第十二章:白き流星/03

「くっ……!?」

 唐突に撃ち放ってきた潤一郎の光弾を、セラは素早い反応で飛び退いて避けてみせる。

 だがその後も二発、三発と潤一郎は続けて発砲。迫り来る光弾の雨に対し、セラはひとまず回避に徹するしかなかった。

(滅茶苦茶に見えて、意外に狙いは正確ね……しかも動きは結構素早い。コイツ相手じゃあストライクフォームは不利かもね……!)

 そうしてアルビオンシューターの光弾を次々と避けながら、セラは内心でそう判断。重砲撃形態のストライクフォームに変身して、一気に叩き潰そうという当初の考えを捨て……今のガーネットフォームのまま、機動戦で奴の相手をすることに決めた。

「へえ、思ってたよりやるね」

「それはどうも……ッ!」

 感心したように潤一郎が呟く中、セラは続けざまに彼の放つ光弾を避けながら……右手にショットガン、左手にコンバット・ナイフを呼び出し。そのままショットガンを構えると、何十発目という光弾をサッと避けると同時にブッ放した。

「よっと!」

 だが、セラの放った散弾を潤一郎はひょいと身軽な動きで避けてみせる。

 その後もクルリとショットガンを回し、一発ごとにスピンコックでの再装填を挟みながら二発、三発とセラは撃ちまくるが……潤一郎はそれらを全て軽快なステップで避けてみせると、倍以上の銃撃をアルビオンシューターから浴びせてくる。

「ったく!」

(コイツ……こんなのの癖に、強い……!!)

 正直言って、セラはかなり劣勢だった。

 セラにとっては初見の、完全に未知数の相手。かたや潤一郎の方は事前情報で彼女の戦い方、神姫ガーネット・フェニックスの戦い方をある程度知っているという……情報面での差も大きいだろう。

 だが何よりも、潤一郎の実力が確かなものだったのだ。

 こうして戦っていれば嫌でも分かる。篠崎潤一郎という男、薄っぺらでイケ好かない男だが……その実力だけは、認めざるを得ない。

『戒斗くん、早くこっちに来たまえ! Vシステムならもう用意は出来ている!』

「兄弟、ひとまずこの場は俺たちに任せろ! お前はさっさとドクターのとこに行け!!」

 そんなセラと潤一郎の戦いを見ていた戒斗は、通信で有紀に、そしてウェズに直接そう言われてハッとすると「すまない、任せた……!」と言って駆け出していく。

 行く先はただひとつ、この廃倉庫の傍で待機しているあのトラック……そこに積まれた漆黒の重騎士『ヴァルキュリア・システム』の元だ。

「でやぁぁぁぁぁ――――っ!!」

 そうして駆け出した戒斗が廃倉庫を出ると同時に、アンジェがセラと潤一郎の戦いに横から割って入ってくる。

 神姫ヴァーミリオン・ミラージュ、基本形態のミラージュフォームだ。

 腰のスラスターを吹かして飛びながら、脚のストライクエッジで繰り出した鋭い蹴り。それを潤一郎はバッと立てた左腕の甲で真正面から受け止め、勢いを上手く受け流してみせる。

「おっと、君も居るのかい。だったらちょっと不利になるかな……?」

「誰だか知らないけど……少しは痛い目に遭ってもらうよ!!」

「ははっ、それはちょっと嫌だな。僕は痛いのはあんまり好きじゃないんだ」

 言いながら、アンジェが続けざまに仕掛けてくる蹴りを上手く避けつつ……タンッと地を蹴って後ろに飛び。多少の間合いを取ったところで、潤一郎はアルビオンシューターの第二の機能を披露する。

 アルビオンシューターの銃身の下、折り畳んでいた銃剣型のブレードをバチンと開いてみせたのだ。

 その見た目は、本当に銃剣と呼ぶしかない。鋭いブレードがアルビオンシューターの銃口から数十センチの辺りまで突き出たその格好は、さっきまでよりもずっと威圧感を感じさせる。

