第十八歩 【村と汚染】
村に招かれた俺たちは診療所の様な布団が並ぶ小屋へ通された。
リンは翼と尾をマントの中へしまい、フードを深々と被っている。
村に入ってから一言も口を開いていないのは人間の言葉が話せないからか……
スキルの影響を忘れてしまいそうになるから気を付けなければ。
村に入る前に注意を受けたが、人前でコタロウやフェルは当然としてリンとも会話をしてはいけないんだったな。
無論、俺たちが異界人だとばれてはならない。
シュウスケも村へ入る前にこの世界の服に着替えさせて置いた。
町で予備の服を買っておいて正解だったな。
「良かったですわ。あと少し遅ければ回復するのにもっと時間が掛かったでしょうから」
シュウスケに薬を飲ませてくれていた村の女性が俺たちの所へ戻ってきた。
「ありがとうございます。助かりました」
シュウスケは落ち着いた様でよく眠っている。
「いえいえ、良いんですのよ。あの河の水を飲んでしまう旅人の方は多くて、よくこの村を訪ねてこられるから。お仲間さん、症状自体は酷くない様だけどどのあたりの水をお飲みになったのかしら?」
「あの川が流れ込んでいる付近の大河の水です。もっと下流の水は大丈夫だったのですが……」
この答えを聞いた女性の顔が曇る。
「あら、あの大河まで影響を受け始めてしまったのね。早くどうにかしないと取り返しがつかないことになるわ」
「一体、何が起きているのですか?」
「えぇ、それが……」
女性は言い辛そうな感じで事の次第を話してくれた。
何でも例の川は村のはずれの湖から流れているそうだが、その湖にいつからか魔物が住み着き、水を汚染し始めたそうだ。
その汚染の影響は年々広がり続け、遂に大河まで達してしまったのだという。
「では、私は皆さんの事を村長にお話してきますね。今夜泊まるところもご用意して頂けると思いますよ」
女性はそう言い残すと小屋を出て行った。
「このまま汚染の影響が広がっていけば旅人だけじゃなく、大河周辺の生き物全体に影響が出そうね」
人がいなくなったことを確認するとリンが小声で口を開く。
「そうだな。何とかしなきゃいけないな」
「貴様はまた厄介事に首を突っ込むつもりか? 我は御免だぞ!」
フェルは興味なさげにシュウスケの脇に蹲る。
「良いわ。私たち二人で調査しましょう。今回は私も素通りする気にはなれない案件だわ」
「僕も協力しますよ! 僕の鼻がお役に立てると思います!」
「分かった。フェルはシュウスケに付いていてくれ。何も起こらないとは思うが念のためにな」
俺たちの会話にフェルは片目だけを開け、鼻を鳴らす。
「フン、我の周りにはいつからお人好ししか集まらなくなったのか……全く」
フェルはそう言うとまた目を閉じた。
「ん? 人が来るわ。詳しい打ち合わせは後でしましょう!」
リンたちが再び口を閉じると、すぐに小屋のドアが開く。
「やぁ、旅人の諸君。今回は災難でしたな」
女性と共に現れたのはひげを蓄えた中年の男。
中肉中背で着ている服は他の村人と比べると上等な物に見える。
「私はこの村の村長をしているギーグ・テッジと申します」
「私はルイです。この度は仲間を助けていただきありがとうございます」
俺は深く頭を下げる。
「なぁに、この村はこんな状態なものでして解毒剤を含めた霊薬の生産が盛んなのですよ」
「霊薬?」
「えぇ、材料も村の付近で取れやすいですしね。
そうやくきょうかい? なんだそれ?
っと、知らないと怪しまれるから適当に話を逸らしておこう。
後から聞いたが、創薬協会ってのはこの世界の薬品関係の一切を取り仕切る超巨大結社の事らしい。
「そうなんですか。でも、わざわざ村長さんが来ていただけるなんて恐縮です」
「いやね、私が来たのは他でもありません。優秀なテイマーで在られる貴方に依頼があるのですよ!」
へ? テイマー? 依頼?
何の事だろう? って、いつものパターンなんだろうけど
「魔獣を二体も連れたパーティなどそうはいないでしょう! さぞや優秀なテイマー様とお見受けしました! そこで依頼がございます。どうか湖の魔物を討伐して頂けないでしょうか?」
また勘違いから凄いことになってるわ。
まぁ、元々リンともそういう話になっていたから自由に動く口実になるな。
「その報酬としましては今回の治療費の免除、治療中の村での生活の保障。その後、達成されましたら路銀をご用意させて頂きますが如何ですかな?」
治療費がかかることをすっかり失念していた!
まとまった金なんかないし、これは受けるしかないんじゃなかろうか?
俺が横目で見ると、リンも小さく頷く。
「分かりました。お引き受けします」
「おぉ、ありがたい! それでは皆様を宿へご案内いたします。湖への案内は明日にしましょう」
村長は俺とリン、コタロウを宿に案内すると帰っていった。
因みに、フェルは臍を曲げたように付いて来なかったのでシュウスケの事を頼んである。
「取り敢えず今日は休みましょう。まともな寝床なんてほんとに久しぶりだわ」
「そうだな。シュウスケが回復しないうちはまともに動けないし、明日から忙しくなりそうだしな」
俺たちは久々の布団を堪能しつつ、休息を取った。
※
辺り一面に霧がかかった様な景色。
まるで雲の中に迷い込んだような感覚だった。
「ここは一体? 前にもこんなことがあった気が……」
俺が戸惑っていると声が聞こえてくる。
『ルイ……類!』
「誰だ? この前も俺の名前を呼んでいたな? 一体誰なんだ?」
俺が辺りを見渡すと黒い影が近づいてくるのが見えた。
まだうすぼんやりとしていて輪郭がはっきりしない。
『まだ私の事を認識できないだろう。こうして君に会いに来るだけで今は精一杯だね』
影はどんどん離れ、小さくなっていく。
『君が望むままに進むんだ。そうすればまた会えるから……』
俺は追いかけようとしたが、身体の動かし方が分からない。
まるで身体が自分のものではないかの様に……
※
「ルイ、ルイ‼ 出掛けるわよ。迎えが来たわ!」
俺はリンの声で目が覚めた。
「うなされていたけど大丈夫?」
「あ、あぁ大丈夫だよ」
「休ませてあげたいけど、あなたがいないと他の人と意思疎通が取れないから……ごめんなさい」
少し寂しそうな顔を見せたリンは再びマントを身に纏う。
窓の外を見ると昨日の村長ともう一人が宿の前まで来ていた。
俺たちは簡単に身支度を済ませ、宿の外へと向かった。
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