第十四章:Through the Fire/05

 ――――時系列は前後して、少し前。

 既に神姫たちがバンディット三体と交戦を始めていた頃、採石場の入り口辺りに一台の四トントラックが滑り込んでくる。

 それはいすゞ・エルフのありふれたトラック。だが『P.C.C.S』と書かれた荷台の中の光景は、決してありふれたものではなかった。

「フルオート・ハンガー起動! ヴァルキュリア・システム、着装シークエンス開始!」

 荷台の中、備え付けられたデスクに座る南一誠の声が響き渡る中、荷台の後部に据えられたフルオート・ハンガー。何本ものロボットアームが動き出せば、ハンガーの中央に立つ戒斗の身体へ次々と漆黒の装甲が装着されていく。

 胸部アーマー、肩部アーマー、二の腕、前腕、腰部、大腿部、脚部…………。

 ロボットアームが動き、それぞれのアームに固定されていた装甲が身体に取り付けられていくに従って、戦部戒斗の姿は変わっていく。ただの人間から、異形の怪人と戦う漆黒の重騎士……人類守護の切り札、ヴァルキュリア・システムのものへと。

「アーマー固定完了、オートフィッティング開始! 生体認証確認、システム・オールグリーン!!」

「今回の状況も……そうだね、B装備で問題無さそうだ。助手くん、彼にレッドアイを」

「準備ならとっくに出来てるッスよ!」

「手際が良いね、流石は私の助手くんというワケか」

 デスクに着く南と、荷台の……支援トラックのキャビン内部に立ち、腕組みをして戒斗の様子を見守る有紀。二人がそう言い合っている間にも、戒斗の身体には遂に最後のパーツ。三本のブレードアンテナが目立つヘルメットが頭に装着されるところだった。

「着装、完了ッス!」

 南の声が響き渡るとともに、戒斗はフルオート・ハンガーから解放され。ガシャン、ガシャンと重々しい足音を立てながら、ゆっくりとその姿を現す。

 黒いボディ、真っ赤な眼。全身をVシステムの漆黒の装甲で包み込んだ彼の姿は、まさに鋼鉄の重騎士と呼ぶに相応しいものに変わっていた。

「南、状況は?」

 そんな姿へと変貌を遂げた戒斗は、ヘルメットの真っ赤なカメラアイ越しに南に視線を送りつつ、現地の状況を彼に問う。

「現在ガーネット・フェニックス、及びヴァーミリオン・ミラージュが交戦中ッス。またウィスタリア・セイレーンも状況に介入、お二人と共闘してるッス」

「で、敵の数は?」

「反応は三つ。いずれも以前に確認されたタイプ・スコーピオン、タイプ・コング、及びタイプ・ホーネットの三体ッス」

「…………要は、再生怪人って奴か」

「ありがちな展開だね」と横から有紀が茶々を入れてくる。「サソリくんはさておき、他の二体は一度アンジェくんたちが倒している相手だ。問題はなかろう?」

「かもな」

 戒斗は有紀に頷きつつ、フルオート・ハンガーの傍にあった鋼鉄の箱……支援トラック備え付けの兵装保管ケースへと歩み寄る。

 そうして戒斗が近寄ると、箱は独りでに開き始め。すると中からガシャンと大きな機関砲がスライドして出てきて、戒斗の眼前に姿を現した。

 ――――MV‐300E2、レッドアイ大型機関砲。

 六本の太い銃身を有する、Vシステム専用のガトリング機関砲だ。装填された二〇ミリ口径のバルカン砲弾、特殊徹甲焼夷弾ならば、例え相手がバンディットであろうと容易く引きちぎれる。

「この状況、好都合といえば好都合だ。戒斗くん、そのレッドアイを持って行きたまえ。今回は以前と違い、狙撃よりも機銃の方が役に立つはずだから」

「了解だ、先生」

 戒斗は小さく頷くと、そんな化け物じみた巨大なガトリング機関砲を掴み取り、左手で銃把を握り締めて携えた。

「リアハッチ開放だ、助手くん」

「了解ッス! 行くッスよ戒斗さん! ヴァルキュリア・システム起動! コンバット・オペレーション……開始!」

「――――オペレーション・スタートだ」

 固い足音を鳴らしながら、支援トラックのリアハッチを潜り抜け。戒斗はゆっくりと、しかし一歩ずつ、確実に踏み締めて歩き出す。

 ――――――ヴァルキュリア・システム、出撃。

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