 どうやらアルビオンシューター……いいや、プロトアルビオンは銃撃戦だけじゃない、接近戦でも十二分に戦えるパワードスーツのようだ。

「アンジェ、仕掛けるわよ!」

「うん……っ!!」

 間合いを取った潤一郎がそんな風に銃剣を展開した直後、セラとアンジェは頷き合い……一気に畳み掛けていく。

 腰部スラスターを吹かしながら、腕のアームブレードと脚のストライクエッジを煌めかせてアンジェが潤一郎に斬り掛かる。

 同時にセラもショットガンを牽制がてらに撃ちまくりながら、やはり潤一郎の懐目掛けて全力疾走で走っていく。

「ふっ……!」

 そんな二人の一斉攻撃に対して、潤一郎はあくまで冷静に、余裕の態度を崩さないままに対応した。

 迫るセラに対して牽制射撃を放った後、物凄い速度で突っ込んできたアンジェの脚を受け止め……そのまま近接格闘戦に移行。蹴りを主体としつつも、時に腕のアームブレードでも斬り掛かってくるアンジェに対し、潤一郎は時にサッと避け、時にアルビオンシューターの銃剣で刃を真っ正面から受け止めてみせる。

「そらっ!」

「ぐっ……!?」

 そうした猛攻の中、隙を見て潤一郎は反撃を決行。銃剣で何度もアンジェを斬りつけた末、ついでと言わんばかりに何発か銃撃も喰らわせて彼女を怯ませる。

 赤と白の綺麗な神姫装甲が傷付き、小さく苦悶の声を漏らしながらアンジェが小さく後ろに吹っ飛ぶ。

「だりゃぁぁぁぁっ!!」

 セラはそんな風に二人が戦っている隙に距離を詰めると、左手のコンバット・ナイフで背中から潤一郎に斬り掛かっていくが。

「残念、見えてるよ」

 しかし潤一郎は瞬時に反応し、クルリと大きく脚を翻す派手な回し蹴りで彼女を迎撃。直撃を喰らったセラが遠くに吹っ飛んでいく中、青いバイザーの下でニヤリと不敵に笑んでみせる。

「がはぁっ!?」

 回し蹴りをモロに喰らい、吹っ飛んだセラはそのまま廃倉庫の隅、ドラム缶や一斗缶が幾つも積み上げられた……廃材置き場のような場所に激突。派手な砂埃を上げながらその中に突っ込むと、崩れた廃材の中に埋まってしまう。

(なによ、後ろにも眼が付いてんじゃないの……!?)

 そうして廃材の中に埋まりながら、セラは内心で独り毒づいていた。

 完全に取ったと思ったタイミングでの、不意打ちの一撃だったはずだ。

 だが潤一郎はそれに完璧に対応してみせた。プロトアルビオンの性能か、それとも潤一郎自身の実力か……そこまで判断する術をセラは持たないが、少なくとも分かることはある。

 あのアルビオン・システムとやら、想像以上に厄介な敵だ――――!!

「でやぁぁぁぁっ!!」

「ふっ、中々やるね……!」

 そうしてセラが廃材置き場の中に埋もれている間にも、アンジェは再び潤一郎に飛びかかり。二人とも互角の格闘戦を繰り広げていた。

「女の子に手を上げる趣味は、生憎と持ち合わせていないんだけれど――――」

 アンジェの繰り出す烈火のような猛攻撃を掻い潜りつつ、潤一郎は呟きながらクルリと回り……そうしながら、アルビオンシューターのローディングゲートを開く。

 そうすれば彼は今まで装填していた白いカートリッジ、アルビオン・カートリッジを外し。代わりに別のカートリッジを……今度はグレーのカートリッジをシューターに装填した。

『KONG ACTIVATE』

 再びローディングゲートを閉じた瞬間、アルビオンシューターからそんな電子音声が鳴り響き。とすれば潤一郎はシューターを右腰に吊し……何故か素手でのストレートを繰り出してきた。

(一体、どうして……っ!?)

