囮作戦
「ちょっと! なんで私が囮なのよ!」
ランタン片手に睨んでくるチェリーコードをたしなめつつ、ハンドガンにマガジンを装填する。
ザ・リッパーが路地裏に出るなら待ち伏せてしまえばいい。チェリーコードには申しわけないが目立つようにランタンを持たせて、俺は角からハンドガンでザ・リッパーを狙う。
路地裏に人間の影は一つもなかった。ザ・リッパーの噂が広まっているため、命が惜しい者は誰も外に出ようとしなかった。
「ザ・リッパーが来たら絶対助けてよね。殺されたら幽霊になって呪ってやるんだから」
「安心しろ、俺が守るよ」
「……女の子を囮にした男の台詞じゃないわね」
「そういうなよ。じゃあ、俺はあの角に張り込んでおくから」
ザ・リッパーが現れるのを待って一時間。
チェリーコードは退屈そうに欠伸をし、ぶるりと肩を竦ませた。
昼は暑いくらいだが、夜になるにつれて冷え込んでくる。
やれやれ、今日に限ってザ・リッパーは現れないらしい。このままじゃ風邪を引きそうだし、今日は撤収だな。
ハンドガンを懐にしまおうとすると、路地裏の奥から何やら音が聞こえてきた。ひたひた――石畳を裸足で歩く足音だ。
ランタンが暗がりの中に佇む影を照らし出す。
金髪、碧眼。鮮血に染まった白いドレス。片手には血に塗れた刀、もう片方の手には鞘。顔は長く乱れた髪に隠れてよく見えないが、華奢な身体つきから女だと思われる。
あれがザ・リッパーか。
チェリーコードが後退り、壁際に追い込まれる。涙目でこちらに目配せしてくる。
俺はハンドガンの銃口をザ・リッパーへと向けた。
ランタンのおかげでザ・リッパー側から俺は見えない。
狙うは頭部。この距離なら魔眼を使うまでもない。
ザ・リッパーが刀を振り上げる。銃声が路地裏に反響する。
刹那、金属と金属がぶつかり合う歪な音が鼓膜を震わせた。
「ちっ、仕留め損なったか!」
弾丸は正確にザ・リッパーの頭部を穿たんとしていた。が、やつは常人離れした反射神経で刀を振り、弾丸は刀身を折り砕いて消えた。
俺は駆けた。自分の身が脆いことを承知で、ザ・リッパーと相討ちになることを覚悟で。
しかし、運よくザ・リッパーは攻めてこなかった。やつは身を翻して走り去っていった。
「はぁっ、死ぬかと思った……」
チェリーコードは壁にもたれかかりながら崩れ落ちた。
「ザ・リッパーって、幽霊みたいな女だったのね……いろんな意味で怖かった……」
「怪我はないか、チェリーコード」
「怪我はないけど、腰が抜けちゃったわ」
「おぶるよ。帰ろうか」
結局、ザ・リッパーを逃がしてしまった。得られた手がかりは特になし。次はいつ現れるのかさえわからない。
俺は千載一遇のチャンスを逃してしまったのかもしれない。
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