登校

 枕元のスマホを掴む。

 通知は来ていない。ということは、俺が異世界にいた時間は現実世界では経過していない。

 放心していると落ち着いてくるもので、俺は多少なり冷静さを取り戻していた。

 異世界は夢か現か定かじゃない。でも、俺の記憶には鮮明に残っている。今はそれでいい。

 問題はこれからどうするか、だ。

 この世界には依頼もないし、目的もない。守るべき人もいない。ただのうのうと生きていくだけだ。


 ――この世界の俺には何もない。


 気がつけば、俺は学校の制服に着替えていた。身体に染みついた習慣は怖いものだ。

 こんな時でも俺の身体は学校へと向かっていた。

 それもそうか。俺はただの高校生。ランカーでもなければ殺し屋でもない。今の俺には並外れた力も魔眼もない。

 戻りたい。異世界に戻って、チェリーコードと一緒にいたい。

 今は異世界に戻ることだけを考えろ。

 わずかながら希望はあった。

 寝て起きたら異世界に飛ばされていたのだ。戻り方こそわからないが、ちょっとしたきっかけで戻れるのかもしれない。

 とりあえず、何か掴めるまでは日常を過ごしてみるか。

 俺は校門をくぐり、深い溜め息を吐いた。

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