第三十歩 【王宮と潜入 ~食物庫~】
大きな棚がいくつも置かれており、その棚には各地から集められた食材が所狭しと並んでいる。
その奥には今朝に運び込まれた荷物が検品を待っていた。
「周囲に気配はないみたいだな!」
「だったら早くこっから出ようぜ! 狭くてたまらねぇ」
「そ、そうっすね。誰かにバレる前に移動した方が良さそうっすね」
荷物を積んでいた馬車の底が開き、三つの影が倉庫の中に這い出た。
ルイ達とはぐれてしまったシュウスケ達である。
シュウスケ達は素早く馬車を離れると、棚の陰に身を隠す。
「んで? 鳥公、ルイ達はどこにいやがる?」
メガロの質問にバーンが首を横に振る。
「さぁね……ルイ達はまだ馬車から出ていないし、城の周りにゃ魔法障壁が貼られてるから外からじゃ様子がわからないんだよねぇ」
「んだよ! 大見え切っといて肝心なところで役に立たねぇな!」
「あぁ? さっきから水にぷかぷか浮いてるだけのやかましい魚類よりゃましだと思うんだけどねぇ⁉」
水と油の様にバチバチと火花を散らしながら二人は睨み合う。
そんな二人の様子を見ながらシュウスケは深々とため息を吐く。
「はぁ、ルイさん達ともはぐれてしまったし、これからどうすればいいんすかねぇ……」
そんな呟きにメガロが反応する。
「あ? そういやよ。お前がここに来たのってなんか理由があんじゃなかったのか?」
「え? 君ってただ成り行きで付いて来てたモブじゃなかったのかい?」
さらっと酷いことを口に出したバーンに苦笑いしながら、シュウスケは自分の目的について語り出した。
「俺がこの世界に転生してから一緒にいたエリザさんっていう女性がいたんす。どうやら王様の操り人形になっちゃってるみたいなんすよ。エリザさんには色々助けてもらったんで今度は俺の番っていうか……」
そこまで聞くとメガロはフッと笑みを浮かべた。
「つまりよ、その女に惚れてんだろ? 小僧かと思ってたが、お前もなかなかやるじゃねぇか!」
「そ、そんなこと言ってないじゃないっすか⁉ 俺はただ純粋に……」
「照れんなって! そう言う事なら協力しないわけにはいかねぇな!」
「全く、君ってデリカシーを水に溶かしたような奴だなぁ……俺っちは面白ければ何でもいいけどね」
そんな話をしていると倉庫の中に光が差し込んでいく。
どうやら倉庫の扉が開かれたようだ。
「今回は一体何が届いたのだ?」
「一般的なスパイスが十数種類と穀物類となっておりました。それから創薬協会からの品も複数ありましたが、そちらは例の部屋に運び入れる手はずとなっております」
倉庫に入ってきた二人の兵士はシュウスケ達が隠れていた馬車の中で検品を始めた。
シュウスケ達は様子を見ながら素早く倉庫の扉に近づいていく。
「おい、シュウスケ。あの二人は何を話していやがるんだ? 上手く聴き取れねぇんだが」
「え? 聞こえないんすか? こんなに倉庫内に響いているのに?」
二人がお互いに顔を見合わせ、首を傾げているとバーンがフフンと鼻を鳴らす。
「当たり前っしょ! ここには全自動通訳のルイはいないんだぜ? お前が人間の言葉を理解で切るわけないっての」
「さっきからシュウスケとは普通に話せてんじゃねぇか?」
「俺の分身体を通してスキルの権能を維持してやってんだよ! 存分に感謝したまえぇ‼」
バーンは胸を思い切り張ると自慢気にくるくると回る。
そんなバーンを無視し、メガロはシュウスケに問う。
「んで? シュウスケ、まずどうするよ?」
「とりあえずルイさん達と合流しつつ、転生者が集められている場所を探すしかないっすよ!」
倉庫の扉に着くとシュウスケ達はわずかに光が漏れている事に気付く。
「よしよし、これで倉庫から出られるな! ルイ達も馬車から抜け出たようだし、もう少し情報を集めれば合流の糸口が掴めるはずだ」
「俺たちも情報を少しでも集めるっすよ!」
「おうよ、ここまで来たんだ‼ やれるだけやグルルルル‼」
その呻り声を聞き、シュウスケ達の足が止まる。
そして、赤く燃えているはずのバーンの顔色が蒼褪めているように見えた。
「グル? グルルル?」
「あ、あぁ……こりゃヤバいな。俺っちの長~い人生でもなかなかに上位だぜ」
ひきつった笑顔を浮かべるバーン。
「一体どうしたんすか? 何でメガロの言葉が分からなくなってるんすか?」
バーンは倉庫の入り口近くの物陰にシュウスケとメガロを招くと、重々しい表情を浮かべた。
「とてつもな~く言い辛いことなんだげんちょもよ……分身体が消えた」
その一言にシュウスケとメガロは戦慄した。
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