第十二章:苛烈なる戦いの嵐の中で/02
「アンジェ、この辺りよ!」
「うん……!」
続いてセラとアンジェが現着したのは、それから少し経ってからのことだった。
遥が降りた場所から少し離れた別の場所に、セラは真っ赤なゴールドウィングF6Cのクルーザーバイクを、やはり横滑りさせながら停める。
ギャァァッと派手なスキール音を立てて停まった図体の大きなバイクからセラとアンジェ、二人がヘルメットを脱ぎながら降りた。
「酷い……!」
「よくも……よくもこんなことをぉっ!!」
そうしてバイクから降りれば、目の当たりにするのはバンディットの大群と、それに対したった一人で果敢に立ち向かう遥の大立ち回りと。そして……想像を絶するほどに凄惨な光景。
血溜まりの中に沈む、大量の警官たちの
そんな凄惨な光景を目の当たりにして、しかし目を逸らさず見つめながら……アンジェは小さく歯を食い縛り、そしてセラは激昂の雄叫びを上げる。
「行くわよ、アンジェ!」
「うん、行こうセラ……!」
そうすれば、セラとアンジェは頷き合い。セラは腰に引いた両手をクロスする形で突き出し、手の甲をくるりと見せつけるように回して構え。そしてアンジェは左手を……遥と同じように胸の前に構えた。
すると、セラは両手に赤と黒の。アンジェは左手の甲に赤と白のガントレットが閃光とともに浮かび上がる。
フェニックス・ガントレット、そしてミラージュ・ブレス。
二人が手にした力、彼女らが神姫であるその証を出現させると、二人は各々の構えを取って変身する。
「重装転身!」
「チェンジ・ミラージュ!!」
セラは構えた両腕を、怒りに燃える雄叫びを上げながら再び腰まで引く。
アンジェは左手を構えた格好から一度腕を右腰まで引き、その後で右手を前に突き出し。そのままくるりと手首を内側に回して握り拳を作ると……そのまま両腕を横に振り。身体の右側、顔の横辺りで握り拳を作った両手を構える。
そうして二人が構えた瞬間――――セラとアンジェ、二人の身体が高鳴る唸り声とともに閃光に包まれて。一瞬の瞬きが収まれば、二人の姿はそれぞれ神姫のものへと変貌を遂げていた。
――――赤と黒の神姫、ガーネット・フェニックス。
――――赤と白の神姫、ヴァーミリオン・ミラージュ。
二人とも基本形態のガーネットフォーム、そしてミラージュフォームだ。セラは両手に呼び出したレヴァー・アクション式のショットガンの銃把を握り締め、アンジェは腕のアームブレードと脚のストライクエッジ、固定装備された四振りの刃を煌めかせる。
「このぉぉぉっ!!」
そうして変身すれば、セラは間髪入れずに叫びながらバンディットの群れへと突っ込んでいった。
「気持ちは分かる……だから、今日は合わせるよ!」
怒りのままに突撃を敢行したセラに続き、アンジェも両腰のスラスターを吹かして敵の大群へと飛び込んでいく。
「全員纏めて、地獄送りにしてあげる!」
先行して突撃したセラは敵陣の横腹を突く形で一気に懐に飛び込むと、両手のショットガンをくるくると忙しなく回しつつ、一撃、また一撃とコフィンの腹に散弾を叩き込む。
流石に一撃で致命傷には至らないが……それでも、これで敵の勢いは幾分か削がれた。
「でやぁぁぁぁっ!!」
そんな風に突っ込んでいったセラに続き、アンジェもスラスターの加速に身を任せながら、凄まじい速さで敵の懐へと潜り込んでいく。
決して立ち止まることはしない。アンジェはスラスターを吹かしたまま、擦れる足裏から火花を散らしつつ地面を滑走し……そうしたすれ違いざまに腕のアームブレードを振るい、時には回し蹴り気味にくるりと三六〇度回転してみたりなんかしつつ、脚のストライクエッジも使いながらコフィンを次から次へと斬り裂いていく。
無論、これもまた一撃で撃破とはいかない。
いかないが……今はまだ、これでいい。全員が合流するまでは、これで良いのだ。
「お待たせ!」
そうして敵陣のど真ん中を突っ切ったアンジェは、先に戦っていた遥の傍へと火花を散らしながら滑り込む。
「……! ご助力、助かります……!!」
するとアンジェの加勢に気付いた遥は左手で聖槍ブレイズ・ランスを振るいつつ、横薙ぎの一閃でコフィン三体を纏めて撃破しつつ……隣にやって来たアンジェに横目の視線を流しながら、彼女に小さく頷き返す。
「うん!」
アンジェもそれに薄い笑顔で頷き返しながら、ハイキックの三連撃を目の前のコフィンにお見舞いし。脚のストライクエッジで胴体を両断し爆発四散させ、見事に撃破してみせる。
「でりゃぁぁぁっ!!」
