第11話 ありはり堂強襲

 市街地を疾駆する三台のオートバイ。

 

 先頭を走っているのは青/白ツートンカラーのBMW/R1250GS/アドベンチャー。乗ってるのは黒いレザースーツに身を包んだヴァイス。

 

 二台目はSUZUKI/GSX1300Rハヤブサ。時速300km/hを余裕で越える世界最速の市販マシン。この白いマシンのカウリングには漢字で大きく隼と記載されている。乗っているのは白いレザースーツに身を包んだブランシュ。


 三台目は激しく白煙を噴き上げて疾駆する2ストロークマシン。赤/白ツートンカラーのフルカウルには誇らしげにYAMAHAとV4のデカールが輝く。このマシンは80年代に、当時のGPマシンを市販化したRZV500R。乗っているのは赤いレザースーツに身を包んだグレイス。しかし、何故かヘルメットの上には狐耳がぴょこんと飛び出ているし、腰の部分からは狐のもふもふしっぽが飛び出ている。


 三台のオートバイは市街都地の道路を、車を交わしながら疾走していた。彼女たちが向かっているのは、神田にあるアリ・ハリラー党の拠点だ。


 神田に多く立ち並ぶ古本屋。その中にある雑居ビルの脇にオートバイを駐車し、中へと入っていく魔女っ娘三名だった。


 三人は非常階段を上り、最上階へと向かう。そこには「萬屋よろずやありはり堂」と看板が掲げられていた。


「露骨なネーミングね」

「センスの欠片も感じない」

「しかもほら、そこの但し書きが!」


 ヴァイス、ブランシュが呟く。そしてグレイスが指さした先に書かれている文言にはこうある。


『※R18専門店※

 取り扱い商品には成人指定のものが多く含まれます。入店の際には年齢確認をさせていただいております。免許証や身分証明書の提出をお願いしております。』


「露骨ね」


 ヴァイスがため息をつく。


「しかも、身分証の提示を義務付けるなんて、これも露骨な個人情報収集の手段じゃないの」


 グレイスが眉をひそめる。そしてブランシュはと言うと。


「どんなもの売ってるのかな? きっと普通のお店じゃ買えない珍しいものだよね」


 ピクピクと狐耳を震わせ興味津々であった。


「いかがわしいモノばかりだと思うわ。多分、アリ・ハリラー好みの変態グッズばっかりよ」

「そうなの? でも見てみたい」


 ブランシュにたしなめられるものの、グレイスの興味は尽きないようだ。ヴァイスは右手で二人を制してからドアをノックする。


「はーい。どうぞ!」


 元気のよい成人男性の声がした。

 ヴァイスはドアを開け中へと向かう。ブランシュとグレイスもそれに続いた。


 部屋の中には白衣を着た男性がいた。落ち着いた中年で、眼鏡をかけているその姿はいかにも科学者といった風であった。


「ようこそいらっしゃいませ。当店の取り扱い商品はフィギュアや等身大の人形、各種ロボットやドローンとなります……あっ!?」


 その男性はにこやかに応対していたのだが、ヴァイスの姿を見た途端に硬直した。


「な……何故ここが分かったのだ!?」

「あんな看板掲げていれば一目瞭然ですわ。ドクター・ノイベルトさん」


 目を丸くして後退りするノイベルト。

 彼に対してブランシュが質問する。


「ところで……この等身大のフィギュア。誰がモデルなのか丸分かりなんですけど」


 ブランシュが指さす方向には、白いドレスを着た身長140㎝程度の少女を模したフィギュアがいた。金髪を短めのツインテールにしている。 


「そ……それは……他人の空似と言うやつだろう……決して……ララ室長をモデルにしたわけではない」


 必死に言い訳をしているノイベルトにお構いなく、グレイスはそのフィギュアをつつく。


「わあ。柔らかいし肌もすべすべだよ。この手、ちっちゃくて凄くかわいいし、本当に室長そっくりだね♡」


 などと言いながらフィギュアの頬を撫でまくっているグレイスだった。


「それはまだ試作品で……近いうちに音声機能を搭載する予定だ。AIの設定次第で塩辛対応も甘々対応も可能だ……あと二か月待ってほしい」

「甘々の室長だって! ねえブランシュ姉さまも大好きだよね」

「そっ……それはそうだけど。ちょっと欲しいかも……」

「それではこちらの予約表にご記入を」


 用紙をセットしたバインダーとボールペンをグレイスに渡そうとするノイベルトだったが、その彼に対してヴァイスは拳銃を突きつけた。


 ヴァイスの手の中には小型のリボルバー、S&Wチーフスペシャルが握られていた。


「商売熱心なのは良い事だけど、それではララ室長の逆鱗に触れますよ」


 淡々と語るヴァイス。しかし、ノイベルトは顔面蒼白となり額には脂汗がにじんでいた。


「こ……これは命令されてやっているだけなのだ。ララ室長には内密にしてほしい」

「内密にね。だったら質問に答えなさい。例の魔石についてよ」

「魔石については答えられない」

「そう?」


 冷めた口調で答えるヴァイス。そして彼女は撃鉄を起こす。


「撃たないでくれ。魔石はここにはない」

「本当かしら」

「本当だ。それと、重要な情報を教える」

「何?」

「だから……だからララ室長には黙っていてくれ」

「フィギュアの事ね」

「そうだ」


 その言葉に頷いたヴァイスは拳銃の撃鉄を戻す。


「この事はララ室長には黙っててあげる。だから話して頂戴。その重要な情報を」

「わかった」


 観念したのか、ノイベルトが話し始めた。


 魔石に関しては、元締めのアリ・ハリラーと謎の少年アール・ハリ・アルゴルとの間に交わされた何かの盟約により行動している事。人的被害が大きいため、アリ・ハリラー党としては積極的に関わるべきではないと提言した事。しかし、そのせいで今回は職務から外され留守番を任されている事など。


「そしてこれが本当に重要な事だ。今、エクセリオンシリーズを使って例のリラ工房へと向かっているのだ。あの人型機動兵器を使って、強引に魔石を取り戻す作戦だ」

「何機?」

「三機だ。エクセリオンの1号~3号が出撃した。これを沈黙させるには自衛隊の対戦車ヘリが一個中隊ほど必要だ」

「八機か?」

「そうだ。リラ工房は降伏するしかないだろう」


 歯ぎしりをするヴァイス。

 魔石を預けたリラ工房への襲撃は予想していた。そしてそれは夜間であると。つまり、日中にアリ・ハリラー党の拠点を強襲できれば、その可能性を排除できると踏んでいたからのだが、拠点はほぼ抜け殻であり襲撃作戦は既に開始されていた。


「直ぐにリラ工房へと向かう」

「このおじさんは逮捕しないのですか?」

「放置だ」

「室長のフィギュアを持って帰っちゃダメかな」

「死にますよ」


 ブランシュの質問には淡々と、グレイスの質問にはやや語気を強めて応えるヴァイスだった。


 そしてノイベルトに向かって呟く。


「ここには明日捜査が入ります。それまでにこのフィギュアは片付けておくように。バレた場合、命の保証はしません」


 颯爽と部屋から出ていくヴァイス達三名。ノイベルトは深く頭を下げ、しばらくその姿勢を保っていた。

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