episode.『07月30日(木)』



私は十代で幾つもの後悔を抱えた

そしてそれは肥大化し、絶望へと変わった

そんな後悔が幾つもある

その中でも印象的なのは六歳の初恋

交わした約束を守れず、謝る機会さえなく別れを告げた

声を枯らして泣いていた

忘れまいと誓った一日だ

それが恋という後悔

忘れられない

絶望に至った後悔だ



二つ目は中学の終わり

志望校に二度、落ちたこと

一人だけ落ち零れとなった

忘れもしない十五のこと

一人だけ取り残された、孤独の始まり

周りには小学や保育園を共にした幼馴染ばかり

私は決して底辺ではなかった

勉強も運動も真ん中よりはできていた

それでも私は落ちたのだ

羞恥という絶望だ



三つ目はおそらく高校の頃

父親を殴り自殺を図った時だろう

忘れたくても未だに記憶が残っている

外面の良い屁理屈ばかりの独裁者

愚痴や文句、陰口を全て家庭に持ち込み暴力に変える

歳をとるにつれ治ろうと自分本位の常識は変わらない

口だけの反面教師だ

怒りが爆発した

家族に絶望した日だ



私はそうやって後悔を積み重ねてきた

どれだけ失敗から学ぼうと生まれ育った環境は変えられない

それはまるで運命だった

良くも悪くも色々なものに恵まれ

同時に災難に悩まされた

だからこそ考えることをやめなかった

周りの話を聞いている半面

私は自分の世界にいた

生きたい未来を描いていた



最近、友に勧められた本に書いてあった

カフカは絶望に生きた偉人であると

その人生は私と酷く似ていた

比べるのもおこがましいが

彼の言葉に酷く共感した

心に悲しみを覚えながら

私も近しい道を歩いていると

そう思わずにはいられない

彼が絶望に生きていたなら

私は後悔に生きていただろうと



数えれば切りがない後悔

絶望へと至らしめる事象

十数年前の初恋

翌年から積み重ねた片想い

夢を持ち、自分の歩むべき道を見出した

そして友と呼べる存在は過去となり孤独に身を置いた

口を開けず一人邁進していく高校生活

周りの視線も気にせず落ち零れではないと証明するために

私は生きたのだ



夢は生きたいと思える未来だ

私はそれを後悔の度に思いを募らせた

言わば理想の世界だ

だから何を犠牲にしてでも手に入れたかった

今の暮らしよりは余程マシな人生を歩める

過去に恥じない自分であれる

周りを見返し、本当に欲しいものだけを掌握できる

でも失うばかりの道筋だ

死ぬための歩みだ



私は後悔から理想世界を描いてきた

そしてそれは点と点の後悔を線にする

全てが報われ解消される

私の夢が叶うということは

私が私らしく生きた証となる

落ち零れになり孤独に生きた

誰も傍にいないから

自分が本当に望んでいるものを誰にも口外しなかった

口ではなく結果で証明したかったからだ



一人だけ落ち零れになった

近所の不良校に補欠入学し

改めて思い知らされた

私の幼馴染たちは本当に素晴らしい存在だった

何事にも真面目に取り組み、時と場合を弁えている

純粋無垢に学び生きていた

そして外の世界へ羽ばたいて汚染され

その中で私は落ち零れで恥晒しだったと

気づかされたのだ



入学初日に周りを見て愕然とした

自分が思い描いていた明るい高校生活は幻想だと

今までよりも酷い日常が待ち望んでいると悟り

不良校だから誰とも関わらまいと誓った

落ち零れになり、彼らに恥じない存在であろうと

孤高と孤独を履き違え、誰とも言葉を交わそうとはしなかった

私の青春は灰色だ



私は自ら高校三年間を初日で棒に振ると決めた

自ら孤独である道を選んだ

そしてそれは最後まで貫き通された

勉学では常に上位六位

運動は今までよりも精進し

全てを一人でこなしてきた

頼れるのは自分のみだと

読書と検定の受賞を繰り返し

無口で無表情に結果を残す

自分を磨いた三年間だった



今になって思うのだ

誰にでも分け隔てなく

明るく優しく接していたら

少しはマシだったのではと

それでもすぐに首を振る

馴れ合わなかったから私はここまで来れたのだと

たとえ孤独なまま死んでも

私が私らしく生きれたのなら

どんな形であれ構わない

ただ癒えない痛みを抱えたままは辛いけどね


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