バカンスの終わり
荷物はまとめた。
港に到着すると、船は既に泊まっていた。
いよいよこの街ともおさらばか。名残惜しいけど、もう決めたことだ。ここにい続けたら地に足がついてしまう。俺はまだ止まるわけにはいかない。俺には目的がある。
街の景色を背に、船へと乗り込む。
すると、遠くから少女の呼ぶ声が聞こえてきた。
港に駆けてきたのはクローディア。息を弾ませながらデッキへと上ってくる。
「よかった、間に合った! お兄ちゃん、行っちゃうの?」
「ああ。元気でな、クローディア」
「あの、お兄ちゃん、一つお願いがあるんだけど――」
「駄目だ」
「まだ何も言ってないよ!」
「どうせついていきたいっていうお願いだろ?」
「う、うん……」
「はぁ、だから君には何も言わずに街を出ようと思ったんだ。さてはクロードだな」
俺はしゃがみ込み、クローディアの目線に合わせた。
「クローディア、君はここで暮らすんだ。君にはパパとママがいるだろ? 君がいなくなったら二人が悲しむ」
「そうだけど……私も旅をしてみたいの。お兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒にいると楽しいし、ずっと一緒にいたいって思ったの」
「楽しいことばかりじゃない。俺が受ける依頼はいつも危険と隣合わせだ」
「それでもいいよ。お兄ちゃんは強いでしょ」
「俺はそんなに強くない。俺には誰かを守れる力なんてないんだ。か弱い女の子を連れていく余裕はない」
きっぱりそう断言するとクローディアはしゅんとなったが、すぐに顔を綻ばせた。
「私、お兄ちゃんを守れるくらい強くなる! そしたらお兄ちゃんのパーティーに入れてくれる?」
「ああ、もちろん。それまで待ってるよ」
クローディアは船を下りた。笑顔で手を振り、俺も手を振り返した。
この街とも寂しがりな少女とも切り裂き魔ともお別れだ。また会おう、束の間のバカンスよ。
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