第21話 陽くんの秘密

<西宮陽(にしみや よう)視点>


 ベールを脱いだ森崎弥生(もりさき やよい)の高校での人気ぶりはすさまじい。毛虫が蝶に変身したかのようだ。サファイアの目を持つ神秘的な彼女の噂は2年3組から同学年、高等部から中等部まであっという間に広まった。


 休み時間になると教室の横の廊下は大渋滞だった。女の先生ですら授業中に彼女と目が合ってチョークを落とすありさまだ。一番、おどろいているのは彼女自身だ。周りがどんなに変わっても彼女の中身はそう簡単に変われない。少しは見慣れてきた僕ですら不意に目が合うとドギマギする。


「ねえ、西宮くん。なんか私、瑞菜(みずな)さんの気持ちが分かるような気がする。最初は注目されるのが新鮮って感じだったけど、なんか怖い。もとの髪色と目に戻していいかな」


「ダメです。瑞菜さんとの約束でしょう。本当の自分の姿に慣れるって。だれも弥生(やよい)さんのこと変な風に言ってないし」


 彼女の瞳を見たら許してしまいそうなので目を合わせられない。


「そうだけどさ。なーんかこう、落ち着かないんだよね。5月だというのに、今日はとっても暑いし」


 そう言うと彼女は校則ギリギリの短いスカートをパタパタさせた。やばい。死人が出る。


「うおっ」


「あうっ」


「やん」


 生徒の何人かが鼻をおさえる。赤い血が指の間から教室の床にたれ落ちる。男子だけでなく女子まで。


「かなりの危険人物ですね。つつしんで下さい。次期生徒会長」


「ひっどーい。西宮くんばっかりずるいんじゃない。私、知っているんだから。陽くんの秘密」


「えっ」


「本気の西宮陽(にしみや よう)の姿を!」


「なんだ。神童なんて呼ばれていたのは小学生までで。今は普通の男子ですから」


「うそよ!」


 まずい。目が合ってしまった。


「八重橋元気(やえばし げんき)先輩をノックアウトした時みたいに本気の姿を見せてみなさいよ」


「何度も言いますがあれは事故でして。怖くて伸ばした腕がたまたま先輩のあごに当たっただけですから」


「そんな言い訳をしながら私みたいに生きていくつもりなの」


「・・・」


 彼女は僕の耳元に顔を近づけて小声て言った。


「意気地なし。そんなんじゃ、国民的無敵美少女アイドルの愛なんて受け止められないわよ。彼女の気持ちがどれだけ深いか知りもしないで」


「・・・」


「もうすぐ体育祭だよね。楽しみだわ。本気の西宮陽の姿を見せてもらうわ。でないと、彼女と同棲していることをマスコミにばらすんだから」

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