第九章:ヴァルキュリア・フォーメーション/08

 遥の構えた聖銃ライトニング・マグナムと、セラの構えたレヴァー・アクション式ショットガンが同時に火を噴く。

 金色の光弾と散弾。同時に襲い来る攻撃に対し、潤一郎は大きく飛び退くことで対応してみせた。

「セイレーン!」

「分かっています……!!」

 ――――だが、ここまでは二人の想定内だ。

 叫ぶセラの方を見ないままで遥は頷き返しつつ、足裏のスプリング機構を圧縮し……解放。強烈な勢いを付けながら潤一郎目掛けて一気に走り出す。

 そうしながら、ライトニング・マグナムを投げ捨て……遥は右手のセイレーン・ブレス、その下部にあるエレメント・クリスタルを紫色に光らせた。

 すると、今まで白と金の鋭角な装甲に包まれていた右腕は元通りの装甲に戻り。代わりに左腕が……こちらは紫色の鋭角な装甲に覆われる。

 同時に左眼は紫に変色、左の前髪にも紫のメッシュが走る。

 この姿こそが、神姫ウィスタリア・セイレーンは近距離戦形態、ブレイズフォームに他ならなかった。

「ハッ……!」

 そんなブレイズフォームにフォームチェンジした遥は、左手で虚空より細身な長槍を……聖槍ブレイズ・ランスを召喚。呼び出したそれの切っ先を突き付けながら、一気に潤一郎へと肉薄する。

「おっと……!?」

 迫り来る遥と、彼女が突き立てるブレイズ・ランスの切っ先。

 瞬時に懐へと潜り込んできた彼女の鋭い一撃を、潤一郎は間一髪のところで身を捩ることで回避してみせる。

 そうして回避しつつ、また大きく飛び退いて遥から距離を取る。

「ふふっ……」

「…………?」

 ――――だが、それすらも遥の計算内だ。

 髙く飛び退いていく潤一郎を見据えつつ、してやったりといった顔で微笑を浮かべる遥。そんな彼女の表情を、純一郎は不思議に思っていたが……しかし、その表情の意図を彼はすぐに悟ることになる。

「今です、フェニックス」

「最高の位置取りね、流石よセイレーン……!!」

 振り返って叫ぶ遥の、その視線の先で――――セラが、いつの間にか重砲撃形態ストライクフォームにフォームチェンジしていた彼女が、その全ての砲口で潤一郎を睨み付けていた。

(……ああ、そういうことか)

 ――――誘い出された。

 自分に照準を合わせるセラの姿を目の当たりにした瞬間、潤一郎は全てを理解していた。

 遥の真の目的は、潤一郎をこの位置まで誘い出すこと。セラが最も狙いやすく、そして何の遠慮もなく最大火力を放てる位置に誘い出すこと……それが、彼女の真の目的だったのだ。

 大きく後ろに飛んでいる今の潤一郎、空中に居る今の状況では避けるに避けられない。滞空状態の今では、ロクな回避行動も取れないのだ。

 更に……セラから見て上方向に撃つ今のポジション、彼女からしてみれば空中に向かってブッ放す今の状況は、真の意味で何の遠慮もなく撃てる最高の状況なのだ。

 ――――ストライクフォームの最大火力は、比喩抜きに街ひとつを消し飛ばしてしまう。

 故にセラは今までの戦いで、どうしても遠慮というか加減を強いられることが多かったのだが……しかし空に向かって撃つのなら話は別だ。

 射線上には民間人など居るワケもなく、そこに在るのはただ一人……彼女にとっての敵、篠崎潤一郎のみ。

 だとすれば、遠慮など不要だ――――!!

「ターゲット・ロックオン……!!」

 両手のガトリング機関砲と腕の甲にあるマシンキャノン、腰の榴弾砲と太腿のミサイルポッド、そして両肩の重粒子加速砲。その全ての砲口が空中の篠崎潤一郎を、無防備なプロトアルビオンの純白の装甲を捉える。

「此処がアンタの終着点デッド・エンドよ……! フルチャージ! 最大火力……全部乗せ、持ってけぇぇぇ――――っ!!」

 そして――――彼女の構えた全ての武装、その砲口が一斉に火を噴いた。

 握り締めたガトリング機関砲と腕のマシンキャノンが吠え、腰の榴弾砲が爆ぜ。開いた太腿のミサイルポッドからは無数のマイクロミサイルが射出され、肩の重粒子加速砲は太く強力な重粒子ビームを撃ち放つ。

 ――――『アポカリプス・ナゥ』。

 神姫ガーネット・フェニックスは重砲撃形態ストライクフォームの必殺技、まさに地獄の黙示録アポカリプス・ナゥの体現が如しその全力全開、手加減抜きの一斉射撃が空中のプロトアルビオンに、篠崎潤一郎に襲い掛かる。

「くっ……!!」

『TORTOISE ACTIVATE』

 それを避けることは決して叶わぬと悟れば……即座に潤一郎は右手のアルビオンシューターからBカートリッジを排出。今まで差さっていたグラスホッパー・カートリッジを捨てると、茶色い別のカートリッジを咄嗟に装填した。

