第一章:BLADE DANCERS/06

「……何のつもりですか」

 遥は背中にショットガンを突き付けられている状況でも、顔色ひとつ変えることはなく。まるで恐れを見せない表情で背後に振り返ると、あくまで冷静な語気でセラに問う。

「どうもこうもない! あのタイミングで撃っていれば、全部一気に仕留められた!」

 そんな遥に対し、セラはショットガンを突き付けた右腕を下ろさないまま、やはり荒げた声で怒鳴りつける。

「そうでしょうね」

 だが、遥はやはり冷静な声のまま。しかし何処か冷たい視線を後方のセラに注ぎながら言うと、

「…………ですが、その代わりに無関係なヒトが大勢巻き込まれていたでしょう。まだ逃げ遅れたヒトが居ますから」

 と、至極冷ややかな声音でセラに囁いた。

「そんなの、何処に……!」

「あそこです」

 言って、遥はスッとある場所を指さす。

 そんな風に遥の人差し指が示す先には――――車の影に身を潜めて隠れていた、怯えた様子の三人の小さな子供たちの姿があった。

 この立体駐車場で遊んでいたのだろうか。騒ぎが起こり、逃げようにも腰が抜けて逃げられなかった……といった感じの様子だ。

「もう大丈夫ですよ、怖い怪物なら私たちがやっつけちゃいましたから」

 遥はショットガンを突き付けてくるセラを無視し、そんな三人の子供たちの元に歩み寄ると……すぐ傍にしゃがみ込んで、怖がる子供たちを抱き締めてやる。もう怖くないよ、大丈夫だよ……と宥めるように、慈愛に満ちた笑顔を浮かべながら。

「大丈夫、もう怖いことなんてありませんから。本当なら私が皆さんをお家に送ってあげたいところですが……残念ながら、私たちはあまり人目に触れられないんです。

 でも、大丈夫ですよ? また怪物が襲ってきても、すぐに私が駆けつけます。絶対に、私が皆さんを守りますから。だから、今日は安心してお家に帰ってください」

 優しい笑顔で子供たちの頭を撫でて、立ち上がり。そして遥は改めてセラの方に振り返ると、戸惑う彼女にこう告げた。

「確かに、あの場で貴女が撃っていれば……バンディットは全て倒せていたでしょう。この子たちを犠牲にして。

 ――――――――――貴女は、それでも良かったのですか?」

「そ、それは……っ!」

「この際、ハッキリ言わせて貰います。――――ガーネット・フェニックス。貴女の乱暴な力では、誰も何も守ることなんて出来ません」

 彼女にしては珍しいぐらいに冷たい声音で遥は言って、最後に子供たちにもう一度笑顔を向けると……遥はそのまま、立駐から飛び降りて姿を消した。

「…………」

 うつむき、立ち尽くすセラに、残されたアンジェと戒斗の二人は声も掛けられないまま。ただ、互いに顔を見合わせる。

「アタシは……何も、守れない…………………………?」

 絶望しきった顔でガックリと膝を折る彼女に、二人は掛ける言葉もなかった。





(第一章『BLADE DANCERS』了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る