第九章:光の差す場所へ/05

「――――作戦概要を説明する」

 石神のそんな言葉を皮切りに、今回の作戦……バット・バンディット撃滅作戦の概要説明が始まった。

「まず作戦の第一段階として、撃滅目標……タイプ・バットが本能的に誘われるであろう特定周波の超音波を使い、奴の出現を誘発。標的が出現次第、囮役の神姫が奴を待ち伏せポイントまで誘い出す。ここまでが第一段階だ」

「ちなみに、奴が反応すると思しき特定周波数に関してだけれど。これは戒斗くんのアイデアを口頭で聞いた後、すぐに私と助手くんで解析を進めたんだ。結果……今現在で四〇パターンまで絞り込めている。作戦開始までには、まあ十パターンぐらいまで絞り込んでおくよ」

 続けて有紀が補足めいたことを口にした後、アンジェが「あの……」と恐る恐る手を挙げ、石神に向かってこう言った。

「その囮役、僕じゃ駄目ですか?」

 アンジェは自分が囮役を買って出ようとしたのだ。

 速度に秀でた自分なら、上手くバット・バンディットを引き寄せられる……そう思っての立候補だったが。しかし石神と有紀は「駄目だ」「駄目だね」と揃って首を横に振ってしまう。

「アンジェくんは速すぎるからね。手加減をしたところで、恐らくバット・バンディットでも追い切れないと思うよ」

「君の気持ちは分かる……だが今回の場合、適度な距離を保てるであろうセラくんの方がより適任なんだ。分かってくれ、アンジェくん」

「……そう、ですね。有紀さんと司令がそう仰るのなら」

「ま……本音をいえば、セイレーンにこの役をして貰うのが一番なんだけれどね。でも何処の誰だかも分からない以上はどうしようもない。今ある戦力でどうにかするしかないのさ」

 納得したアンジェがコクリと頷いた後、有紀がポツリとそんな言葉を漏らしていたが……とにもかくにも、作戦の第一段階に於いてバット・バンディットを引き付ける囮役は、アンジェではなくセラが担うらしい。

「……話を戻すぞ」

 コホンと咳払いをして石神は言うと、微妙に脇道に逸れていた話を元に戻す。

「作戦の第二段階だが、誘い出したところで奴を罠に掛け、待ち構えていたヴァイパー・チームと戒斗くんとでスタン・グレネードを投擲。奴の動きを封じた後、一斉射撃で撃破する。ここまでが作戦の流れだ」

「アンジェくんは予備要員として待ち伏せポイントの近くで待機。またVシステムだが……今回の作戦にはぶっちゃけ必要ない。だが万が一という可能性もあるから、アンジェくんと一緒に即応状態で待機させておくよ。イザって時は戒斗くんがいつでも着られるように準備しておく」

 ――――石神と有紀、二人の口から説明された作戦の内容を改めて纏めれば、こんな感じだ。

 まず第一段階。バット・バンディットが反応すると思われる特定周波数の超音波を用い、出現を誘発させる。そうしてバットが出現次第、囮役のセラが上手い具合に奴を待ち伏せポイントまで、戒斗たちが待ち構えているそこまで誘い出す。

 ……ここまでが第一段階だ。

 その後、第二段階。無事にバットを誘導できたら、そこで罠に嵌める。待ち伏せしていた戒斗とSTFヴァイパー・チームがスタン・グレネードを一斉投擲し、奴の動きを封じた後、怯む間もなく一斉射撃で撃破する。

 ――――ここまでが、今回の作戦の大まかな流れだ。

 無論、この筋書き通りにコトが運ぶ保証は何処にもない。ひょっとすれば戒斗の予想が外れ、スタン・グレネードがまるで効果を発揮しない可能性だってあるのだ。

 故に予備の戦力として、待ち伏せポイントのすぐ傍でアンジェと……Vシステムを即応状態で待機させておく。万が一の際にはアンジェがセラと協力して事態の収拾に当たり、同時に戒斗もVシステムを着装して二人を援護する。

 ――――――纏めれば、こんな感じの作戦だ。

「……以上が、本作戦の概要になる」

 そうした説明が一段落すると、石神は小さく息をつきながらそう言って。改めて戒斗やアンジェ、セラに有紀や南……そしてウェズも含めた皆を見渡すと、腕組みをした堂々たる立ち姿のままで皆にこう告げた。

「またこれ以降、本作戦を『オペレーション・デイブレイク』と呼称する。作戦開始は三日後の二○○○時ジャスト。各自、気を引き締めて当たってくれ」

 ――――オペレーション・デイブレイク。

 日本語に直すなら、夜明け……いいや、黎明れいめい作戦といったところか。光を嫌うバット・バンディットを撃滅する作戦の名前としては、これ以上なく相応しいだろう。

 そんな作戦名を告げる石神の言葉、訓示めいたその言葉を締め括りとして、この場は解散となった。

 オペレーション・デイブレイク――――――――作戦開始は、三日後。





(第九章『光の差す場所へ』了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る