 電子音声が鳴り響くのと同時に、潤一郎はアルビオンシューターのトリガーを引く。

 すると、シューターの銃口部分から防御用のエネルギーフィールドが……亀の甲羅を象った、金色の大きな防御フィールドが展開される。

 ――――トータス・カートリッジ。

 下級バンディット、防御力に秀でた亀型のトータス・バンディットの力を宿したBカートリッジだ。それを使って展開した防御フィールドで、潤一郎はセラの『アポカリプス・ナゥ』をしのぎ切るつもりなのだ。

「ぐっ……!?」

 そうして潤一郎が咄嗟の判断でカートリッジを入れ替え、防御フィールドを展開した瞬間。彼の身体は――――アルビオン・システムの純白の装甲に包まれていた身体は、爆炎と重粒子ビームの中に消えていった。

「これで、チェック・メイト……!!」

 篠崎潤一郎が爆炎の中に姿を消したのを見て、地上のセラは自身の勝利を確信していた。

 だが――――。

「っ!? 嘘、アレを受け切ったっていうの……!?」

「――――どうにかこうにか、ね……!!」

 だが……彼は、篠崎潤一郎は再びその姿を爆炎の中より現した。

 セラが目を見開いて驚愕する中、爆炎の中から落下してきた潤一郎が背中を地面に叩きつける。

 艶のある純白の装甲のあちらこちらに傷があったり、すすにまみれている辺り……無傷というわけではないらしい。寧ろギリギリのところでどうにかしのぎ切った、という感じか。

 だが、潤一郎は……プロトアルビオンは、未だ健在だ。

 地面に転がっていた格好から膝立ちになって、よろけながらも立ち上がる潤一郎。

 その右手のアルビオンシューターからは……差さっていたトータス・カートリッジが自動的に排出されていた。

『EMPTY』

 そんな電子音声とともにひとりでにローディングゲートが開き、カシャンと音を立てて排出されるカートリッジ。地面に転がるカートリッジからは白い蒸気が噴き出ていて……どう見たって、もう使い物にならなさそうだ。

 ――――戦闘用Bカートリッジは、あくまで使い捨てでしかない。

 要はエネルギーパックのようなものだ。故に今排出されたトータス・カートリッジは空薬莢も同然、ただのゴミと表現するのが最も正しいだろう。

 とはいえ――――そんなトータス・カートリッジを一撃でエネルギー切れにまで追い込む辺り、やはりセラの『アポカリプス・ナゥ』の威力は常軌を逸したレベルらしい。

「逃がしません……!!」

 防御手段を失った篠崎潤一郎、プロトアルビオン。

 そんな彼に向かって、遥は再び地を蹴って踏み込み……左手の聖槍ブレイズ・ランスの切っ先を突き立てる。

「くっ……!!」

 潤一郎はシューターに再び白いアルビオン・カートリッジを装填し直しつつ、同時に銃剣も再展開。それで以て遥のブレイズ・ランスをどうにか受け流す。

「ハッ……!!」

 しかし、一撃が流されたところで遥の勢いは止まらない。

 最初の一閃が銃剣で受け流されるや否や、すぐに刃を返し二閃、三閃と続けざまに槍を振るう。

 すると潤一郎は三撃目ぐらいまではどうにかしのいでいたものの、しかし段々と受け流しきれなくなり……艶っぽい純白の装甲、今はすすと小傷にまみれているその装甲のあちこちに掠り傷を付け始めていく。

(このままってのは……流石に好ましくないね……!!)

 セラの『アポカリプス・ナゥ』をどうにかしのぎ切ったといえ、ダメージは蓄積している。

 その上で彼女を、歴戦の神姫たる間宮遥を……ウィスタリア・セイレーンを相手にしているとあれば、彼が徐々に劣勢に追い込まれていっているのも仕方のない話だった。

 自分がそうした状況に追い込まれつつあることは、この戦いが自身の敗北へと傾きつつあることは、戦っている潤一郎自身も認識している。

(だったら……起死回生の一手を打つまで、だ!!)

 故に潤一郎は――――賭けに出ることを決意した。

「ふっ……!」

 遥の振るう槍の連撃を喰らいながらも、潤一郎は隙を見て大きく飛び退き、彼女から距離を取る。

 そうして距離を取れば、潤一郎はアルビオンシューターに……右手で構えたそれに左手を添える形で構えた。

「これで……決めてみせる!!」

 両手持ちの安定した構えでアルビオンシューターを構えれば、やがてその銃口にチリチリと金色の光の奔流が迸り始めた。

 ――――エネルギーの収束充填。

 今まさに彼が最大級の一撃を放とうとしていることを暗に告げるかのように、アルビオンシューターは銃口に光の奔流を迸らせ……そして小さな唸り声を上げていた。

「悪いけど、これで終わりにさせてもらうよ――――!!」

 そうしてエネルギーが最大級まで収束すれば、潤一郎は遥に向かって構えたアルビオンシューター、そのトリガーを迷わずに引き絞った。

 瞬間――――アルビオンシューターの銃口から、太い金色のビームが……極限まで充填したエネルギーの奔流が放たれる。

 ――――『アルビオン・フィニッシュ』。

 篠崎潤一郎の纏うアルビオン・システム、いやプロトアルビオンに備えられた最大威力の攻撃、いわば必殺技だ。

 そんな極限の一撃が、溜めに溜めた最大級の一撃が――――今まさに、間宮遥へと襲い掛かろうとしていた。

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