第42話 太陽の匂いがするんです
<佐々木瑞菜(ささき みずな)視点>
私と西宮陽(にしみや よう)くんは、二人並んでソファに座りながらテレビを観ています。結局、お風呂は別々に入りました。まだ、高校生ですから二人とも・・・。夕ご飯は陽(よう)くんが腕を振るった和食でした。私のリクエストで大きな金目鯛の煮つけを二人で箸でつつき合いました。ふふっ。とっても美味しかったです。お皿は二人で並んで洗いました。
「まったり、のんびりですね」
時計の針は午後九時を回っています。お風呂上がりの陽くんはパジャマに着替えて、バスタオルで濡れた髪の毛を乾かしています。なんだか動きがぎこちないです。陽くんの緊張が伝わってきます。のんびりと言いながら私もちょっぴり緊張していますが。
「妹の月(つき)がいないと静かなものです」
「二人っきりですね」
私は思い切って陽くんの腕に抱きつきました。ほんのりとミントの香りが彼の髪から漂ってきます。ごめんなさい。陽くん、固まっちゃったけど、ちょっとだけ、このままでいさせてください。
「・・・」
私は陽くんの肩に頭を預けて目をつむりました。シャンプーのミントの香りに混じって、芝生のような陽くん独特の淡い香りがします。私はこの香りを『太陽の匂い』と名づけました。青々とした芝生の上にできた陽だまりに寝ころんだような気持ちになるからです。すごく落ち着きます。
「あっ、私のCM!」
修学館中高合同運動会の後に収録したアパレルブランド『KIRA』CMがテレビに流れ始めました。無敵美少女のはずの私の顔が、なんだか浮かれています。陽くんの運動会での活躍を思い出してニマニマしてた時の映像です。急に恥ずかしくなってうつむきました。顔が熱いです。
「不思議な感じですね。テレビに出ている人が、僕の横にいるなんて」
陽くんは私の手を振りほどくことなく言いました。
「この撮影の時。CM監督が『一番、嬉しかったことを思い出すような表情で!』なんて注文を出すもんだから。運動会での陽くんの活躍を思い浮かべてしまいました」
お互いに真っ赤な顔になってます。陽くんは女の子みたいに肌が白いからすぐに赤くなります。そう言う、わかりやすくて純真なところがまた、たまりません。横から見ると陽くんのまつ毛ってすごく長いです。ふふっ。新しい発見です。
「実は、この撮影の後にドジって事務所の社長に『陽くんが好き』ってことを知られてしまいました」
「えっ、大丈夫なんですか」
目をまんまるに見開いた陽くんもかわいい。
「はい。一緒にいたCMスポンサーの親会社の社長さんが『年頃の女の子に、恋をするなと言う芸能界の在り方に問題がある』って私のことをかばってくれました」
「そうですか。まっとうなことを言う大人もいるのですね。芸能界はスポンサーには逆らえませんから」
「そうなんです。私、その社長さんに気に入られて、広告のイメージキャラクターに起用されたんです。傘下の会社、全部の広告塔として私を使っていただけるって事務所の社長は大喜びなんです」
「そうですか。良かったですね」
「はい。その社長さんはとっても面白い方で、ダンディな紳士なんですが、ちょっぴり陽くんに似ているんです。なんて言うか、陽くんと同じ『太陽の匂い』がするんです。不思議ですよね」
ずっと頭を預けていて陽くんの腕がぴくんと動きました。
「えっ!その社長さんの名前は?」
「KFホールディングス 代表取締役社長、藤原克哉(ふじわら かつや)さんって言う方です」
「・・・」
陽くんは急に黙ってしまった。何か思いつめたような顔をしています。握った腕が微かに震えています。どうしたんでしょう。数分経ってから、陽くんはぼそりと言いました。
「僕と実の母を捨てた人です」
「えっ!」
私は小さく声を上げてしまいました。
「僕は西宮家の養子なんです。藤原克哉は僕の実の父です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます