第44話 陰キャの姉とお出掛け
「はぁーーー、つっかれたー……」
終業式が終わり夏休みに突入。僕はやることが無くてベッドでごろごろしていた。机の上にある卓上カレンダーを見てみると、もう既に十日経過している。
………………。
夏休みが始まってもう十日だよ十日! きっと今頃、他の奴らは高校の間でしか体験出来ない貴重な経験を積んでいるんだろうなぁ……!
部活とか、塾とか、友達同士の旅行とか、はたまた恋人同士のひと夏のアバンチュールだったりさぁ……!
クッソ羨ましいんですけどぉ(咆哮)!
え、僕? だから風花さん以外未だ友達出来てないんだって! だから部屋でごろごろしてるし、ラノベ的なイベントはまったく来ないのさちくしょうっ!
「風花さん、今頃は旅行に行っている頃かなぁ……?」
僕は天上を見上げながらぽつりと呟く。
因みにクレープの一件で逃走した次の日は、夏休み前の終業式だった。だから当然のことながら風花さんとも登校するときに顔を合わせたよ。
彼女は何故かいつも以上に明るい声で話し掛けてきて、にへらっとした可愛い笑みを浮かべていたけど、気まずさを感じていた僕は謝罪する。
結局、昨日の内心をしどろもどろになりながら説明した。
触る練習で風花さんの鼻先に着いたホイップを指先で拭おうと考えたこと、それからそのホイップの処理をどうしようかと考えたら緊張・動揺して、あんなことをしてしまったを素直に白状した。
ちらちら風花さんの窺うような表情を見てそうしてしまったのは
風花さんはその時の状況を思い出したのか少しだけ顔を赤くしていたけど、『えへへぇ、び、びっくりしたけどぉ、ぜ、全っ然気にしてないからねぇ……!?』とゆるふわ笑顔でありがたいお言葉を頂いた。
……うん、この反応は絶対気にしていることは明らかだけど、ここはスルーして受け入れることにしたんだよね!
その後普通に会話して判明したことだけど、風花さんはこの夏休み中はどうやら予定が詰まっているらしい。
家族と一緒に旅行したり、母方の実家に帰省したり、いつも昼食を一緒に食べている友だちの……隣のクラスの
……うわぁーいっ、僕とは天と地の差があるぅーっ(遠い目)。
僕は前世で積んだであろう善行に疑問と思いを馳せていると、風花さんは微笑みながら僕の予定を純粋な笑みを浮かべて聞いてきたんだ。
内心で血反吐を吐きながらも、積んでいるラノベを消費するって空元気
僕が平常運転だったから? ……うーん、わっかんないや。
そして夏休みに突入して十日が経過、現在に至るってワケ(どやぁ)。
……なにぼーっと生きてんだよ僕ぅ!!
自分でも痛々しいと思いながらもセルフツッコミを心の中でかましていると、僕の部屋の扉ががちゃりと音が鳴った。
勢い良く開かれた扉の先には、なんと腕を組んだ我が家のファンキーゴリラ様。
もとい、僕の姉である阿久津麗華が堂々と立っていた。
うっわ、表情が自信たっぷりだよ……。こういう時ってなにかしら
……行かない。絶対に行かない。美少女となら分かるけど、こんなクソ暑い日に一人で外に出かけたくなんてない!
そして彼女は長い黒髪を手で優雅に払いながら入って来て早々僕にこう告げる。
「来人、今からショッピングモールに行くぞ!」
「えぇ、やだ……」
「中にある本屋でラノベ買ってやる」
「やっぱり行きます!」
僕は"本屋"とか"ラノベ"という姉の甘い誘惑に見事に
そして電車に揺られながら到着☆
世間は夏休み。尚且つ巨大ショッピングモールということでたくさんの人で賑わっていた。中は季節らしく涼しげな内装で彩られており、天井には夏らしさを想起させる巨大な水色のイルカがぷかぷかと浮いている。
入店した時から女性の綺麗なアナウンスや陽気なBGMといった店内放送が鳴り響いていた。
うっは人混み苦手……っ! よ、よし……ここは海の藻屑になったあの御方の言葉を借りるとしよう……っ!
「はっはっは、見ろ! 人がゴ―――」
「バ○ス」
「まだ途中なのにぃ!?」
まだ言い終わってないのに色々段階をふっ飛ばして伝説の呪文で封殺してきやがった! くっそぉ!!
