第五十九歩 【共和国の魔法使い ~前編~】

 俺たちは人里を通らないルートを選び、フェルとメガロの背に交互に乗りながら移動していた。


「共和国まではどのくらい?」


 リンがメガロと交代してちっこくなったフェルに聞く。


「フロートが使えるからな。おおよそ1週間ってところか」


「いやぁ、やっぱ魔法が使えると違うっすね!」


 たしかに、王都までの旅と比べれば快適そのもの。

 メンバーも増えてるし、魔法は使える。

 さらに言えば、今回の目的地には王都とは違い、明るい希望ってものがあるのだ。


「一体どんなところなのかなぁ? 少しはウェルカムな雰囲気だと良いんだけど……」


 俺の心配にバーンが反応する。


「ウェルカムかは知らないけどなぁ、異界人にも居住権を与えてるって話は聞いてるねぇ! そして何より共和国が守護者と謳っている奴らがな……」


「守護者?」


「あぁ、王国と折り合いが悪い国々が集まって発足した共和国には名実ともに対抗手段としての戦力が必要だったんだ。そしてそれが三英雄と呼ばれる守護者たちってわけだ」


「それと異界人に何の関係があるんです?」


 コタロウが首をかしげる。


「その三英雄は英雄級と言われるスキルを所有した異界人で構成されてんのよぉ! まぁ、英雄どころか戦力にならないおしゃべりボーイには縁のない話だがな……」


 俺をおちょくることを忘れないバーンが話し終わった頃、メガロとフェルが後退する時間となった。


「よし一旦、下に降りるぜ!」


 メガロはゆっくりと下降し、野原へと降り立つ。

 野原に人影がないのを再度確認するとメガロは身体を縮め、フェルは身体を大きくした。


「ん? なんだろう、この匂い?」


 風を受けたコタロウが鼻を動かす。


「どうしたの?」


 リンがいち早く気づき、コタロウに近づくと――

 

バッ!


 草むらから何かが複数飛び出し、コタロウとリンに襲い掛かる。

 リンは咄嗟にマントの裾から尻尾を突き出すとそれらを薙ぎ払った。


「キシャァァァァ!」


 薙ぎ払われたのは鎧のような外殻を纏わせた芋虫。

 威嚇しか聞こえてこないところから魔物なのだろう。


「コタロウ、リン! 大丈夫か?」


「こいつは……シェルド・ワームだな。それなりに厄介な魔物だ」


「虫型の魔物には我の威圧も効かないからな。さっさと片付けるぞ!」

 

 フェルの人吠えを合図に俺たちはシェルド・ワームへと斬りかかる。

 俺はニーズから受け取った小刀を抜くとシェルド・ワームへ向け、龍の紋章に自分の魔力を流し込む。

 するとさっきまで短かった刀身に魔力で形作られた投信が重なり、ロングソードとなった。


「これはすごいな! ニーズの宝物ってだけはある!」


 ニーズが別れを惜しんで俺にくれたこの刀は龍人族の刀匠がこしらえた名刀らしい。

 そんな大それた物受け取れないと何度も言ったが、最後にはバルファさんの許しを得たニーズに押し切られてしまった。


「うりゃぁ!」


 俺が飛びついてきたワームに向けて刀を振るうとワームの身体は紙を切るかのように両断される。

 フェルたちの様な魔獣勢やリンみたいにはいかなくても、俺もそれなりに戦えるようになろうと精進した成果がようやく出た感じだ。


「キュイィィィ!」


 俺たちの猛攻に不利を察したのか、ワームたちは近くの森へと退散していく。


「ふぅ、まぁこのくらいは余裕かな……」


「何言ってんのよ! 後、一瞬でも反応が遅れたら危なかったじゃないの!」


 汗をかきながら強がる俺に、リンが突っ込みを入れた。

 ここ数日、リンは俺に対して遠慮が無くなってきた気がする――


「うわぁぁ! なんだこいつら!」


 俺たちが落ち着いたのも束の間。

 ワームたちが逃げ込んだ森から人の声が響く。


「まさか! なんでこんなところに人が?」


「私たちが取り逃したワームに襲われてるの!?」


 俺たちは顔を見合わせると、森へと入っていく。



 共和国の首長に呼び出され、向かう途中だったのだが――困ったものだ。

 俺が魔力を回復させるために休憩していると、いきなり魔物に囲まれた。

 しかも、奴らは手負いのようでかなり気が立っている様子。


「キシャァァァァ!」


 こんな人里離れて何もない場所に冒険者がいるとも思えないが、奴らの身体には明らかに刀傷がつけられていた。


「まぁ、どっちにしてもこのまま逃がしてはくれないだろうね」


 俺が懐に手を入れると、魔物たちは我先にと俺に飛び掛かった。

 次々と飛来する鎧の球を俺は軽々と回避しつつ、大きな岩の上に立つ。


「無駄な戦闘は本意ではないが急ぐのでな! 一気に片を付けさせてもらおう!」


 俺は懐からとあるマークが描かれたクリスタルの結晶を取り出す。


「行くぜ! ウェル――」


 俺がクリスタルを構え、術式を発動しようとしたその時――


「大丈夫ですか?」


 奥の茂みから一人の男が顔を出す。

 冒険者かとも思ったが、次の瞬間には俺はその男の後ろに連なっている一行に目を奪われた。

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