第十七歩 【水と汚染】

 俺たちはシュウスケを伴って王都への道を進んでいた。

 随分と上流の方まで来たと思う。


「王都まであとどれくらいなんすか?」


「もうすぐ王都に続く街道と関所が見えてくるはずよ。もっとも私たちはそこを通ることはできないんだけどね」


「我らはこのまま山道を進んでいくしかない。まぁ、こちらの道も何があるか分かったものではないがな……」


 土地勘のあるフェルとリンが相談した結果、街道の一歩手前の山道を街道に沿っていくルートが一番確実だという事になったそうだ。

 因みに、リンとミディは王都に入ることはなく龍の里に向かうそうなので、それ以上の迷惑はかけないだろう。


「ところでシュウスケはこのまま一緒に行っていいのか? また危ない目に遭うかもしれないぞ?」


 俺は何気なく一緒に王都に向かってしまっているシュウスケに質問した。

 シュウスケはしばしキョトンとしていたが、俺の顔を見て大きく頷く。


「俺にも王都で確かめなくちゃいけないこともありますからね! 対して役に立たなかったとしても一緒に行かせてもらうっす!」


「確かめることって……この前話していた女性の事か? 」


 シュウスケがこっちの世界に来てから一緒にいたっていう女性……エリザさんだっけか?


「ルイさん達の話を聞く限りじゃ、エリザさんも操り人形にされちゃって王都にいる可能性が高いっす。もしそうなら助けないと! それに……」


 そこまで言うとシュウスケは少しうつむく。


「それに?」


「い、いや何でもないっす! ちょ、ちょっと喉渇いたっすねぇ……俺、水汲みに行ってくるっす!」


 シュウスケは動揺した様に水筒を掴むとそそくさと水辺に下りて行った。


「奴は急にどうしたっていうのだ?」


「水を汲みに行くって言ってました。シュウスケさんが戻ってくるまで少し休みませんか?」


「そうね、昼食に魚でも取ってくるわ。コタロウ、手伝ってくれる?」


「はい、僕でよければ!」


「キュイ キュイ‼」


「うん、ミディもお願いね」


 リンはミディとコタロウを連れて、シュウスケの後を追っていった。

 残ったのは俺とフェルの一人と一匹。


「ルイよ……」


「ん? 何だい、フェル?」


 不意にフェルが口を開く。


「お前は本当に王都で異界人達を救えると考えているのか?」


「え?」


「はっきり言ってやろう。万に一つも上手くいくことは有り得んだろう。それどころか何も出来ぬまま命を落とすのがオチだ。それならばいっそのこと王都になど行かずとも……」


「それも仕方ないかと思うんだ」


 俺の口から出た言葉にフェルも驚いている様だが……


「ただ、何かせずにはいられないんだよ。自分がどうなるかなんて今は二の次かな」


「貴様という奴は‼」


 自分の口から出ている言葉に一番違和感を感じているのは……


「ルイさん、フェルさん‼ すぐに来てください‼」


 煮詰まった空気をぶち壊すように響いた声。

 それと共にコタロウが足元へかけてくる。


「シュウスケさんが大変なんです! すぐに来てください!」


 俺たちはコタロウの後を追い、シュウスケ達の下へ向かった。



~河辺 上流付近~

 俺たちが河辺に到着すると、そこには地面に倒れ伏したシュウスケと回復魔法をかけているリンの姿があった。


「一体、何があったのだ?」


「水を飲んだら急に苦しみだしたの! 回復魔法も効かないから何らかの病か毒物の可能性があるわ!」


「ウ、グッァ……」


 河の水に毒物⁉

 今までも飲み水は河の水だったし、そんなことあるのか?


「ルイさん! 水から僅かにですが、変な匂いがします!」


「生き物の気配も感じないな……恐らくはあそこから合流している流れが原因だろう」


 フェルの視線の先には本流に注ぎ込む一本の流れがあった。


「とにかく、シュウスケを何とかしないと! 毒には専門の解毒魔法か薬しか効かないわ!」


 リンもフェルも解毒魔法は使えない。

 何でも状態異常を回復する魔法は回復魔法よりも習得が困難で回復術師を生業とする者以外は使える者が少ないのだそうだ。


「この方角には小さな村があったはずだが……」


「村⁉ そこに行けば何かあるんじゃないか?」


「そうね、今はそれに賭けるしかないわね。この現象も気になるところだし」


「よし、急ごう! シュウスケは俺が……」


 俺はシュウスケを担ごうとしたが、その前にリンが軽々と持ち上げる。


「私の方が速いわ。あなたは遅れないように付いて来てね」


「あ、はい」


 俺は自分の非力さを改めて再確認しつつ、皆の後を付いて行った。



~ポルト村 正門~

 俺たちが村を見つけた頃には辺りは薄暗くなっていた。

 シュウスケの容態はどんどん悪化していく。

 村は規模は小さいながらも大きな囲いと門を持っており、意外と栄えている印象だった。


「すみませ~ん! 旅の者なんですが、開けてくれませんか?」


 俺は門に向かって大声を張り上げた。

 すると、中で物音がして小窓が開く。


「はいはい、何か御用ですか?」


 顔を覗かせたのは若い女性だった。


「私たちの仲間の一人が河の水を飲んだら苦しみだしたのです! 助けていただけませんか?」


「あら、あの川の水を飲んでしまったね! それは大変だわ!」


 女性はそう言うと小窓を閉める。

 しばらく経つと重い音と共に扉が開いた。


「さぁ、早くこちらへ! 解毒剤を用意しております!」


 俺たちは村人たちへ招かれ、中へと入っていった。

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