第41話 でへへ。やっぱ、ばれてた
<西宮月(にしみや つき)視点>
月(ボク)は森崎弥生(もりさき やよい)ちゃんのマンションにお手伝いに来ていた。弥生ちゃんの仕事は順調だ。既にいくつかの少女漫画家とタイアップし、登場人物のキャラクター設定に弥生ちゃんのデザインした衣装が採用されている。読者からの評判も良く出版社とアパレルメーカーとのコラボレーションで、この秋には大々的なファッションショーの計画まで進んでいた。
弥生ちゃんはパソコンを見ながらデザインの作業を進めている。月(ボク)は弥生ちゃんの横で生地見本をスキャナーで読み込んでいた。
「弥生ちゃん、何で会社名を『Be Mine』にしたの?」
「『Be Mine』は四つ葉のクローバーの花言葉。意味は『私のものになって、私を想ってください』なの。四つの葉にはそれぞれに意味があって一枚目はFame、名声。二枚目はWealth、富。三枚目はGlorious Health、素晴らしい健康。そして最後の一枚、四枚目はFaithful Lover。満ち足りた愛。四枚そろってTrue Love、真実の愛になるの。素敵でしょ」
「すごい!かっこいい。やっぱ、弥生ちゃんのセンスってバツグン」
「でしょ!」
「うん」
「月(つき)ちゃん、私ね。保育園の時、みんなと馴染めなくて。お庭でポツンと座っていたの。そしたら、陽(よう)くんがこれをくれたんだ」
弥生ちゃんは横を向いて、お財布から何かを取り出して月(ボク)に見せてくれた。それは大切にラミネートされたちっぽけな四つ葉のクローバーだった。
「でね。これ好き。キミにあげる。みんなと一緒に遊ぼ。って誘ってくれたんだよ。嬉しかった・・・」
パソコンに目を戻して作業しながら話す弥生ちゃんの横顔。サファイアブルーの青い瞳が涙で光っている。とっても、とってもきれいだ。
「ホントはね、知ってたんだ。陽(よう)くんが私になんか興味がないこと。でもね・・・。『私のものになって、私を想ってください』って言わせたかったの。陽(よう)くんがくれたこの四つ葉のクローバーみたいに。ふふっ、私って、つくづく妄想癖の変態ガールだよね」
弥生ちゃんはハンカチで涙を拭きとってから、月(ボク)の方に向き直った。月(ボク)の顔を覗き込む。
「月(つき)ちゃん。いいの?陽くんと瑞菜(みずな)さんを二人にしてきて」
弥生ちゃんは月(ボク)の気持ちに気づいている。月(ボク)が兄貴を妹として好きなのではなく、女の子として好きなことを。
「でへへ。やっぱ、ばれてた」
「うん。もちろん。泊まりに行ったときに知った。私の作った衣装を着た時、陽くんを見つめる目を見てわかった」
弥生ちゃんのサファイアブルーの瞳はするどい。
「そっか。あのね、弥生ちゃん。月(ボク)と兄貴は血がつながっていないんだ。兄貴は西宮家の養子なんだ」
「うっそ。それでも二人っきりにしてきたの?」
弥生ちゃんの驚きようが半端ない。それもそうだ。月(ボク)だって自分の行動に驚いている。
「弥生ちゃんだって」
「お互いさまですね」
「今頃、二人で。ぶっひっひっ。何をやらかしているんだろうね」
「月(つき)ちゃん。下品な想像はダメよ」
「忘れてた。弥生ちゃんはまだ私立修学館高校、生徒会風紀委員長だった」
「ふふっ。あと少しだけね。おいで、月(つき)ちゃん。今だけはスリスリを許す」
弥生ちゃんは胸を大きくせり出す格好で、月(ボク)を迎え入れるように両手を広げた。
「いいの?ほんとに、ほんとに。ぐふっ。ふんぎゃー」
月(ボク)は弥生ちゃんの胸に飛び込んだ。
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