 自ら武器を手放した彼の行動に、アンジェは一瞬困惑したが……しかし次の瞬間、彼女の蒼い双眸は確かに捉えていた。

 ストレートを繰り出す潤一郎の右手。その拳が――――金色の、エネルギーフィールドのようなものに包まれているのを。

「ふんっ!」

「がぁぁぁ……っ!?」

 強烈な威力を想像させるその拳、金色のエネルギーフィールドに包まれたその拳を目の当たりにした瞬間……アンジェは咄嗟に回避しようとした。

 だが完全な回避は間に合わず、アンジェはそのまま潤一郎のストレートの直撃を喰らってしまう。

 ――――やはり、尋常じゃない威力の一撃だ。

 苦悶の声を漏らしながら、神姫装甲の細かい破片を散らしながら……ストレートをモロに喰らったアンジェは弾丸のように吹っ飛んでいく。

 吹っ飛んだ彼女はそのまま廃倉庫の鉄柱に激突。背中からぶつかった彼女は、意識こそ手放さなかったが……しかし喰らったダメージは決して少なくなく、すぐには立ち上がれそうもなかった。

「くっ……!」

 激突した鉄柱にもたれ掛かり、尻餅を突くアンジェが悔しげな顔でキッと潤一郎を、プロトアルビオンを見上げ、睨み付ける。

「ああ、これのことかい?」

 そんな彼女の様子を見て、説明を求めていると誤解したのか……潤一郎はアルビオンシューターから抜いたグレーのBカートリッジ、その名も『コング・カートリッジ』を見せつけながら、それについてを饒舌に説明し始めた。

「僕の使うBカートリッジは、バンディットの力を凝縮させた物なんだ。変身に使うアルビオン・カートリッジ以外にも……例えばこれ、今使ったコング・カートリッジみたく、特定バンディットの力を凝縮した戦闘用カートリッジもあるんだ。

 このコングに関しては、その名の通りあのゴリラみたいな下級個体……ええと、コング・バンディットだったかな? あの子の力が詰まってるんだよ。ただまあ、この辺の戦闘用カートリッジはエネルギーパックみたいなものだから、残弾有限の使い捨てなのが残念だけれどね」

 と、潤一郎は聞いてもいないことをペラペラと喋りながら……今度はまた別のBカートリッジを取り出した。

 茶色いカートリッジだ。潤一郎はそれを見せつけながら、更にこんなことも口走る。

「こっちは『トータス・カートリッジ』。これも名前そのまんま、下級のトータス・バンディットの力を凝縮したカートリッジだよ」

『TORTOISE ACTIVATE』

 言いながら、潤一郎はその『トータス・カートリッジ』とやらをアルビオンシューターに装填。電子音声が鳴る中、再びローディングゲートを閉め……しかしその銃口をアンジェの方にではなく、まるで別方向へと向けた。

 トリガーを引くと、シューターの銃口から防御用のエネルギーフィールド……亀の甲羅のような形をした、やはり金色の大きな防御フィールドが形成される。

 そんな防御フィールドが形成されたのとほぼ同時に、潤一郎に機銃掃射が襲い掛かった。

「ふふっ……やっと真打ち登場だね。待っていたよ、P.C.C.Sの切り札くん」

「――――アンジェを苦しめてくれたな。その代償、キッチリ払って貰うぞ」

 潤一郎に殺到したのは、二〇ミリ口径のバルカン砲弾の機銃掃射。回転する六銃身から放たれた、ガトリング機関砲から放たれた憤怒の機銃掃射。

 そんな機銃掃射を全て防御フィールドで防ぎきりながら、潤一郎はその銃撃の主……ガシャンガシャンと重厚な足音を立てて近づく、黒い重騎士の姿を見つめ。青いバイザーの下で心底嬉しそうに微笑みながら、そんな歓喜の声で彼を出迎える。

「カイ、ト……」

 歩み寄る彼の姿を、見上げるアンジェの瞳もまた捉えていた。

 ――――ヴァルキュリア・システム。

 マットブラックの装甲を揺らし、真っ赤なカメラアイに怒りの炎を燃え滾らせながら。漆黒の重騎士が――――戦部戒斗が、遂にその姿を現した。

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