エピローグ:すべては君を愛するために/03

 ――――放課後、私立神代学園の校舎屋上。

 そこにある貯水槽の上に立ち、吹き込む風に吹かれながら……肌を撫でる、真っ赤なツーサイドアップの髪を揺らす風に吹かれながら。セラフィナ・マックスウェルは独り、複雑な表情でそこに立ち尽くしていた。

(……アタシは、どうしたら良いんだろう)

 金色の瞳で、切れ長の双眸で遠くの景色を見つめながら。茜色に染まる夕焼け空を見つめながら、セラは独りこの場所で思い悩んでいた。胸中に渦巻く複雑すぎる思いを誰にも打ち明けられないまま、彼女はただ一人、この場所で悩み続けていた。

(アタシは、他の神姫なんて認めたくないの。アンジェもだけど、ホントのことを言えば……戒斗の奴にだって、戦って欲しくなかった。でも一番認めたくないのは……やっぱりアイツ、ウィスタリア・セイレーンのこと)

 そう思いつつも、セラはあの時彼女たちと……アンジェやセイレーンと一緒に戦っていて、彼女たちに背中を預けていて、確かに頼もしいと思えてしまっていた。彼女たちに背中を預けている中で、他の神姫たちとともに戦う中で……セラは一種の心地良さを感じていたのだ。

 それはまるで、あの頃のように――――シャーロットや、そして死んだ妹のキャロル・マックスウェルと一緒にバンディットと戦っていた頃のように。

 だからこそ、セラはもう自分で自分のことが分からなくなってしまっていたのだ。アンジェのことを複雑に思い、そしてセイレーンを……遥を敵視している中で、でも彼女たちと一緒に戦うことに心地良さを覚えてしまったから。

 それに、戒斗のこともある。

 彼までもがあのP.C.C.Sの切り札たるパワードスーツ、ヴァルキュリア・システムを身に纏い、そして戦いの場に赴いてきてしまった。

 そんな戒斗のこともまた、受け入れたくないと思っている自分が確かにセラの中には居た。

 もうこれ以上、誰かをバンディットとの戦いに巻き込みたくないと思っている自分自身が。もう二度と、キャロルの時のような悲しみを繰り返したくないと思っている、そんな自分自身が…………。

 だからこそ、セラはどうしたら良いのか分からないでいた。

 どうしたら良いのか、分からない。自分はこれから彼女たちと、アンジェやセイレーン、それに戒斗とどう接していけば良いのか、それがセラは分からないのだ。

 本当にこのままで良いのかが、どうしても分からない。このまま自分一人だけ意地を張り続けていて、本当に良いのかが…………。

「…………分かってる、分かってるわよキャロル。でもね、それでもアタシは認められないの。もうアタシたち以外の神姫なんて、この世界には必要ない。もう二度と……あんな悲しみは、キャロルの時みたいに大切な誰かを失うのは……御免なのよ」

 吹きつける、少し冷えた風の中。そんな風に頬を撫でられながら、虚空に向かってひとりごちる彼女の声音は――――あまりにも哀しく、そして悲痛なものだった。

 ――――それでも、それでも認められない。認めたくない。

 だって、もう……誰も失いたくないのだから。

 失うぐらいなら、いっそ仲間なんて……自分以外の神姫なんて、必要ない。誰にだって頼りはしない。全て自分でカタを付ける。何もかも、この自分の手で殲滅し尽くす…………。

「アタシは……アタシからアンタを奪ったバンディットを、この世から一匹残らず消し去ってみせる。誰の手も借りない。アンジェも、セイレーンも……必要ない。アタシ自身の手で、アタシが全てに決着を付ける。

 だからキャロル、見ていて頂戴……? お姉ちゃんが、全部やっつけてあげるから………………」

 セラフィナ・マックスウェルの哀しみに満ちた呟きが、夕刻の風の中に吹き消えていく。

 茜色の夕焼けに照らし出される中、風に揺られる紅蓮の如きツーサイドアップの長い髪を透かしながら。セラは一人きりで貯水槽の上に立ち尽くしていた。ひとりぼっちのまま、たった一人きりのまま、孤独すぎるほどに孤独なままで………………。

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