第39話 腹黒天使の罪悪感
行きと同じ公園から近いバス停に降りた私と来人くん。とっても名残惜しかったけど、その後お互いに手を振り合いながら解散という形になった。
鍵を開けて自宅に帰宅した私は充足感に満ちた心のままに自室へ向かうと、すぐさまベッドの上へと転がる。
茜色の日差しが窓から部屋に入り込んで眩しさが少しだけ目立つけど、その心中を占めるのは今日の出来事。
はぁー……! 楽しかったぁ……っ!
「今日はお勉強会っていう名目だったけどぉ、男女でお出掛けしたって事はぁ……デ、デートぉ、でいいのかなぁ……!」
私は左手を胸の上に置きながら天井を見上げた。思い出して顔がじわっと熱くなる。きっと、私の頬が赤く染まってしまっているのだろう。心臓もばくばくと高鳴っている。
勉強の合間に来人くんから何気なく貰ったレモン味のアメはとても懐かしい味がした。
……えへへぇ。うんうん、もうデートっていうことにしちゃおうそうしよぉ!
来人くんは真面目だからぁ、今日は友達同士の勉強会って思ってるだろうから少し申し訳ないけどねぇ?
あぁ、今度それで来人くんをからかってみようっとぉ! いったいどんな反応するのか楽しみだなぁ。
本当は昨日高校の図書室で勉強会を予定してたけどぉ、まさか来人くんから休日に図書館で勉強会を提案してくるとは正直思わなかったなぁ。
あのとき真面目な表情と射抜くような真剣な瞳で来人くんからそう言われたときは、一瞬頭の中が真っ白になって変な声がでちゃったぁ。ぼうっとしながら家に帰ってきてぇ、これは夢じゃないって分かったらもうベッドの上ですっごくごろごろ悶えちゃったよぉ……!
おかげでお洋服選びに時間が掛かっちゃったしぃ、私のその光景を見たお母さんからはニヤニヤされちゃったぁ。
「あと私服姿すっごく可愛いって言われたぁ! 涙がでそうっていうのはなんでか良く分からないけどぉ……たぶん、来人くんにとって最上級の褒め言葉ってことで良いんだよねぇ?」
彼は表現が少しだけ独特なときがあるけれどぉ、まぁあんな清々しい笑顔で言うということはそういう意味で受け取って良いのだろう。すっごく嬉しい!
一方、来人くんの格好は涼しげな白のシャツの上に黒の半袖シャツ、ボトムスで、シックな装いに纏められていた。
ふぅ……香水の件は誤解が解けてホントに良かったよぉ。"女の子と外出なんて久しぶり"なんて言ってたからすこーしだけ
慌てて彼を呼び止めて疑心暗鬼にさせたのは心が痛かったけどぉ、好きって伝えたから大丈夫だよねぇ! 来人くんのことだから当たり前のように香水のことだって思っているんだろうけどさぁ、
―――当然、来人くんも含まれているよぉ。
「それから図書館に行ってぇ……あぁ。文音さんと挨拶を交わしたのは緊張したなぁ。あの時と比べて私の容姿や口調は全く違うけどぉ……あの人観察眼は鋭いからねぇ。途中で
私の髪色も髪型も口調も雰囲気も前と違うしぃ、苗字しか名乗って無かったからねぇ。図書館に来る前日に覚悟を決めたり挨拶中にぼろを出さないように用心していたとはいえ、一人でいたときに話しかけられたのはびっくりしたぁ。
……自分で納得してたし多分ばれてないよねぇ?
『まなびホール』の職員である図書館司書の彼女。相変わらずあの不思議な話し方は健在でぇ……今日も来人くんと親しげに話す様子を見せ付けられて本当にムっっカついたなぁ。
思わず笑顔でじぃっーと見つめちゃったよぉ。
まぁ昔から文音さんにしてみれば来人くんは弟のようなものでぇ、中学の頃から交流があって真面目を取り繕っていた私をただ
そ・れ・で・も、だよぉ?
……でも今思えばぁ、ただ来る者拒まずで受け身だった私が来人くんにぐいぐい行く姿勢になったのは、文音さんから影響を受けた部分が大きいのかもしれないねぇ。
そこだけは感謝してあげても良いのかなぁ。
……あぁ! そういえばぁ!
