を振り合って西館第1ホールを後にする。

 今日のコアマが終了するまで残り1時間を切っている。だからか、西館に来たときと比べても人の数は減ってきているな。

 また、端の方でサークルの頒布本を読んだり、買ったグッズを見せ合ったりする人もいて。自宅まで我慢できなかったのか。それとも、買ったものを楽しんで、コアマが終わるのを会場で迎えようと考えているのだろうか。

 通路を歩いて、俺達はメインエントランスから東京国際展示ホールの外に出る。ここに来るのは数時間ぶりだけど、随分と久しぶりな気がする。

 俺達は最寄り駅の国際展示ホール駅に向かって歩いていく。


「この時間帯だと、会場に行く人よりも帰る人が多いんだね」

「コアマが終わるまであと1時間を切ったからな。あと、俺達みたいに、家に帰って買ったものを楽しみたい人が多いのかもしれない」

「それもありそうだね」

「帰る人が多いから、琴宿まで行くなぎさ線は混みそう。今までも、帰るときもなぎさ線は混んでて」

「そうなんだね、胡桃ちゃん。まあ、混んでいても。悠真君と密着できるって考えれば全然平気かな」

「ふふっ、結衣ちゃんらしい」


 俺も結衣と密着できるから、混んでいる電車に乗るのは苦に感じないな。もし、結衣と一緒に乗れるなら、通勤や通学で電車を使うのもいいなって思える。


「コアマの会場を離れるのは寂しいけど、家に帰るのがとても楽しみだわ。これも低田君達が私の代わりに買ってきてくれたおかげだよ。お昼ご飯を食べる前にも言ったけど、本当にありがとう」

「いえいえ! 悠真君と一緒でしたし楽しかったですよ! コアマの楽しさに触れられましたし」

「福王寺先生の代行でも、買えたときは結衣と一緒に喜びましたからね」

「杏樹先生のお願いもあってゆう君達と一緒に来られましたし、あたしも目当てのキャラソンCD買えましたからね。楽しかったです。あと、CD聴いたら先生と感想を語り合いたいです!」

「いいわね! 語り合いましょう!」


 胡桃も福王寺先生もとても楽しそうに話している。今の2人は教師と生徒というよりは年代の違うオタク友達って感じだ。

 東館中心に結衣と2人でコアマを廻ることができたし、行き帰りや昼食は胡桃や福王寺先生と4人での時間を過ごせた。西館では宮坂にコスプレした芹花姉さんと会って、姉さんと月読さんを加えた6人で西館を廻れたし……今年の夏のコアマは本当に盛りだくさんで楽しかったな。コアマでこういう過ごし方ができたのを嬉しく思う。だから、会場から去るのはちょっと寂しい。


「ねえ、悠真君。これからもコアマやオンリーの同人誌即売会に参加したいな。みんなと一緒なのはもちろんだけど、2人きりでも」


 元気な笑顔を見せながらそう言ってくる結衣。どうやら、結衣はこのコアマを通じて、同人誌即売会にハマったようだ。彼氏としてはもちろん、これまで何度も参加している人間としても嬉しい。あと、「みんな一緒」と「2人きり」を両方言うところが結衣らしいな。


「もちろんさ」


 結衣と目を合わせてそう返事すると、結衣の笑顔は嬉しそうなものになった。

 オールジャンルのコアマはもちろんのこと、『鬼刈剣』や『みやび様に告られたい。』など、共通して大好きな作品はいくつもあるので、そういった作品のオンリーの即売会にも一緒に参加したい。今後のデートの選択肢の一つに同人誌即売会が加わったな。

 最寄り駅の国際展示ホール駅に着くと、コアマ帰りの人がたくさんいて。暑い中のコアマだったので、楽しそうな人はもちろんのこと、疲れた様子の人もいる。

 胡桃の予想通り、琴宿方面に向かうなぎさ線はとても混んでいた。それもあり、電車の中では行きと同じく、結衣と体が密着する形に。だから、


「あぁっ……悠真君あったかくて気持ちいい。匂いも最高だよっ」


 と、結衣はとても嬉しそうで。また、胡桃と福王寺先生が2人で密着し合っていた。

 なぎさ線で密着していたのがとても良かったのだろうか。琴宿駅から武蔵金井駅に向かう東京中央線はそこまで混んでいないのに、結衣は俺に密着していた。そんな彼女をとても可愛いと思うのであった。




 ちなみに、翌日と翌々日……コアマ3日目と4日目に福王寺先生は始発で会場に行き、サークルの頒布本やグッズを買いまくったらしい。炎天下の中で長時間並ぶことが何度もあったとか。俺は翌朝になっても疲れが少し残っていて、喫茶店のバイトを昼過ぎからにして良かったと思うほどなのに。やっぱり凄いな、あの人は。




夏休み編3 おわり

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