第二章:願いのリナシメント/06

「はぁぁぁぁっ!!」

 右手のライトニング・マグナムを連射しながら、遥が一気に残る三体の上級バンディットへと斬り掛かっていく。

 コンドルをマグナムの連射で牽制しつつ、その隙に左手のブレイズ・ランスで残る二体に斬り掛かる。

 そうして懐に飛び込めば、遥はランスを振り回して斬りつけつつ……隙あらばライトニング・マグナムで零距離射撃を叩き込み、ロングホーンとタランチュラへと同時にダメージを与えていく。

「ヒョーッ!!」

「その程度の攻撃で――――」

 そんな風に大暴れする遥の後方から、体勢を立て直したコンドルが一気に体当たりを仕掛けるが――――遥はそれを容易く回避。そうすれば無防備に背中を晒したコンドルに対し、ライトニング・マグナムの照準を定める。

「――――私たちの絆は、折れやしないっ!!」

 クッと睨みつけながら、遥はライトニング・マグナムの引鉄を絞る。

 そうすれば、三発続けざまに撃ち放たれた光弾に背中を正確に射抜かれたコンドルは――――通常のライトニングフォーム時よりもずっと威力の高い、強力無比な光弾に撃ち抜かれたコンドルは、空中でド派手な爆死を遂げた。

「ヒョ――――ッ!?」

 空に爆炎の花が咲き、爆発四散したコンドルの上げる断末魔の雄叫びが木霊する中。遥はそれに一瞥もくれぬまま、今度はタランチュラ・バンディットを左手のブレイズ・ランスで両断する。

「ハァッ!!」

 …………僅か、一閃。

 横薙ぎに払うランスでの一閃。しかし今までよりもずっと研ぎ澄まされた一閃をマトモに受ければ、幾らタランチュラといえどもタダでは済まず。僅か一閃で身体を真っ二つに両断されてしまい、タランチュラ・バンディットはそのまま事切れる断末魔の叫び声とともに爆炎の中へと消えていった。

「シュルル、シュルルルル――――ッ!!」

「…………これで、四体!」

 爆発したタランチュラの上げる爆炎の中から、遥がゆっくりと姿を現す。

 そうすれば、最後の一体となってしまったロングホーンは……彼女の、リナシメントフォームとなった遥のあまりの戦いぶりに恐怖したのか、戦慄した唸り声を上げながらじりじりと後ずさる。

 この神姫を相手にするのはマズい。絶対に勝てない――――。

 本能的にそう判断し、ロングホーンは逃げの姿勢を取ろうとしたが――――しかし、それを逃がす間宮遥では、来栖美弥ではない。記憶喪失という枷の取れた彼女の前に、真の力に目覚めた神姫ウィスタリア・セイレーンの前に立った時点で、既に彼らの運命は決していたのだ。

「貴方だけを、逃がすとでも?」

 キッとロングホーンを睨み付け、遥が凄む。

 その目つきは鋭く、普段より数トーン低い声の圧は異常なまでに強く。日常の彼女からは想像もできないほどの、温厚で心優しい彼女からは想像もできないほどの圧で凄まれれば、ロングホーンは後ずさることも出来ずにただただ立ち尽くすことしか出来ない。

 遥の圧に気圧けおされたロングホーンが恐れおののけば、遥はそんな怪人の方へゆっくりと歩み寄りながら……左手のブレイズ・ランスの切っ先に再び焔を宿らせる。

「ハァッ!!」

 そうして焔を宿らせれば、遥は先程のようにブレイズ・ランスを再び投擲した。

 鋭い軌道で飛翔したブレイズ・ランスは、そのままロングホーンの身体に深々と突き刺さる。

 だが――――これで終わりじゃない。

「ふっ……!」

 ランスを投擲した遥はすぐさま右手のライトニング・マグナムを構え、今まさに突き刺さったランス目掛けて光弾を発射。刺さったままのブレイズ・ランスを撃ち抜き――――ランスを通して、ロングホーンの身体に雷撃を纏わせた一撃を叩き込む。

 それは、先程クレイフィッシュに向かって放った『ライトニング・バスター』ほど派手な一撃ではなかったが。しかし威力はそれを遙かに凌いでいる。ロングホーンが強力な上級バンディットだから、まだギリギリ耐えられているが……普通ならこの一撃でもう吹き飛んでいるぐらいの威力だ。

「終わらせましょう、この一撃で……!」

 そうしてマグナムから放った一撃でロングホーンに深手を負わせれば、遥は左手を腰に走らせ、左腰に吊るしていた聖剣ウィスタリア・エッジを逆手に抜刀。そのままくるりと器用に順手持ちへと返せば、クッと身を屈め……足裏のスプリング機構を圧縮。踏み込むと同時に開放し、一気にロングホーンの懐へと飛び込んでいく。

「ハァ……ッ!!」

 構える刃に纏うは蒼の焔。刀身に揺れる焔は強く、気高く――――何物をも斬り伏せる強さを秘めていて。遥はそんな焔を宿したウィスタリア・エッジを構えれば――――すれ違いざまに、ロングホーン・バンディットに研ぎ澄ました一閃を叩き込んだ。

「懺悔とともに――――眠りなさい!!」

 交錯したのは、ほんの一瞬。

 すれ違いざまに焔を纏わせた刃で斬り、そして遥は着地する。軽く地面を滑走しながら着地した遥は、背後を一瞥もしないまま……ただ残心し、斬り払った格好のまま静止する。

 そんな彼女の背後で――――断末魔の雄叫びとともに、ロングホーン・バンディットの巨体が真っ青な焔に包まれた。

「グロロロロ――――――ッ!!」

 叫び声が木霊する中、ロングホーンの巨体が、自慢の大きな角が、何もかもが蒼の焔に灼かれ、灰燼かいじんに帰していく。

 ――――『リナシメント・クラッシュ』。

 これこそが神姫ウィスタリア・セイレーン、リナシメントフォームの必殺技だ。

 投擲したブレイズ・ランスで敵を刺し貫いて拘束し、投げたランスをライトニング・マグナムで撃ち抜き、雷撃を纏わせた強力無比な一撃にて追撃を仕掛けた後……一気に踏み込み、ウィスタリア・エッジの一閃で仕留める必殺技。今の彼女が、神姫ウィスタリア・セイレーンが持てる最強の必殺技。それこそが、今彼女が放った『リナシメント・クラッシュ』だった。

「…………」

 背後で大きな蒼の焔が揺れる中、残心を終えた遥はウィスタリア・エッジをサッと払い、刃に空を切らせ……そして呟く。遠い空の彼方に想いを馳せて、遠い日の約束を思い出すように。

「過去も未来も、この先もずっと。何があっても、私たちの絆は永遠に途切れません。だから――――私は絶対に諦めたりしない。皆の願った、明日を掴むことを」

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