エピローグ:エンドロール・プロトコル/02

 ――――夕暮れ時。

 美雪からの突然の連絡を受けた戒斗は、アンジェとともに表へと飛び出し。家の前で彼女の到着を待っていた。

「えっと……カイト、美雪ちゃんから連絡があったんだよね?」

「ああ。なんでも、遥がどうのこうの……ってな。詳しいことはよく分からんが、とにかく表で待ってろとだけ言っていた」

「遥さん、大丈夫かな……?」

「大丈夫であることを、今は祈るしかない……」

 不安げな顔でアンジェと顔を合わせながら、待つこと少し。やがて遠くからバリバリとした古臭いエグゾースト・ノートが聞こえてきたかと思えば、二人の前に……家の前に古いアメ車、赤いプリマス・ロードランナーが滑り込んできた。

 その後ろには、何故か遥のバイク……ZX‐10Rも付いてきている。

 だが、跨っているライダーはどう見ても彼女ではない。白いフルフェイス・ヘルメットを被った彼女は、明らかに遥より小柄な女の子だった。

「――――着いた、か」

 家の前に停まったロードランナーとZX‐10R、そんな二台から降りてくるのは、伊隅飛鷹と風谷美雪だった。

 飛鷹はロードランナーの運転席から、美雪はヘルメットを脱ぎながらZX‐10Rから降りてくる。どうやら遥のバイクに乗っていたのは美雪らしい。

 そして、肝心の遥といえば――――今まさに、飛鷹の手でロードランナーの助手席から抱え降ろされたところだった。

「遥っ!!」

「遥さんっ!!」

 降ろされた遥を見て、戒斗とアンジェはすぐさま彼女の元に駆け寄っていく。

 そうすれば、戒斗は彼女の身体を……どうやら気を失っているらしい遥の身体を飛鷹から受け取り、どうにかこうにか抱きかかえてやる。

「それで……遥は一体、どうなったんだ……?」

 長身な彼女の身体を抱きかかえながら、戒斗が困惑した顔で問うと。すると、その問いに答えたのは美雪だった。

「遥さんは、再び記憶を失ってしまったみたいなんです」

「それって、どういう……?」

 戸惑うアンジェに「言葉通りの意味だ」と飛鷹が答える。

「私たち二人は特級バンディット、篠崎十兵衛の近衛騎士たる七二柱の内、四体に襲撃され……それを撃滅した。だが美弥はその直後、再び記憶を失ったんだ。恐らく……記憶の復活が完全でないまま、力を使いすぎたせいだろう」

 続いて飛鷹の口から語られる事情を聞いて、戒斗は遥の身体を抱きかかえたまま、短く「……そうか」とだけ頷いていた。

「美弥のこと、確かに預けたぞ」

 そんな彼の顔を見て、飛鷹はそう言うと。すると踵を返し、美雪とともに去って行こうとする。

「――――二人とも、ちょっと待ってくれ!」

 戒斗はそんな彼女たちの背中に向かって叫び、二人を呼び止める。

 彼の言葉に反応し、立ち止まって振り返る二人。そんな二人を見つめつつ、戒斗は彼女たちに……飛鷹と美雪に、こう問うていた。

「俺たちと……一緒に、戦えないのか?」

 しかし、飛鷹はそれに「それは無理だ」と首を横に振る。

「どうして!?」

「まだ私は、お前たちP.C.C.Sを完全に信用したワケじゃない。それ以前に……私には、まだやることがある」

「やること、って……?」

 戒斗の横で首を傾げるアンジェを見つめながら、飛鷹は続けてこんな言葉を紡ぎ出す。

「人工神姫のことなら、お前たちも知っているだろう」

「……! 真が、真がどうかしたのか!?」

 ――――人工神姫。

 そのワードを聞いた途端、血相を変える戒斗に「いや、あの娘のことじゃない」と飛鷹は首を横に振った後、こう言葉を続けた。

「だが……彼女と同じ目に遭おうとしている者がいる」

「! それって、もしかして……!」

 飛鷹の含みを持たせた言葉から、何かに気付いたアンジェがハッとする。

 そんな彼女に、飛鷹は「ああ」と頷き、辿り着いたその答えは正しいと肯定してやった。

「不穏な情報をキャッチしている。モスクワで二度目の人工神姫の実験が行われると……な。私たちはそれを阻止する為に、この後モスクワに飛ぶ」

「だから、俺たちには協力できないってことか?」

「一番の理由は、やはりP.C.C.Sを完全には信用し切れていないということだ」

 言った後で飛鷹は「……だが」と言い、

「だが……美弥がそこまで信頼するお前たちならば、或いは我らが肩を並べて共に戦う日も、そう遠くはないのかも知れんな」

 続けてそう言うと、最後にフッと笑いかけ。そうすれば飛鷹は「行くぞ、美雪」と言って、今度こそ戒斗たちの前から去って行く。

 そんな去り際、また小さく振り返った飛鷹は、戒斗とアンジェの姿を見つめつつ……二人にこう、呟いていた。

「二人とも――――美弥のことを、どうかよろしく頼む」

 最後に言って、飛鷹はロードランナーに美雪とともに乗り込み、今度こそこの場から去って行った。

「伊隅、飛鷹……か」

 遠ざかっていくロードランナーのテールランプが描く赤い軌跡を見送りながら、戒斗は呟き。抱きかかえた遥の顔に、そっと視線を落としてみる。

 気を失ったまま、戒斗の腕に抱かれる遥は――――安らかな顔で、まるで眠り姫のように眠り続けていた。





(Chapter-08『忘却の果て、蒼き記憶の彼方に』完)

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