二人がそんなやり取りをしている間にも、同じく走りながら両手のショットガンを撃ちまくり、コフィンを何体か撃破しつつ……セラもまた遥の傍に、彼女の場合は遥と背中合わせになるような形で滑り込んできた。
「ガーネット・フェニックス、貴女まで……!?」
「勘違いしないで! セイレーン、アタシは今でもアンタを倒したくてウズウズしてるのよ!!」
そんな風にセラまでもが加勢に現れたものだから、遥は驚いた顔で彼女の方に小さく振り返るが。しかし背中を合わせたセラは遥を見ないまま、激しい語気で背中合わせの遥に叫び返す。
「でも、こんな最低過ぎる状況で四の五の言ってもいられない……! だから、セイレーン! 今だけはアタシに力を貸しなさい!!」
両手のショットガンを撃ちまくりながら、くるくるとスピンコックさせて再装填しながら……続き、セラは遥に対してそんなことも口にした。
「……ええ、そうですね」
遥はそんなセラに小さく頷き返し、
「私も貴女に対しては色々と思うところがあります。ですが……分かりました。今は共に戦いましょう、ガーネット・フェニックス」
と、振り返った顔に柔な笑顔を浮かべながら、続けて遥は背中合わせのセラにそんなことを告げる。
「終わったら、今度こそアンタのことを訊かせて貰うわ!」
「それは貴女の態度にもよります……!!」
「冗談! 問答無用に決まってるでしょうが!」
「でしたら、お答えすることは出来ません…………!!」
「無理矢理にでも吐かせてやるから、首洗って待ってなさいな!」
「二人とも、喧嘩してる場合じゃないよ!?」
そうして一時的な共闘を約束し合ったのも束の間、気付けば遥とセラはこんな風な言い争いを……何故か背中を合わせたままで始めるものだから。アンジェは困惑しつつ、目の前のコフィン数体を両手足の刃で斬り刻みつつ二人に呼び掛ける。
すると――――。
「分かってる!」
「分かってます!」
ショットガンを撃つセラと、ランスを振るう遥。二人が同時にアンジェの方に振り向きながら、完璧に同じタイミングでアンジェに叫び返していた。
びっくりするぐらいに同じタイミングで、だ。セラと遥の声が重なり合い、まるで一種のハーモニーのように聞こえるレベルで完璧に同調したタイミングだった。息が合っているとか、もうこれはそういう次元じゃない。
「……二人とも、ひょっとして仲が良いんじゃないの?」
そんな風に遥とセラの息が合いすぎていたものだから、アンジェは呆れ顔でそう呟くが。
「ハッ、まさか! 冗談も休み休み言いなさいよね!」
「仲良くなれるかは、これから次第です!」
互いに別の敵と交戦しながらな二人の反応といえば、こんな風なもので。傍から見ているというか、聞かされる立場のアンジェからしてみれば…………。
「…………うん、喧嘩するほど仲が良いってパターンかもね、これは」
どう考えてもそうとしか思えなくて。他にアンジェが出来ることといえば、呟きながら苦笑いを浮かべ、反発し合う二人にただただ呆れ返ることだけだった。
「とにかく! 二人とも……覚悟は!?」
「私は、私の守るべき笑顔の為に戦います! それは……変わりませんから!!」
「聞くまでもないよね、そんなことっ!」
「上等! なら……ブチかますわよッ!!」
頷く二人にセラはニヤリと不敵な笑みを返した後、重砲撃形態のストライクフォームにフォームチェンジをする。
同時に遥は基本形態のセイレーンフォームに、アンジェは速度特化のヴァーミリオンフォームへと変化。セラは全身の重火器を構え、遥は虚空より呼び出した聖剣ウィスタリア・エッジを振るい。そしてアンジェは新たに召喚した短剣型の武器……ヴァーミリオンフォーム用の短剣『ミラージュカリバー』を両手に逆手持ちの格好で握り締めた。
「アタシが後ろから援護する! アンジェ、それにセイレーン! アンタたち二人は好き放題暴れなさいッ!!」
「分かったよ……任せて!」
「……背中は、貴女にお預けします!」
「オーケィ、任されて! んじゃあ一発派手に――――ミサイルコンテナ、フルオープン!!」
ニヤリとしたセラは両太腿のミサイルポッドを解放し、格納されていたマイクロミサイルを景気よく全弾一斉に発射する。
そんな一斉射を合図に、重火力型のセラを後衛として……彼女に背中を預け、遥とアンジェの二人がバンディットの群れへと飛びかかっていった――――。
(第十二章『苛烈なる戦いの嵐の中で』了)
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