第八章:揺れ動く紅蓮の心に金色の少女は何を見るか/01

 第八章:揺れ動く紅蓮の心に金色の少女は何を見るか



 アンジェたちがP.C.C.S本部に連れて行かれてから数週間、特にバンディットの出現もなく、皆拍子抜けするぐらいに平穏な日々を送っていた。

「…………」

 そして、今日は平日。四限目の終了を告げるチャイムが鳴って昼休みが訪れると、すぐにセラは無言のままで三年A組の教室を足早に出て行ってしまう。

「セラ……」

 早足で廊下へと消えていく彼女の背中を、席に着いたままのアンジェは複雑な表情で見送っていた。

 ――――実を言うと、ここ数週間はアンジェとセラ、二人ともロクに会話を交わしていない。

 その理由はアンジェ自身にもよく分かっている。あの赤と黒の神姫が……ガーネット・フェニックスが彼女であったのなら、敢えて本人に訊くまでもなく自ずと分かることだ。

 だから、アンジェとしてもかなり話しかけづらかった。

 アンジェが話しかけづらい理由は単純だ。どうしてセラが遥を、そして神姫に覚醒してしまった自分をああまで敵視するのか、その理由が分からないから。

 究極を言えば、お互いまだ正体を知らない遥が相手ならば分からなくもない。だが……どうして、気心の知れた仲であるはずの自分にまで、ああも辛辣な態度を取るのか。

 分からない。分からないが……でも、セラが時折浮かべる思い詰めたような顔から、並々ならぬ事情を彼女が抱えていることも窺える。

 それこそ、今教室を出ていった時の横顔のようにだ。今も彼女はアンジェをチラリと一瞬だけ見た時、凄く思い詰めたような表情を浮かべていた。

 自分や遥をああも敵視し、辛辣な態度を取る理由は数週間が経過した今も尚、分からずじまいだ。

 しかし、セラがとんでもなく深い理由わけを抱えていることもまた、察している。

 だからこそアンジェはどうにも彼女に話しかけづらくて、結局今日まで殆ど言葉を交わさずじまいだったのだ。

 でも――――――このままじゃ、いけない。

「……そうだよね、カイト」

 小さくひとりごちて、アンジェは机に引っ掛けていたスクールバッグから取り出した弁当の包みを片手に、セラの後を追って教室を早足で出て行った。

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