傍若無人
王と王妃がいないのをいいことに、ルブルースはまるで自分が王であるかのごとく傍若無人に振舞った。
勝手に執務室に居座り、大臣や係官を呼びつけては、自分の思うままに差配し始めたのである。
「ホエウベルン領の税についは今の半分で良い。それで足りない分については、ルパードソン領の税を倍にすることで賄え」
などと、王位を逃したことの腹いせに、ウルフェンスのルパードソン家が治める領地に対して重税を課すように申し付けたりもした。
ただ、ここで真面目に働かないのが今のセヴェルハムト帝国のセヴェルハムト帝国たるゆえんと言うべきか、ホエウベルン領の税については確かに半分にはしたものの、だからといってルパードソン領の税を倍にまではしなかったのである。
そんなことをしてルパードソン家に睨まれては敵わないと、ホエウベルン家に対して強い態度に出られない貴族が治める領地の税を少しずつ上げ、数字の上だけで帳尻を合わしたのだ。
実にいい加減ではあるものの、なぜかこういう時だけは助かるというのもこの国の現状だった。いい加減なのはいい加減なりにバランス感覚だけはあるということなのかもしれない。
ウルフェンスの留守を預かっているルパードソン家の家臣達は、一割にも届かないとは言えいきなり税を上げられたことに反発はしながらも、当主であるウルフェンスから、
「私の留守中に何かあっても軽挙妄動は避けるように。ホエウベルン家が何かしてくるかもしれないが、それについても私に知らせてくれるだけでいい。
分かったな?」
と強く言いつけられていたことで、使いの者は出しつつも、敢えて動くようなことはしなかった。
この時点で事を構えても、王位継承権を持つ家系という強大な権力が相手では、それを失った今のルパードソン家が敵うはずもない。今はとにかく雌伏の時ということだ。
使いの者は、一週間を要してウルフェンスの元に辿り着き、ルブルースの横暴を報告する。
「……そうか…
報告ご苦労」
短くそう応え、使者に休息を取ってから帰るように命じた。
そしてミカにも、
「ルブルース様が……」
と報告。しかし彼女は、特に表情を変えることもなく、
「……想定の範囲内だな……」
などと応えただけだった。
それから歓迎の晩餐会に出席し、いつもと同じく冷淡な様子で、リオポルドの脇に控えていた。
ウルフェンスは、てっきりもっと機嫌が悪くなるかとも思っていたので、やや拍子抜けした気分だったものの、その落ち着いた様子に逆に薄ら寒いものを感じずにいられない。
とは言え、今は何も言ってこないので、彼としてもただ見守るしかできなかったのだった。
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