第二歩 【出会いと魔狼】
森の奥、目の前に横たわる白い塊。
差し込む光と相まって、神々しいばかりに輝いて見える。
俺は血がにじむ肩を押さえながら、吸い込まれるように近寄って行った。
「止まれ、人間! それ以上近づくようなら食い殺すぞ‼」
いきなり響いた声に俺とコタロウは足を止める。
その声は白い塊から聞こえたような気がした。
「我を追って来たのか? 小賢しい奴らめ‼」
怒気が混ざった声が再び響くと、白い塊がゆっくりと動き出す。
「お、狼⁉ でも、デケェ!」
俺とコタロウの目の前に立つのは体長10mはあろうかという巨大な狼。
食い殺すとか物騒なこと言ってるけど、さっきとは違って声が聞こえるということは会話ができるのか?
俺は恐怖で固まっているコタロウの一歩前に出て、会話を試みる。
「こ、こんにちは……わ、私たちはたまたま通りかかっただけで怪しい者では――」
「ん⁉ お前、我の言葉が分かるのか?」
お‼ 会話が通じてる。
これならむやみに追いかけられなくてよさそうだ。
「はい、私たちもさっきまで追いかけられていたもので、あなたの縄張りに勝手に侵入してしまってすみませんでした。」
「うむ……我を追いかけていた奴らとは違うようだが、この妙なニオイ、もしや異界人か?」
ニオイ? 異世界のニオイなんかあんの?
普通はもっとこう服装とかオーラとかじゃないのかよ。
はぁ、現実はあまり格好良くいかないってことか……
「そ、そうなんですよ。気が付いたらこの森の中で、モンスターに追われてここまで来ちゃったんです。」
俺がここに至るまでの経緯を説明すると、狼はふっと息を吐く。
「そうか、いきなり威嚇してすまなかった。ここは私の縄張りというわけではないのだが、少々気が立っていてな」
そう言えば、さっき追われてるとか言ってたっけ?
こんな大きな狼を追い回すとかどんな強者だよ。
「いや、いいんですよ。――って、あれ? もしかしてケガしてますか?」
よく見ると狼の足元の草が赤く染まっている。
まぁ、俺の右手も真っ赤なんだけど……
「うむぅ、少々油断してしまってな」
狼は苦々しい顔をしながら後足を睨む。
俺は思わず駆け寄り、傷を見ると、後足にはかなり大きな傷があり、出血も多くかなり酷い状態だ
それに傷口の付近に何か黒い煙のようなものが巻き付いている
「お、おい! 勝手に近寄るな!」
俺の行動に面食らったように狼が叫ぶ。
俺も迂闊な行動だったとは思ったが、体が勝手に動いたのだから仕方ないな。
「ひどい傷じゃないですか―― 早く手当てしないと!」
俺は傷をよく確認しようとするが、黒い煙がまるで生き物のように邪魔をする。
「その傷には呪いが付与されている。そう簡単に治療ができんのだ」
呪い⁉ さすがは異世界といったところだ――って感心してる場合じゃない。
「我も魔力を削られていなければこの程度の呪いなどかき消せるが、傷もあってなかなかな。だからこうして身体を休めていたところだったのだ」
「何か私にできることは無いですか? さっきは助けてもらったようなものですから」
実際、この狼がいなければ俺とコタロウは仲良くあの世に逆戻りだっただろう。
動物好きということもあるが、この提案は恩返しとしての意味合いもあった。
「異界人とは言え、お前もおかしな人間だな。お前自身もケガ人だというのに……」
狼は不思議そうに俺を見ると少しの間黙り、何か考えている様子だった。
「うむぅ、そうだな。よし、人間よ。あの花が見えるか?」
狼の先に目をやると地面に一輪だけ花が咲いていた。
透き通るような水色のきれいな花だ。
「あの花は人間どもが霊薬を作るときに使う花だ。あれを大量に集めて汁を絞れば少しは魔力の足しになるだろう。我の魔力が回復すればお前の傷も癒せる」
花集めか。お安い御用だ――と言いたいところなんだが、問題が二つほど。
「花集めは良いんですけど、この森を歩き回って、生きてここに戻ってこれる気がしないんですが」
「我のニオイがついていれば迂闊に襲ってくる魔物はいないはずだ。そこは安心してくれて良い」
なるほど、さっきの奴らも尻尾を巻いて逃げてたしな。
そうなると残るは――
「ルイさん、ルイさん!」
足元でコタロウが裾をぐいぐいと引っ張る。
「この花、すごく独特なニオイがしてます。これならある程度離れたところにある花でも見つけられますよ」
おっと、あっさり二つの問題解決したな。
この広い森の中であんな小さな花を探すとなると時間がかかりそうだったが、コタロウが何とかしてくれそうだ。
「よしコタロウ、行こうか。待っててくださいね、狼さん」
俺はコタロウと一緒に歩き出した。
この道がたくさんの出会いが待つ、険しく長い〝けものみち〟だと知らずに――
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