第十一章:オペレーション・デイブレイク/02

「そうそう、しっかり付いてきなさい……!!」

 虚空から呼び出したショットガンの銃把を両手に握り締めたまま、セラは建物の屋根から屋根に飛び移っていく。

 夜の街を文字通り飛び跳ねて駆け抜ける中、時折後ろを振り向いてショットガンを発砲。適度に反撃しつつ、空を飛んで追いかけてくるバット・バンディットとつかず離れずの距離をキープしつつ、セラはそうして奴から逃げ続けていた。

 ――――オペレーション・デイブレイク、第一段階。

 それは、おびき出したバットを上手い具合に待ち伏せポイントまで引き寄せること。セラはその為の囮だ。故に彼女はこうしてバットから逃げながら、しかし巧みな動きで徐々に目的地まで近づいている。

 だから囮であるセラの目的は、あくまで奴を上手くおびき寄せることだ。

 故に本当なら反撃する必要もなく、逃げに徹すれば良い。現に作戦内容はあくまで逃げながらバット・バンディットをおびき寄せることだけで、奴に攻撃を仕掛けろとは一言も言われていない。

 だが……セラはセラなりの判断で、ある程度の反撃は必要だと判断していた。

 …………全ては奴に、バット・バンディットに罠の存在を気取られぬ為だ。

 あんまりにも逃げることだけに徹していれば、奴はきっと違和感を覚えるだろう。罠があるんじゃないかと、そんな疑念を抱き……結果として、奴に警戒心を与えてしまう。

 それは即ち、作戦の失敗に直結する。もしもこの作戦でバットを仕損じれば、次に倒せる機会が巡ってくるとは限らないのだ。

 長い戦歴故の経験と、そして戦術眼で判断し……故にセラは、こうして適度に反撃を仕掛けつつ、あくまで劣勢を装いながらバット・バンディットから逃げていたのだった。

 それに、少しでもダメージを与えておきたいという思いもある。幾ら奴が普通よりずっと貧弱なもやしっ子といえども、油断は禁物だ。ショットガンの散弾、この距離では拡散しすぎて大したダメージも与えられないだろうが……それでも、当てないよりはずっといい。

「ちゃんと付いて来てくれて……良い子ね。さあ、こっちよ…………!!」

 そうしてセラは屋根から屋根へと飛びながら駆け抜け、やがて街中から郊外にある工業地帯へと辿り着く。

 工場の構造物や煙突を使い、更に飛び跳ねて――――そうしてセラは、工業地帯の片隅にある廃倉庫へと辿り着いた。

「来たわね」

 廃工場の屋根で立ち止まったセラが、すぐ目の前に着地したコウモリ怪人、バット・バンディットに対してニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせる。

 そうすれば、バットの方は醜い異形の顔できょとん、と不思議そうな顔をしていた。

 どうやらバット、完全にセラを追い詰めたと思っているらしい。故にセラがそんな顔をするのが不可解なのだろう。

 だが――――寧ろ、実際の状況はその真逆。追い詰められたのはセラの方じゃない、バットの方だ。

「今よ!」

 そんな風にバットが首を傾げている中、セラは虚空に向かって叫ぶ。

 すると……途端に廃倉庫の屋根が、セラとバットが立っている場所が内側から爆発した。

 唐突に巻き起こった爆発は、セラたちの立つ場所だけを綺麗に円形に切り取るようにして吹き飛ばし。そのまま屋根の一部が崩壊すると、セラとバット・バンディットは廃倉庫の中へと一緒に落下していく――――。

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