第35話 軌道パターンと鉄球ボウヤ
「リハリハ~ン!」
相変わらずの超スピードで優衣に襲いかかるハリガネナイト。
しかし、優衣は剣を振り上げてはいるものの、その視線はハリガネナイト自身ではなく、なぜか地面を向いていた。
「おやおや? 戦意喪失かな? では、ひと思いに……」
ハリガネナイトがハリガネの剣による攻撃を繰り出そうとした刹那。
「えいっ!」
優衣がおもむろにピンクゴールドの剣を振り下ろした。
すると……
「グフォリハァァァァ~!!」
バトル部屋に、ハリガネナイトの悲鳴が響き渡った。
なんと、今までかすりもしなかった優衣の攻撃が見事にヒットしたのだ。
やはり、卓越した瞬発力は守備力を犠牲にしたものなのか、強烈な一撃をまともに食らったハリガネナイトは地面に突っ伏し、あっという間に虫の息。
「やったやった! へへん!」
剣を背中の鞘に戻した優衣は、両手を腰に当ててドヤ顔でハリガネナイトを見下ろす。
「せ……拙者に攻撃を当てるとは……一体どうやって……」
「ふふふっ! だって、地面に跡がついてるし! ハリガネさん、めちゃくちゃすばしっこいけど動きがワンパターンなんだもん♪」
「な……なんてこった……」
ハリガネの脚で削られたと思しき地面の線は、あれだけ猛スピードでちょこまかと動いているように見えた割りに、あまりにも綺麗すぎる。
つまり、縦横無尽に無軌道な移動攻撃をしていたと思えたハリガネナイトの動きには、一定の法則があった。
それを見抜いた優衣は地面の痕跡から読み取れる軌道上に剣を振り下ろすだけで、勝手に飛び込んできた相手の体に会心の一撃を決めることができたというわけだ。
「お、お主……や……やるな……。拙者の完敗だ……さあ、ひと思いに殺してくれ……」
「えっ? やだ、殺すとか怖いよ~。それよりさ、また今度勝負しようよ! ライバルライバル!」
優衣は無垢な瞳でハリガネナイトを見つめながら、さも楽しそうに言い放った。
「ぐ……大きい……体は小さいのに……なんて大きさだ……。ほら、これが要るんだろう……」
ハリガネナイトはうつ伏せに倒れたまま、どこからとも無く取りだした〈宝のカギ〉を、優衣の足下にポイッと投げた。
「あっ、これこれ! ありがとハリガネおじさん!!」
優衣はカギを手に取ると、わーいわーいと小躍りして喜んだ。
「お、おじさん……リハハハハ! そうだな。おじさんとしては、子供に何度も負けるわけにはいかぬ。鍛錬を続けて、今度会った時には絶対……イテ……イテテテテ……」
「ふふっ、ゆっくり休んで早く治しなよ! それじゃ、またね~!」
ザザザザザ……と、音を立てて鉄の扉が開き、優衣はスキップしながら部屋を後にした。
「ニャギニャギニャギ! まさかお前が勝つとは驚きニャギ」
プカプカと浮かんで待ち構えていたユニギャットが、右に左に揺れながら驚きを露わにする。
その真下に置かれた黒色の宝箱には、正面と両サイド、計3つの鍵穴が付いている。
「あっ、それ!」
優衣は手に持った鍵をまるで槍のように突き出しながら宝箱に駆け寄ると、正面の鍵穴に差し込んだ。
しかし、当然ながらそれだけではまだ箱は開かない。
「ニャギニャギ! あとの二人はどんな調子ニャギかな……」
ユニギャットは優衣が飛び出してきた部屋の隣、3つ並んでる内の真ん中の鉄の扉に視線を送りながら囁いた。
「うわっ! なんだコイツ、うわっ、うわっ!!」
声を上げる歩斗の前には、大きな鉄球がダムダムと床の上でバウンドしている。
真ん中のバトル部屋で繰り広げられている歩斗の相手はその鉄球……いや、球には目と口が付いており、その顔の部分を正面に向けたまま地面を跳ね続けていた。
「マータマタ! さあ、どう料理してやろうかマータ!」
鉄球タイプの魔物、その名も〈鉄球ボウヤ〉は、その場でドリブルしていたかと思うと、突然歩斗に飛びかかったり、ピンボールのように壁に当たって跳ね返って床に天井に……と、非常にトリッキーな動きを見せていた。
「くそ~……って、とりあえず召喚だ! 出でよ、スララス……って、もしかしてここじゃ呼べないとか!? あのユニギャットみたいなヤツ、結界が張られてるとかなんとかって……」
不安になりながら仲間を呼ぶ歩斗。
すると、その不安を吹き飛ばすかのように、バトル部屋の中に一筋の風が吹き抜けた。
「呼ばれて駆けつけイムイム~!」
ピョコンと現れたスライムを見て、鉄球ボウヤは少し驚いた顔をしていた。
「チッ、仲間を呼びやがったのか……!」
「アユトさんさっきぶりですイム~……って、うわっ! なんか見たこと無い感じの敵!?」
スララスは鉄球ボウヤの姿を見た途端、体をぶるんぶるんと震わせて驚いた。
「おお、スララス来てくれた! このレヒムルってとこ、結界が張られてて他の国の人とか魔物が入れない的な感じで言われてたから」
「スススス、くすぐったいですよぉアユトさん、ススススス」
仲間の登場に嬉しくなった歩斗は思いあまってスララスに抱きついた。
「マッタマッタ、なにイチャついてんだマータ! 召喚したから一瞬焦ったけどただのスライムじゃないかマータ! 瞬殺瞬殺!!」
ずっと地面にドリブルし続けていた鉄球ボウヤは、一旦重心を後ろに乗せ、反動を付けて前方に思いきり飛び出した。
そのターゲットは……スララス!
「マタマタマター!!」
「!? ……あぶなイムっ!!」
雄叫びを上げながら飛んでくる鉄球ボウヤの体当たりを、スララスはギリギリのところで体をすらせて避けた。
「スララス大丈夫!?」
「はイム! なんとか大丈夫ですイム」
「チッ!」
鉄球ボウヤは不機嫌そうに舌打ちしながら、また一定の距離を置いてダムダムとバウンドし始めた。
「よし、それじゃ反撃だ! いけぇスララス!」
「はイムゥゥ!!」
スララスは何歩かピョンピョンと助走したのち、グッと地面を蹴り上げて斜め前に飛び出し、鉄球ボウヤに向かって体当たりを仕掛けた。
しかし、鉄球ボウヤは余裕の笑み。
「くらえイムゥゥ~!」
気合いの入ったスララスの攻撃が見事鉄球ボウヤに命中!
……しかし、ダメージはわずか2。
「そ、そんなイム……手応えあったのにイムぅぅ……」
肩……
攻撃の手応えはあっただけに、与えたダメージの少なさにショックを受けていた。
「マッタマタ! 落ち込んでる暇は無いマタ! 一気に決着を付けてやるマタ。出でよ、鉄球虫!!」
鉄球ボウヤが高らかに叫ぶと、どこからともなく鉄球の形をした小さな虫が何匹も姿を表した。
まるで、鉄球ボウヤの子供といった風貌の〈鉄球虫〉が横一列の隊列を組み、、地面にバウンドし続ける。
「あのデカいのだけでも強いに、これは……マジピンチ!!」
歩斗は思わずそう叫んでしまった。
そして、バトル部屋にはダムダム……ダムダム……と、不気味なドリブル音が鳴り響いていた。
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