第42話 天使とクレープをはむはむ 1
その後、僕と風花さんは並ぶ列の途中に置いてあったメニューボードのポケットに入っていたパンフレットを手に取ると一緒に描かれているメニューを見ながら並んでいた。
やがて僕らの順番がやってくると、窓口の綺麗なお姉さんにクレープを注文する。店員さんは笑顔で返事を行なうと、慣れた
そうしてあっという間にメニュー表で見た以上に美味しそうなクレープが完成した。
僕が風花さんの分のお金も支払おうとすると、風花さんは何故か「私が来人くんの分も払うよぉ!」としばらく互いに押し問答の状態になった。
さすがにいくら天使な風花さんと云えども、ここは
僕らの後ろに並ぶ人たちや店員さんの視線が何故か生温かく、微笑ましげなものを見る目になっていたのは風花さんには内緒だ。恥ずかしいからね!
それぞれクレープを手に持って、落ち着いて噴水のある水場を眺められるベンチは無いかと探していると、風花さんが声をあげた。
「あぁ、あそこのベンチが空いてるよぉ!」
「それじゃあそこに座って食べよっか」
「うん!」
そうして木陰になっているベンチに腰掛ける。僕は落ち着いたところで息を吐くと、それは隣からも聞こえた。
偶然重なった吐息に風花さんと顔を見合わせると、思わず吹き出しながら笑みがこぼれた。
互いにひとしきり笑うと僕は穏やかに言葉を紡ぐ。
「そういえば高校からここまでずっと歩き詰めだったからね。なんだか安心しちゃったら気が抜けちゃったよ」
「うん、私もぉ。これまでテスト期間中に重く感じてた肩が、スッと軽くなった感じかなぁ?」
「それじゃあ今回のテストは僕が勝っちゃうかな?」
「ふふぅん、それとこれとは話がべつぅ。ばっちり自信あるよぉ♪」
そう言った風花さんは表情が柔らかく、にへらっとした笑顔が輝いていた。
~~~っ、そうそうこれだよこれ! この風花さんの笑顔が見たかった! やっぱり風花さんは笑っている方が良く映えるね! あぁ……そんな彼女の姿はまるで国宝級だ。―――守りたい、この笑顔 (ドヤァ)。
半ば今回の最大の目的は達成したも同然だけど、僕は手に持つクレープに目を向けた。
「じゃ、さっそく食べよっか。いただきます」
「いただきまぁす!」
クレープにかぶりつくと、口の中いっぱいに甘さ控えめなホイップの味が広がる。クレープ生地のもちもち感とチョコスプレーやアラザンの食感が楽しい。
僕が注文したのはクレープは『トッピングシャワーホイップ』。これでもかとクレープ生地に包まれたホイップの上にはチョコスプレー、アラザン、薄切りアーモンドやクラッカーが見た目鮮やかに乗っている。
うっわ、クレープ
こほん。
この軽くも濃厚な味わいはもちもち食感の生地とよく合うね! 中のバナナはまだ見えないけど、もうすぐクレープ界では切っても切れない最高な出会いが待っているから楽しみだよ……!
次はどこにかぶりつこうかとわくわくしながら考えていると、隣から幸せそうな声が聞こえた。確か風香さんが食べていたクレープは『キャラメルリボンナッツ』。一緒にパンフレットを見て何を食べるか決まっていても、じぃーっとみていたからね。もしかしたらキャラメルは風花さんの好物なのかもしれない。
「んぅ~~っ♡ おいひぃ!クリームの上に乗ってる細かいナッツがキャラメリゼされてて、生クリームとベストマッチぃ!」
「風花さんってキャラメル好きなんだ?」
「うん! 大好きぃ!」
「そっか」
そっかそっかぁ(にっこり)。もうそんな蕩けるような純粋な笑顔を向けられたら僕もキャラメル教に入信するしかないじゃないかぁ。
風花さんの事また一つ知れたし、天元突破された風花さんの可愛さにもう壁なんてないね!
内心そう思いながらクレープの外包紙をむきむき。こういうのって食べやすいように適度に剥いていかないと、紙まで食べちゃうんだよねぇ……。
ふと隣を見ると、風花さんが僕の方……いや、厳密にいうと手に持っているクレープをじぃっと見ていた。
「ふ、風花さん? もしかして僕のも食べてみたい……?」
「は……っ! えぇ? な、なんのことぉ?」
「すごく食べたそうにきらっきら瞳が輝いていたけど……」
「うぅ……じ、実を言うとねぇ? 来人くんが食べてるクレープも美味しそうだなぁ……って思ってぇ。え、えへへぇ……!」
彼女は顔を赤くしながら空いている手で頬に手を当てる。その仕草は、まるで食い意地を張ってしまったことによる恥ずかしさを隠しているようだった。
どうやら風花さんは僕が食べていたクレープの味が気になっていたらしい。
うん、あるある。自分の分を食べていても他の人の分も食べたくなる時ってあるよね!
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