第9話 真打登場!

「いやーん。触らないで! あれ?? 魔法が発動しない! 姉さま!!」

「不味いわね。ステッキが無くても小規模な魔力は引き出せるのに。多分、このロープが魔力を吸収しているのよ」


 スーツ姿の隼人が笑っている。


「その通りだ。そのロープは魔力を吸収する特別製でな。魔女っ娘には相性が悪い代物だろうよ」


 ひょろ長男とデブ男は二人の魔女っ娘への凌辱を続ける。

 ブランシュとグレイス、二人の魔女っ娘の悲痛な叫び声が倉庫内に響く。ツインテールとデラックスは笑いながらその行為を見つめていた。


「さっさと犯っちまいな!」

「その後で折檻してやる。五体満足でいられたらいいなあ! ひゃはははは!!」


 下卑た笑い声を上げるツインテールとデラックス。男二人が凌辱を終わった時点で、更に暴行を加えるつもりなのだろう。


 その時、倉庫内に粉雪が舞い始めた。


 白く細かい結晶が周囲に渦を巻く。倉庫内の温度は急激に低下していった。周囲の車両は凍り付き、燃え盛る炎まで凍り付いていく。


 その粉雪は小さな白銀の蝶が振り撒いていた。


「何だこれは!」

「雪の妖精? まさか!?」


 隼人とアリ・ハリラーが叫ぶ。

 気温の低下に耐えかねたのか、ひょろ長男とデブ男は凌辱を止めて自分の下着とズボンを身に着ける。


 その様子を満足そうに見つめている人物が一人。


 ブランシュが吊るされているクレーンの先端に、いつの間にか立っている金髪の少女。粉雪を撒き散らしていた白銀の妖精がその少女の周りを一周した後、彼女の肩に止まった。


「ララ様!」

「ララ室長!」


 ブランシュとグレイスは喜びの声を上げる。しかし、ひょろ長男とツインテールはブランシュとグレイスの喉元にナイフを突きつけた。


「やっときましたね、ララちゃま。お楽しみの時間を邪魔するのですか? それとも……一緒に楽しみたいと、そうおっしゃるのですか?」


 ニヤニヤ笑っているアリ・ハリラーが問う。しかし、ララは冷めた表情でアリ・ハリラーを睨んでいた。


「お前がここにいたとは幸運だ。とっ捕まえて色々吐かせてやる」

「おや? ララちゃまは強気ですねぇ~。今回は対魔法戦闘のエキスパートを雇っているんですよ。この隼人ですけどね。この者たちを倒せたらお話を伺いましょうか。ふふふ」

「先にそこにいるゴロツキを始末する。貴様は最後だ。逃げるなよ、アリ・ハリラー」

「勿論ですとも」


 ララの言葉に挑発的な言葉で応えるアリ・ハリラー。静まり返ったその空間を、隼人の銃弾が引き裂いた。


 パン! パン! パン!


 隼人の放った銃弾はララの眼前で弾け、三つの巨大な雷球となった。しかし、ララは既にその場にはいなかった。


 瞬間的に隼人の眼前に移動していたララは、隼人のみぞおちに渾身のパンチを放つ。

 隼人はララのパンチを障壁で防いではいたが、障壁ごと後方に吹き飛ばされた。


「大人しくしな。こいつの首を切り裂くぞ」


 ブランシュの首にナイフを突きつけているツインテールが恫喝するものの、ララは平然としている。

 そのツインテールの右手に、銀色の子ぎつねが噛みついた。ツインテールはたまらず手に持っていたナイフを手放す。


 一方、グレイスの首にナイフを突きつけていたひょろ長男の首には光り輝く白銀の刃が突き付けられていた。


「さあそのナイフを捨てなさい」


 そこに立っていたのは、細長い氷の魔剣を構えているヴァイスだった。ひょろ長男はヴァイスの魔剣をかわしてヴァイスにナイフを突き立てようとするのだが、その刃はヴァイスの魔剣に阻まれてしまう。


「往生際が悪いわね」


 ヴァイスの一言でひょろ長男のナイフは瞬時に凍り付き、そして彼の腕も白銀の氷に覆われていく。


「馬鹿な。腕が凍っちまった!」

「痛くはないでしょ。今なら切り落としても何も感じないわ」

「そいつは御免だ!」

 