複雑な心境だったけど、姉の隣を歩く僕はふと浮かんだ疑問を姉に訊ねる。
「っていうかさ、そもそもなんで僕がねーちゃんの買い物に付き合わないといけないんだよ」
「……っ、旅行とか合宿とか塾で友だちとの予定が合わなかったんだよ。そんな細かいこと気にしてないで、こんな美人で綺麗な姉と買い物出来る幸せを噛みしめてろ」
「はいはい、分かりましたよおねーさま」
若干早足になる姉。僕は軽く息を吐きながら肩を
その後は洋服店で服を試着・物色したり、可愛いアクセサリーなどの小物を見て購入したりした。選ぶ際に姉から「これは似合うか?」などとアドバイスを求められたりしたので
あっ、もちろんテキトーじゃなくて適当ね(コレ重要)!
姉はこういうファッションに関する返事がテキトーだと後が怖いからねぇ……。
そして僕は案の定荷物持ちだった。両手がぱんぱんに塞がるほどではないけど、少しだけ重く感じる。くっ……これが運動せずラノベばかり読んでいる弊害だとでもいうのかっ? ……今度軽く筋トレしよっかなぁ。
そんなことを考えていると、姉からの提案で昼食をとることになった。ショッピングモール内の手頃な値段で提供するレストランに入店すると、店員さんに案内されたテーブルに対面で座る。
僕はハンバーグやドリア、姉はペペロンチーノを店員さんに頼むと『かしこまりました!』と去って行った。
しばらく歩き詰めだったので、落ち着いたかのように椅子に背を預ける。そして目の前でスマホを見ながら耳に掛かった髪を搔き上げている姉の姿を改めて確認した。
はぁ、こうしてただ座っていれば凛とした清楚系美人なんだけどなぁ……。外で口を開けばお姉さんボイス
……うん。こんな器用な使い分け、僕には
「なんか失礼なこと考えていたか?」
「さすが『女神』は品があるなぁって」
「ちっ……嫌いなんだよその呼び名。―――来人、お前だけは二度と言うな」
「………? どうしてさ、高校でもそう呼ばれるくらい様々なこと頑張ってきたじゃん」
僕の考えを読まれたのかじろりと圧を掛けてくる姉だけど、僕が『女神』という言葉を出すと心底嫌そうに眉を顰める。
そう、こう見えて目の前の姉は結構な努力家なのである。生徒会メンバーの副会長という立場まで上り詰めたのも、テストで満点を逃さないように夜中まで必死に勉強したり、スポーツだって無様な姿を曝け出さない為にスマホの動画や参考書を研究したりして良い結果を残した、云わば努力の結果なのだ。
何事にも懸命に取り組む姉自身が生まれ持った、一番の才能ともいえる。
……絶対に言わないけど、そんな姉の姿が頼もしく見えるし、僕が唯一尊敬しているところだよ。
絶対に言わないけど(念押し)!!
そう思いながらふと姉の顔を見てみると、僕が分かる程度にほんの僅か目を見開く。直後、顔を逸らした。
……? どうしたん?
「……っ、ふ、ふん! それは来人が私の弟だから分かるんだよ。……なにが『女神』だ。大抵のやつらはそう言えばなんでも片付けられると思ってる。……私が築き上げた努力なんて見ようともしないで」
「……ねーちゃんも色々苦労してんだね」
表情に出さないも、姉が言う言葉に思わずはっとする。理由は姉と風花さんが重なったから。
………もしかして、風花さんもそうなのかな。彼女はその容姿や雰囲気、話し方から『天使』って呼ばれている。そのことは本人は知らないんだろうけど、もし『天使』のレッテルを張られているという事実を本人が知ってしまったら、おそらく傷ついてしまうのではないか。
だって、その裏で行なわれているであろう彼女の努力が、積み上げた評価や本質だって正しく見られない場合だってあるのだから。
でも、僕は……!
「―――知ってるよ」
「え?」
「……ねーちゃんが頑張っているのは僕が良く知っているし、僕が心を塞ぎ込んで元気が無いときに色々と考えてくれていたことも知ってる。……だから、一度しか言わないよ」
僕は一度その先の言葉を区切る。なんだか少しだけ照れくさかったので、姉の顔を見ずに口を開いた。
「………ありがと。きっと、いつかねーちゃんのことを良く見てくれる人が出てくるよ」
「―――。……あぁ、そうだといいな。……お前はそのままでいろよ」
「? どういうこと?」
「うるさい」
そのまま姉はそっぽを向くとスマホをいじり出した。……ん? 気のせいか顔赤くね? なんで?
姉の様子に軽く疑問に思った僕だったけど、注文した品がきたので食べる。
やがて昼食を食べ終えた僕らは本屋に行ってラノベを買って貰い、そのまま帰宅した。
まぁなんだかんだいってほぼ奢って貰ったし、今日は充実した日になったね! やりぃ!
ま、まぁ今回は買い物に誘ってくれた姉に心の中で感謝を伝えてやってもいいね! 心の中だけ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます