第41話 天使は耳を真っ赤にする
高校から歩いて三十分ほど離れた場所にある駅前広場。すぐ近くには利便性のある駅があることから様々な人が行き交うけど、僕と風花さんは現在そこに立っていた。
中心には広い水場の噴水が存在していて、ばしゃばしゃと音を立ててながら水面を忙しなく波立たせている。どうやらたくさんの親子連れが自分の子供を水場で遊ばせることによりそこを憩いの場として利用しているらしい。
複数の
うっ、純真な子どもたちの穢れの知らない笑みが眩しいっ! まるで天使である風花さんに匹敵するほどの
……あぁほらボク、今は水が出てないけど激しく水が出る噴出口の一部に座っちゃったらお尻がアレだよ? そんな
いつの間にかそうなることを期待していた……。……多分こういうところだね。
うぅ、僕はいつから心が汚れてしまったんだろう……っ(遠い目)。
と内心ネガティブになりながら噴水の方へと視線を向けていると、隣から声が掛かった。
「ど、どうかしたぁ? わぁ……涼しそうで虹が綺麗だねぇ」
「ちょっと
「唐突ぅ!? 死んじゃダメだよ来人くん! クレープ食べにきたのにどういう心境の変化ぁ!?」
ごめん風花さん、風景の感想から純粋さの格の違いを見せつけられるともう僕耐えきれない! クソッ、こんな天使度マックスな風花さんの隣にいられるか! 僕は天に帰るぞ! ………あっ。
いつの間にか自殺宣言&死亡フラグ建設してた(白目)!
そう思い至り踏ん張ろうとするが、思考とは別に僕の足はもうアンストッパブル。だが風花さんに必死に腕を掴まれたことによりなんとか自殺回避した。
うぅ、ありがとうね風花さん……。僕は勝手に自己嫌悪してるね?
そして目的を思い出した僕は、気を取り直して風花さんに話しかけた。
「あはは、ご、ごめんね風花さん。冗談だよ、うん、冗談」
「とても冗談っていう力じゃなかったと思うけどぉ……」
「それじゃあさっそくお店にいこっか! レ、レッツゴー!」
「お、おぉー……!」
僕は拳を天に突き刺すと、同様に風花さんも戸惑いながらも同じポーズをとる。風花さんのように振る舞ってみたけどこれはこれでなんだか恥ずかしい。
うん、もうしない。絶対風花さんがやった方が可愛い。
そうして一緒にやって来たのは駅前にあるクレープ屋さんの目の前。中は外観と同じくレンガ調の壁で囲まれておりレトロ感にライトアップされている、とてもおしゃれで落ち着く雰囲気が漂っているテイクアウトも可能なお店だ。
実を言うと、この店には一度だけ入った事がある。……高校入学前の休日に強引に姉に連れてこられたからね!
どうやら甘いもの好きな姉がよく好んで購入しているスイーツ雑誌に載っていたらしく、男女で入店した場合のみ注文できる限定クレープが食べたかったらしいのだ。
いやぁ、最初はカーテンを閉めて自室でラノベを読んでいた僕に「来人! クレープ食べに行くからついてこいっ!」的なことを言ってたんだけどさ……。姉がこんなに頼み込んでくるのは珍しい、スイーツ好きだし行ってもいいかなと思いつつも悪戯心が働いたんだよね。 だってほら、一応僕って頼まれる側の優位的立場じゃん?
"『一緒にクレープ食べて欲しいにゃんっ♪』ってポーズしながら言ったら良いよ"って言ったんだよね。
……羞恥心を
え、感想? んー……可愛さが足りないファンキーゴリラにしては良くやったと褒めてやりたいですねぇ。……正直、優越感むくむく感じました(褒め言葉)。
それは置いておいて。
「風花さん、店内で食べるのとテイクアウトして外で座って食べるのだったらどっちが良い?」
「んぅー、今日はそんなに暑くないからお外が良いかなぁ。……うん、噴水を見ながらベンチで食べるのも良いねぇ?」
「じゃあそうしよっか!!」
そう言って風花さんと一緒に窓口販売のところへ向かう。雑誌に取り上げられた店と云えど、どうやら今日は平日だからか大行列は無いようだ。
せいぜい並ぶのは数人程度で、僕らは最後尾に並ぶ。
やったね! 風花さんと同じこと考えてた嬉しい! これぞまさに以心伝心だね(いや違う)。店内でオシャレな雰囲気を味わいつつ食べるのも悪くはないけど、折角今日は天気が落ち着いているし、涼やかな噴水とか見て食べる方がより一層美味しいだろうしねっ!
あ、因みに外で食べようって考えていたんだったら最初からそう言えば良かったじゃんなんて文句は受け付けないぜ? ……誰がチキンだこら。
だってそれが許されるのはラノベに出てくるようなリード
相手の意見を尊重しないなんて愚の骨頂。まず自分の意見を用意しつつ、もしどっちでもいいという答えが返ってきたら、自分の意見を言うのがベストなんだよ。……僕の持論だけどね?
僕みたいな主人公じゃないラノベ好き陰キャ野郎が上手く立ち回るには、勇気だけじゃなく常に考えに考えを重ねないと失敗するのは目に見えているんだよぉ!
……こほん、失礼。少々熱くなったね。
話を戻すと、念のため風花さんに聞いて置いて良かった。今回ばかりは偶然意見が一致してすごく嬉しくて安心したけど、今後も恣意的にならないように気を付けていかないとね。
………ん? あっ。
「そ、そういえば風花さん……今更だけど、いきなりクレープ食べようだなんて迷惑じゃなかった?」
「えぇ? どうしてぇ?」
「あー……風花さんにとって何の脈絡もない誘い方だったし、なんていうか少し強引で不快な思いをさせていないか急に不安になってさ……」
「ぜ、全然全然っ! むしろ来人くんから誘ってくれてすっごく嬉しいよぉ! あとドンドン強引にきて良いんだからねぇ? 大・歓・迎!」
「そ、そう? 喜んでくれるんなら良かったけど……」
隣に並ぶ風花さんが顔を勢い良く横に振りながら、キラキラと目を輝かせて微笑んでくれた。
ふぅ、風花さんの反応を見る限り迷惑には思っていないようだね……。ホント良かった。
いつの間にかいつも通りの様子になっている風花さん。彼女は僕の顔を覗き込みながら口元をにゅふりと曲げる。
「で、でもぉ、どぉしてクレープ屋さんに誘ったのかは気になるかなぁ?」
「……笑わない?」
「? うん!」
「……なんだか風花さん、最近元気がなさそうに見えたから……その、甘い物でも食べて……元気、出して貰おうと思って」
「――――――」
なんだか言葉にするのは恥ずかしかったけど、顔を横に
しばらく無言が続いたので、不思議に思った僕が隣に視線を向けると、風花さんは両手で顔を覆っていた。
表情は見えないけど、茶髪から覗く耳は真っ赤だった。
? ??? ????????????
「ふ、風花さん? いったいどうしたの?」
「~~~っ、ごめんねぇ………!」
「え、なにが?」
「………………ううん、こっちのお話しぃ! 気遣ってくれてありがとねぇ、来人くん。もう大丈夫、元気出たよぉ!」
「……ッ。え、あ、うん。ならいいんだけど」
少しの
思わずその笑みに見惚れてしまった僕は一瞬だけ固まり、なんとか返事を返す。いつの間にか耳の色は戻っていたけど、そんな些細なことは気にならなかった。
やっぱりかわいいっ。
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