エピローグ:ミッシング・エース

 エピローグ:ミッシング・エース



「戒斗さんっ!!」

「戒斗……ちょっと戒斗、大丈夫なのっ!?」

「カイト……カイトっ、目を開けてよカイトっ!!」

 そうして伊隅飛鷹が、クリムゾン・ラファールが全ての敵を駆逐した後。戦闘終了後、すぐさま遥とセラ、そしてアンジェの三人は戒斗の元へと駆け寄っていた。

 皆が皆、一様に彼の身を案じた様子だ。特にアンジェはボロボロと涙を流しながら、目を覚まさない戒斗を……意識を失った彼を抱き締めている。

「……見たところ、生命いのちに別状はありませんが。しかし重傷なのは間違いありません。アンジェさん、すぐに戒斗さんを病院へ」

 そんな三人の傍らで、美雪は変身を解除しながらでボソリとそう言う。

 すると、アンジェは彼女の顔を見上げながら、うん、うん……と泣きながら頷き、

「ありがとう、美雪ちゃん……! カイトを、カイトを助けてくれて……!!」

 と、泣き腫らした目で彼女を見上げながら、アンジェは心からのお礼を美雪に伝えていた。

「…………礼には及びません。先ほども言いましたが、色々と思うところはあれど……私にとって、お二人は確かに恩人なんですから」

 そんなアンジェに対し、美雪は冷え切った表情を変えないままで小さく呟いていた。

「とにかく、早く戒斗さんを病院へ」

「――――言われなくてもそのつもりだ! 助手くん、緊急離脱を頼む!!」

「了解ッス! 戒斗さん……無茶しすぎっスよ……!!」

 美雪がそう言うと、全速力で駆け込んできた有紀と南が戒斗の傍にしゃがみ込み、大破したVシステムを彼の身体から強制的に脱がしてやる。

「キース! マイク! 手を貸してくれ! 坊主は俺たちが担いでいく! こういう力仕事は俺たちの役目だろ!?」

 そうして戒斗の身体からVシステムが無事に外れた頃、ウェズがSTFヴァイパー・チームの数名とともにやって来て。とすれば協力して彼の身体を担ぎ、自分たちが乗ってきたP.C.C.Sのバン、黒いシボレー・エクスプレスに手早く乗せていく。

「お嬢ちゃんも俺たちと一緒に来てくれ! 兄弟には嬢ちゃんが必要なはずだ!!」

「……うん、分かった!!」

 戒斗を無事にバンに乗せれば、荷台からウェズがアンジェに叫ぶ。

 呼ばれたアンジェは変身を解除しながら、指先で涙を拭い……ウェズや他のSTFヴァイパーの隊員たちと一緒のバンに乗り込む。

 バンッと音を立てて荷台が閉じられ、それから程なくしてシボレー・エクスプレスの黒いバンが……重傷の戒斗と、そして付き添いのアンジェを乗せたバンが走り去っていく。

 遠ざかっていくそんなバンの後ろ姿を、遥たちはその場に立ち尽くしたまま、ただ見送ることしか出来なかった。

「……帰るぞ、美雪」

 そんな中、美雪に近づいてきていた飛鷹は変身を解除しながら、彼女にボソリとそう囁きかける。

 すると美雪は「はい、師匠」と頷き返し、踵を返して飛鷹と一緒に歩き去って行く。

「――――飛鷹、と仰いましたか」

 そうして去って行く飛鷹の背中を、遥はそう言って呼び止めていた。

「…………美弥」

 立ち止まり、振り返った飛鷹。そんな彼女に対し、遥は……ウィスタリア・セイレーンの変身を解除しないまま、真剣な面持ちでこう問いかけていた。

「貴女は……私を知っているのですか?」

 そんな彼女の問いに対し、飛鷹はフッと小さく笑むと……こう答えてみせる。

「フッ……いずれ分かる時が来る。再びお前とともに戦える日が来ること、楽しみにしているぞ」

 飛鷹は小さく笑みを浮かべながら、そう言って答えをはぐらかし。その後で遥に対してこうも言ってみせた。

「それと――――生きていてくれてありがとう、美弥」

 そう、心からの感謝を口にするかのように。

 飛鷹はそれだけを言うと、今度こそ美雪とともにこの場を去って行ってしまった。

「………………私は、一体」

 潮風に吹かれる中、大橋に立ち……独り呟く間宮遥は、いつしか頭の片隅に小さな頭痛を覚える。

 同時に頭によぎるのは、誰かの名前。北條ほうじょう美桜みおん青葉あおば瑠衣るい来栖くるす紫音しおん。そして――――伊隅いすみ飛鷹ひよう

 ――――――――綻びは、始まっていた。





(Chapter-06『グラファイトの少女』完)

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