本当の名前

 授業中に居眠りをしていたら、いつの間にか放課後になっていた。

 残念ながら寝て起きても異世界には戻れなかった。


「……帰るか」


 欠伸をしながら教室を出る。と、不意に背中をたたかれる。

 一瞬身体が硬直したが、今の俺はバーサーカーじゃない。この程度じゃ死にはしない。


「帰るの、神崎?」


 ――神崎。


 はっとした。

 そうか。俺の名前は――

 異世界では何故か名前を忘れていた。バースって名前はチェリーコードがつけてくれたんだっけ。


「ねぇ、神崎ってば」


 振り返る。

 そこにいたのは、幼馴染の葦原。見た目こそギャルっぽくなってしまったが、中身は昔から変わらないいいやつだ。


「帰るなら一緒に帰ろ」


「あ、ああ、いいよ」


「どうしかした? 今日元気ないみたいだけど」


「いや、別に。帰るか。寄り道はしねぇぞ」


「えー」


 帰り道、葦原は小腹が空いたと言って店の前でいちいち立ち止まったが、俺は無視してさっさと家を目指した。


「神崎ー、何か食べて帰ろうよー」


「勘弁。今月余裕ないんだよ」


「いいじゃん。お腹空いたー」


 葦原の粘りに負けてクレープをおごると、ようやく大人しくなってくれた。俺と一緒に帰りたがったのはこのためだろう。

 家に到着。

 しかし、葦原はにやにやしながら俺の家に入ってきた。


「なんだよ、帰らないのか?」


「ちょっと相談に乗ってあげようと思って。クレープのお礼」


 どうやら葦原には見透かされていたようだ。

 本心を言うと、誰かに相談したかった。そうでもしないと、この心のもやもやは到底消せそうになかった。


「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

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