けものの寄り道 ~まとわりつく思惑~
聡明で博識、更には何人たりとも到達できないほどの強さを持つ我が主は言った。
彼らがこの世界に大きな変革をもたらす・・・・・・と。
私は主の言葉を決して疑わない。
そして私の行動理念は全て主の御心次第である。
だからこそ私は彼らを監視し、龍人族の少女と接触。
彼らの危機を伝え、救援に向かうように仕組んだ。
主の考えに間違いなどない事は明白。
その証拠にオレストから王都に至るまでにあの異界人は複数の強力な魔獣を虜にし、協力させている。
そして今も驚愕すべき事象を目の当たりにし、主の偉大さに打ち震えていた。
「さて、私もご挨拶と行きましょうか!」
私は四枚の
追撃を恐れてか非常識な速度で飛んでいく彼らを追いながら、私は懐から二つの物を取り出した。
一つは龍人族の少女が宿に忘れていった荷物一式。
あの会話の後、部屋に置きっぱなしになっていたから回収しておいたが、彼らの信用を少しでも得る機会となれば良いと持ってきた次第だ。
もう一つが重要。
それは主からの依頼品。
これは主にとっても大きな意味を持つと言っていたのだから、どんなに断られようと受け取ってもらわなければならない。
私は決意を込めて、速度を上げる。
すると前方に慌しく空中を動き回る彼らの姿を捕らえた。
「メガロ‼ しっかりしろ‼」
あの魚型の魔獣の名を呼びながら回復魔法を発動している様だ。
しかし、あの様子では回復魔法だけではとても間に合わないだろう。
「これもまた恩を売ることになるでしょうね。今後の事を考えるといい機会かもしれませんね!」
私はこのタイミングの良さに感謝しつつ、彼らの下へと向かう。
「お困りのようですね!」
にこやかに声をかけた私に、すかさず反応したのはやはり面識のある彼女だった。
「あ、あなたは!」
「先日はどうも。忘れ物をお届けに参りました」
私は荷物を彼女へと放り投げる。
「誰だ貴様‼ 人間のような気配だが・・・・・・そうではなかろう?」
「私の正体など気にしていていいのですか? お仲間、危ないのではないですか?」
今にも息絶えそうなほど憔悴した魔獣にあの異界人と不死鳥が回復魔法を掛け続けているが、傷の治りが遅く、体力の消耗に追い付いていない。
「これを使えば何とか回復できるかもしれませんよ?」
私は緊急用にと渡されていた最上級の回復薬を懐から取り出した。
「それは‼ まさかグランリカバーか? お前、それをどこで手に入れやがった‼」
その回復薬を見た途端、不死鳥が騒ぎ出す。
そうか・・・・・・こいつは創薬協会長のペットとして過ごしていたのでした。
私としたことが失念していたものです。
「分かっているなら話は早いではないですか!」
「ケッ! でもそんな物をただでくれるって訳ではないだろう?」
「えぇ、もちろんですとも。一つだけ条件があります」
私はうまく交渉に持ち込めたことに感謝しながら、主の依頼品を差し出す。
それは手のひらに収まるほどの宝玉。
私自身この宝玉について多くは知らない。
これを渡した以降も監視の任務は続けるように言われているから、別に監視のために渡すわけではないらしい。
「これをあなた達にお渡しします。大事に持っていて頂くことがお助けする条件となります!」
そう言い終えた段階では警戒の眼差しが私に注がれていた。
まぁ、当たり前と言えば当たり前だが・・・・・・
「それを持っていればいいのか? そうすればその薬を貰えるんだな?」
今まで、回復魔法に専念していた異界人が口を開く。
彼の魔力も尽き欠けているのだろう。
額からは大粒の汗をかいており、目は虚ろだ。
「えぇ、勿論です。理由というのも何という事は無い。私はこの宝玉の真の力が知りたいのです。そのためにはどうやら人間と魔獣双方の力が必要らしくですね。それであなた達に興味を持った次第です! 定期的に皆様の前へ参上いたしますのでその際に報告して頂ければ結構ですよ」
これは主から聞かされていた情報の一端。
主の存在は語らず、この事実を伝える。
これも主の指示通り。
「分かった。その玉の事は引き受ける。早く薬をくれ‼」
震えた手を差し出す異界人。
私はその手に宝玉と薬を乗せた。
「快諾して頂いてありがとうございます。それではごきげんよう‼」
私は他の仲間たちに付き返されてはたまらないと思い、すかさずにその場を離れた。
彼らの行き先は分かっている。
《龍の里》
私は上機嫌になり、鼻歌を垂れ流しながら主の下へと急ぐ。
彼らが無事に龍の里へ着くことを祈りながら・・・・・・
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