第40話 鍵と鍵穴の魔法陣

「騙されたー!!」


 暗い塔の1階に歩斗の嘆きがこだまする。

 ミイラ取りがミイラになるとはまさにこのこと。

 閉じた扉を押しても引いても蹴っても撫でても、1ミリも動かない。


「こうなったら……」

 

 歩斗は背中のホルダーから弓と矢を取り、試しに扉に向かって一発撃ってみたものの……カツン、と乾いた音がするだけで矢はポトリと虚しく落ちた。


「どうすりゃ良いんだよー!」

「……アユト!?」

「そうだよ! ……えっ!?」

 

 突然、扉越しに自分の名前が呼ばれて焦る歩斗。

 しかもその声は……。


「ユセリ……?」

「そーだよ! って、そんな所で何してるの??」

「こっちが聞きたいよ! ユセリこそなんで??」

「ボブスライムちゃんが私のとこにやって来たんだよ。カオリさん……アユトのママが大変だって」

「えっ、マジ!?」


 確かに、歩斗はふんわりボブスライムについて母から聞いたことがあった。

 ってことは、一緒に居る時に何か起きたということだろうか……と考えてる途中で、歩斗の頭に別の問題がよぎった。


「そういやユセリ大丈夫か? さっきまでそこに変なヤツが……っていうか、そいつのせいでここに閉じ込められたんだけど、キーッ!!」

「変なヤツ?? 誰も居ないけど……」


 ユセリは周りを確認してるのか、少し間をあけてから続けた。


「うん、とりあえず今は大丈夫そう」

「ホントに? どっか隠れてるだけかも知れないし、油断するなよ!!」


 扉越しに真剣な眼差しを送る歩斗。


「ありがと! 自分がそんな目にあってるっていうのに、私のことそんな心配してくれるなんてさ……」


 もしこの扉に窓が付いてたらユセリの照れる顔が見えるに違いない、と歩斗が思えるぐらい、彼女の声は赤く染まっていた。

 そう考えると自分で言っておきながらなんか恥ずかしいな……と照れくさくなった歩斗は話の矛先を少しだけ巻き戻す。


「えっと、そのボブスラは大丈夫だったの?」

「あ、ああ。ちょっとケガしてるみたいだったけどすぐに治ると思う。それよりアユトのママがこの塔に閉じ込められたって興奮気味に話してて」

「うわっ、ボクと同じってこと? ……えっ、そんじゃ母さんもここに!?」


 ハッとして部屋の中を見回してみたが、外壁と同じような質感の壁と床が薄暗く見えるだけで母の気配は一切無し。

 外から見る限り少なくとも2階や3階はあるはずなのに、階段すら見当たらない。

 なんなんだよもう!

 あの蒼白いヤツ!

 こんな良く分からない塔の中に誘い込んで鍵閉めやがって……と、心の中で叫ぶ歩斗の顔がハッとなった。


「ねえユセリ! まだ居る!?」

「うん。居るよ! ママ見つかった?」

「ううん、まだだけど……これって外から鍵が掛かってんの? そっちから開けれない??」


 っていうか、実際ついさっき普通にそこから入ったんだから、当然外からなら開けられるでしょもうなんでもっと早く気付かなかったんだろ……と、苦笑いしながらもホッとしかけた歩斗だったのだが。


「ごめん無理! 押しても引いても蹴っても撫でても全然動かない!!」


 残念ながら、返ってきたのは申しわけ無さそうに答えるユセリの声。


「あーマジか~。もう、それじゃ何でこのドア開かないんだろ? 鍵がかかってるって言っても、鍵穴とか無いし……ん?」


 暗闇に目が慣れてきたせいか、歩斗は扉と壁の境界線に不思議な模様が描かれていることに気がついた。


「アユトどした?」

「う、うん……なんかさぁ……なんだろこれ。丸の中に星があったり……」

「えっ? 急になに言い出したの??」

「あっ、ごめん。暗いし薄いしでハッキリ見えないんだけど、ドアの端っこのところに変な絵が描いてあんの。丸があって、その中に星があって……」


 乏しい語彙で同じようなセリフを繰り返す歩斗。

 しかし、魔物系ハーフのユセリは「えっ? それって」と何かに勘づいたように言った。


「もしかして魔法陣じゃない?」

「えっ? これマホウジンなの!? ……って、なんだっけそれ」

「うーん、簡単に言うと魔法の力が込められた絵、って感じ?」

「なにそれすげー! ってことは、これのせいでこのドアが開かなくなってるってこと??」

「えっ、びっくり! アユトのわりに理解するのはやっ!」

「いやぁそれほどでも……ん?」


 微妙な言い回しに少し引っかかる歩斗だったが、今はそれどころでは無い。


「ねえ、丸と星以外に何かある?」

「あっ、うん、えっと……なんだろこれ。黒丸と三角がくっついてる的な……」

「……わかった! それ鍵穴でしょ? ってことはそれ魔法陣鍵だよ!!」


 興奮気味のユセリが扉をドンッと思いきり叩く音が響く。


「マホウジンカギ? ……カギ? えっ、これのせいでドアが開かなくなってるってこと??」

「そうそう! 魔法陣鍵だったのかー。そりゃ開かないわけだ」


 扉越しにウンウンの頷くユセリの様子が目に浮かぶのとは裏腹に、歩斗の頭の中はハテナマークで一杯だった。


「全っ然わけわからないけど、とにかくどうすればこのドア開けられんの?」

「うん。魔法陣鍵は“鍵穴”の魔法陣と“鍵”の魔法陣が組み合わさってできてるの。いまアユトが見てるヤツが鍵穴。それを開けるための魔法陣がどこかにあるはずなんだけど……」

「おう、ちょっと探してみる!」


 未だにピンと来ない歩斗であったが、この異世界において一番の友達で誰よりも信頼できるユセリの言葉は何よりの励みとなっていた。


「それにしても暗いなも~」


 と愚痴りながら、目を凝らして床や壁をサーチしていく。


「……あっ、これか!」

「おおっ、見つかった!?」


 扉越しに大声で会話を続ける2人。


「うん。丸の中に星があって、その中に黒丸と三角がくっついたやつ!」

「よしっ! ……って、ちょっとまって。それ、鍵穴じゃない?」

「えっ? ああ、そういやドアに付いてるのと同じだ」


 その魔法陣があったのは、扉とは真逆の壁近くの床。

 足下のそれを見つめ、しょんぼり肩を落とす歩斗。


「鍵穴じゃなくて鍵だからね!」

「うん。ったく、こんな紛らわしいの置いとかないで──」


 歩斗が暗い塔の部屋で愚痴をこぼそうとしたその時。


「……あら? そこに居るのもしかしてアユ??」


 どこからともなく香織の声が聞こえてきた。

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