ふと私はトートバックにある物を入れていたことを思い出す。ベッドの側に立て掛けて置いていたそれに手を突っ込むと、ガサゴソと中に手を
むぅ……えーっとぉ、あのときばれないように急いで無造作に入れちゃったからなぁ……っ。ずっと使ってた
「……あったぁ!
私はそれを掴むと再度ベッドに転がる。そしてやりきったような表情で天井にかざした。
「えへへぇ、探すフリしちゃったけどぉ、私の爪先に当たった感触があったから床の下にあるのは明白だったんだよねぇ。それでぇ、ぴーんときちゃったんだぁ」
―――今日はとーっても、わるいこになろうって。
来人くんに話しかけられるまで机の下で消しゴムをじぃーっと見て段取りを組み立てていた私。彼が覗き込む前に咄嗟に拾って、『来人くんの消しゴムどーっちだ?ゲーム』を仕掛けたんだよねぇ!
いやぁ、来人くんと文音さんが会話しているときもやもやしちゃったからさぁ、ちょっとした可愛い乙女心だよぉ(にっこり)。
でもこれどうしよっかなぁ♪ 来人くんが何度も手でじかに触った消しゴムなんだよねぇ。
………………。
ににに匂い嗅いじゃうぅ? それとも思い切ってな、ななな舐めてみるぅ(目を見開きながら)!?
私は起き上がるときょろきょろと部屋全体を見渡す。部屋には私一人。お母さんは仕事で帰ってくるのが遅いしばれることは無いからこれはチャンス……っ!
……いやいや一旦冷静になろぉ私! これ床を転がった物だよぉ!?
あぁ、でもでもそれはともかくぅ……っ!
「……うぅ、なんだかすごーく罪悪感………。私のもう一つの消しゴムをあげたとしても人の物をぉ、好きな人の物を
あぁぁぁぁぁっ! 今になって心が苦しいよぉぉぉぉっ!
いくら私が予備でもう一つ持っていた消しゴムを来人くんに渡したとしても彼がこんなに小さくなるまで大切に使っていた物を
そう考えるとさっきまで続いていた、私の手をじっくり来人くんに触って貰ったことによる衝撃や興奮の熱はスッと引いた。
その後、
あ、あわわわわわわわわっ!!
自分で蒔いた種だけどどうすればいいのかなぁ!!??
「―――あっ、そうだぁ! りっちゃんに電話しよぉ……っ!」
私はすぐさまスマホを操作するとりっちゃんに電話を掛ける。
困ったら
『はいもしもし、風花どうしたのよ。阿久津クンとのお話なら、昨日約束した明日の買い物のときにする予定だったと思うけど……』
「りっちゃぁん!! どうしよぉっ!!」
『えっ、ちょっ、なんでそんな悲壮感が漂った声なの? どうかした?』
「実はね―――」
そうして私は今日起こった事を全て洗いざらいすべてりっちゃんに打ち明ける。所々相槌を打っていた彼女だったが、すべて話を聞き終えると、一つ溜息を吐いた。
『―――なるほどね。あらかた事情は理解したわ』
「でぇ、どうしたらいいかなぁ!? いまさら消しゴムを返すわけにはいかないしぃ……っ!」
『そうね。……風花、どんな意図があったとしてもそんな行為をする人はなんて呼ばれるか知ってる?』
「うぅ……っ、どろぼぉ……?」
『変態』
「ぐっはぁ…………!!!!」
心に大ダメージを
……ぐすん。
◇
「………ねぇ、三上さんだったわよね」
「はい、そうですがぁ……。どうかしましたぁ、六塚さぁん?」
「………いきなりだけど、私って話し方がすこーしだけ特殊じゃない?」
「えぇ、世の中にはいろんな人がいるんですから別に不思議な事じゃないですよぉ」
「………そうかもしれないわね。でも私と初めて話す人って、大抵の人が奇妙なものを見る目をしたり戸惑いを見せる場合が多いのよ」
「えぇーっとぉ、……つまりどういうことでしょうかぁ?」
「………もう一度言うわ―――貴方、やっぱり私と会って会話した時あるわよね?」
「………………ッ」
「………なぁーんて、冗談よ」
「え?」
「………
「はぁ、はぁい……っ!」
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