第三章:明日へ光を繋げるために/02

「ハァッ!」

「でやぁぁぁぁっ!!」

 飛び込んでいった遥とアンジェが先に目を付けたのは、グリズリー・バンディットの方だった。

 超高速で懐に飛び込んだアンジェがハイキック気味に脚のストライクエッジをグリズリーに叩き込み、続いて滑り込んできた遥が右手のウィスタリア・エッジを閃かせて追撃。更にアンジェが腕のアームブレードで斬り刻む傍ら、遥もまた隙を埋めるように追い打ちを仕掛ける。

「グオォォォォッ!!」

「シュルル……!」

「――――おっと、横入りはマナー違反だぜ」

 二人の神姫の猛攻を受け、反撃すら許されぬままに斬り刻まれるグリズリーが苦悶の雄叫びを上げる。

 そんなグリズリーを救おうと、リザード・バンディットが遥たちに迫ろうとするが……そこを戒斗がスティレットを連続発砲することで怯ませ、近づく隙を与えない。

「シュルルルル……ッ!」

「ドレスコードって知ってるか? 残念だが、そのナリじゃあ舞踏会はお断りだ」

「シュルルル――――ッ!!」

 それでもリザードは神姫たちを退けようとするが、しかし間に割って入ってきた戒斗が蹴っ飛ばすことでそれを妨害。皮肉めいた言葉で挑発する戒斗に激昂したのか、リザードは標的を神姫たちから戒斗に変更。一気に彼へと飛び掛かってくる。

「ダンスのお誘いなら遠慮しとくぜ! 生憎と、俺もトカゲ野郎と踊る趣味は無いんでな……っ!!」

 襲い来るリザードに対し、戒斗はスティレットを右手に持ち替え、左手でKVX‐2コンバット・ナイフを抜刀し。拳銃とナイフ、二つの武器でトカゲ怪人を迎撃し始める。

「戒斗さんっ!」

「こっちは俺に任せろ! 二人は早めにクマ野郎を捌いてくれ!」

「っ……! 分かりました!!」

 そうして戒斗がリザードと――――明らかな強敵と対峙し始めたのを見て、遥は咄嗟にそちらの援護に回ろうとしたが。しかし戒斗にそう言われ、遥は早めに目の前のグリズリーを狩ってしまうことを決断する。

 ――――リザード・バンディットは、明らかにグリズリーよりも強い。

 遥たちはそう判断していたからこそ、先に邪魔なグリズリーを仕留めてしまおうとしていたのだ。出来るだけ早くリザードと、明らかな強敵と三対一の状況に持ち込むために。

 だから、戒斗の判断は正しかった。

 現状、この三人の中で一番頑丈なのは間違いなく彼だ。ヴァルキュリアXGのスペックと、NX‐αハイパーチタニウム合金で構成された複合装甲の常軌を逸した頑丈さなら、例え相手がリザードでも一対一で十分に立ち回れる。

 だからこそ、遥はリザードの相手を彼に任せ、今はアンジェとともに一刻も早く目の前の敵を、グリズリー・バンディットを仕留めることに集中する。

「はぁぁぁぁっ!!」

「グオォォォォ……ッ!」

「っ……! 動きは鈍いけど、結構頑丈だね……!」

「ですが、明らかに弱り始めています。一気に畳みかけましょう、アンジェさん」

「そうだね、それが良さそうだ……!」

 目にも留まらぬ速さで四つの刃を振るうアンジェの猛攻に、グリズリーは身体中から激しい火花を散らしながら苦悶の声を上げる。

 …………だが、手応えが薄い。

 流石に熊だけあって頑丈ということらしい。アンジェが凄まじい速さで繰り出すこれだけの攻撃を受けても尚、健在な辺り……その打たれ強さはかなりのものだ。

 しかし、遥が言う通り、大分弱ってきているのもまた事実。火花を散らす身体のあちこちに深い傷を刻み、大きく肩を揺らしながら息切れをするグリズリーは……明らかに深刻なダメージを蓄積させている。

 ――――ならば、この機を逃す手はない。

 故にアンジェと遥は一度間合いを取り、そうすれば各々の刃に焔を纏わせる。アンジェは深紅の焔を四本の刃に、そして遥は蒼の焔をウィスタリア・エッジの刀身に。

「ハァァァッ……!」

「これで、チェック・メイトだ……!!」

 深く気を練り、刃に纏わせた焔。

 それを揺らめかせながら、二人は眼前のグリズリーを鋭く睨み付け……そして、互いに頷き合った後にバッと踏み込んでいく。遥は足裏のスプリング機構を解放し、アンジェは両腰のスラスターを最大出力で吹かしながら。

「懺悔とともに――――眠りなさい!!」

「君の罪を今、その身を以てあがなわせる――――!!」

 そうしてグリズリーの懐に飛び込めば、遥は蒼の焔を纏わせたウィスタリア・エッジで、アンジェは深紅の焔を纏わせた四本の刃でグリズリーを叩き斬る。

 遥のウィスタリア・エッジが深く斬り裂き、追撃するアンジェのアームブレードとストライクエッジが巨体を細切れに斬り刻む。

 そうして刃を叩き込めば、二人は地面に火花を散らして滑走しながら静止。残心する彼女たちの背後で、グリズリーは蒼と赤の焔に包まれ、そして――――。

「グオォォォォ――――ッ!!」

 ――――断末魔の雄叫びとともに、二色の焔にその身を灼かれて爆散した。

「フッ……」

「ふぅ……っ!!」

 残心したまま深く息をつき、二人は刃に纏わせていた焔を霧散させる。

 ――――『セイレーン・ストライク』。

 ――――『ミラージュ・ジャッジメント』。

 神姫ウィスタリア・セイレーンとヴァーミリオン・ミラージュ、それぞれ基本形態セイレーンフォームとミラージュフォームの必殺技だ。

 その一撃を同時に叩き込まれれば、幾ら打たれ強いグリズリー・バンディットといえどもひとたまりもなく。大柄なクマ怪人は遥とアンジェ、赤と青の二色の焔に灼かれると、断末魔の叫び声とともに大爆発の中に消えていった。

「まずは……一匹!」

「油断は禁物です、アンジェさん」

「そうだね……! カイトに合流しよう、遥さんっ!」

「はい……!」

 敵をまずは一体、見事に撃破してみせた。

 しかし二人はそんな勝利の余韻に浸る間もなく、次の強敵の元へと向かっていく。

 今は息つく間も、勝利の余韻に浸る間もない。今は一刻も早く、あの強敵――――リザード・バンディットの元に向かうこと。それを一手に引き受ける戒斗の援護に向かうこと。それが遥とアンジェ、二人の神姫が最も優先すべきことだった。

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