 たまらずにヴァイスから離れるひょろ長男。しかし、その凍り付いた右腕をララが蹴飛ばした。白く凍ったひょろ長男の右腕は砕け散ってしまう。


「うぎゃあ! 腕が、腕が砕けちまった!!」

「自業自得だ。馬鹿者!」


 更にララはひょろ長男の腹を蹴飛ばす。ひょろ長男はクレーン車の運転席に嵌まり込んで動かなくなった。


 今度はデブ男がヴァイスに抱きついて羽交い絞めにするのだが、デブ男の両腕は見る見るうちに凍り付いてしまう。


「お馬鹿さんね。どうなっても知らないわ」


 ヴァイスがデブ男に肘打ちを食らわす。

 凍り付いたデブ男の両腕が砕け、デブ男はそのまま床に倒れて全身が砕けてしまった。


「やりやがったな!」

「切り刻んでやる!」


 デラックスとツインテールが、ほぼ同時にララへと襲い掛かる。

 しかし、ツインテールは右フック、デラックスは左回し蹴りであえなく昏倒した。


「まだまだだ。覚悟しろ!」


 激高した隼人が拳銃を撃ちまくる。

 今度は魔女っ娘を絡め取った黒い蜘蛛の糸を仕込んだ弾丸だった。


 ヴァイスは正面に厚い氷の壁を作ってそれを防ぐ。

 

「加速装置」


 ララの放つこの一言で、彼女の姿は見えくなった。蜘蛛の巣が開いた瞬間には隼人の眼前にいた。


「馬鹿な。お前が動くよりも前に弾を撃った。蜘蛛の巣が開く前にこちら側に来れるはずがない」

「残念だったな。私が使っている加速装置は優秀なんだよ」


 ララは隼人の右腕、拳銃を握っていたその腕を掴み握りつぶす。そしてそのまま一本背負いで隼人を床に叩きつけた。


「ゲフッ!」


 血を吐いてうめき声を上げた後、隼人は動かなくなった。

 その様子を見ていたアリ・ハリラーは笑いながら拍手をしていた。パンパンパンと手のひらを打つ乾いた音が響く。


「流石はララちゃま。こんなチンピラでは歯が立たないと思っていました」

「大人しくしろ。貴様は御用だ」

「洗いざらい話してもらいますわ」


 ララとヴァイスがアリ・ハリラーに詰め寄っていく。

 アリ・ハリラーは尚笑い続けてはいたが、その笑顔はひきつっていた。


「は……は……は……ま……まだ……か……な……」

「何を待っている」

「往生際が悪すぎますわ」


 アリ・ハリラーは両手を頭の上に挙げ、観念したかのようだった。

 その時、倉庫入り口のシャッターを突き破って一機の人型機動兵器が突入してきた。しゃがんだ姿勢のまま、ホバー走行をしている。


 寸胴の胴体に直接設置されたタンデム型のコクピット。それに細い腿と二の腕が突き出ている。しかし、脛と腕は太く腕からは機関銃が二本づつ突き出している。


 その機関銃が火を噴く。


 その銃弾は周囲に停めてあるトラックや重機に穴を穿ち、そして被弾した車両は発火していく。


「アリ・ハリラー様。ご無事でしょうか」

「取っ捕まる寸前だ。馬鹿者!」


 その人型機動ロボット兵器は右腕で機関銃を乱射しつつ、左腕でアリ・ハリラーを抱えた。


「脱出しますよ」

「早くしろ!」


 コクピットに座っていたパイロットが頷く。


 その人型機動ロボット兵器は背中に取り付けてある推進装置を吹かして上昇していく。倉庫の天井は、魔女っ娘が既に破壊していた。


「さらばララちゃま。またお会いしましょう」


 人型機動ロボット兵器の右腕に抱かれたアリ・ハリラーが手を振る。そいつは倉庫上空である程度高度を取ったのち、翼を広げて飛翔して行った。


「逃げたか」

「はい。あの人型機動ロボット兵器は厄介です」

「エクセリオンシリーズだな」

「恐らく三号かと」


 ララとヴァイスが虚空を見つめる。


 倉庫街にサイレンが響き渡る。

 警察と消防が駆け付けてきたのだ。


「ヴァイス。お前はブランシュとグレイスを連れて消えろ」

「はい。室長は?」

「警察の相手をする。あのシュラン・メルトが来るだろうからな」

「かしこまりました」


 粉雪が舞う。

 ヴァイス達魔女っ娘はその中へと入って姿を消してしまった。


 ララの肩に止まっていた妖精のシュシュもその粉雪に紛れて消えてしまう。ララは銀色の子ぎつねを従え倉庫の外へと出ていく。


 そこにはしかめっ面のシュラン・メルト警部が待ち構えていた。

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