第33話 陰キャは天使を勉強に誘う
次の日。僕は学校へと向かう為に歩き慣れた通学路を歩いていた。……姉? あぁ、生徒会の仕事があるらしくて早めに出掛けたよ。
くそぉッ、昨日の夕食の時もニヤニヤしながら僕を見やがって!! いじり甲斐のあるネタが手に入ったからって嫌いな夕食に出たピーマンとかニンジンをほいほい僕の皿の乗せやがって!! ……ん? あっ。
い つ も の こ と だ っ た 。
思い返せば、何だかんだ姉の苦手な食べ物が出たときに行きつく先は大抵僕の皿じゃない? いつもは苦手な野菜でも一欠くらいは食べるのに、昨日は「親に言わないでやるから全部食え」って感じで全部寄越しやがったからなぁ。
……しばらくこのままかな(遠い目)。まぁ僕は野菜好きだからいいけどね。パクチーとか好みの分かれる癖のあるやつは苦手だけど。
姉のことを「ふっ、体内適応能力の低いガキめ……」などと内心だけでけちょんけちょんに見下していると、突如視界が暗くなる。
「だーれだ……」
「えひゃぁっ!! 何も考えてないですごめんなさいだから許してねーちゃん!!」
「えぇー、その反応は予想してなかったなぁ……」
反射的にすぐさましゃがんで身を守ろうとした僕だったけど、よくよく見てみれば視界を塞いできた人物の正体は風花さんだった。
そうだよ、姉は先に家を出たんだったよ。僕のおっちょこちょいめっ!
風花さんはその予想外だと云わんばかりの声音と違って何故か表情はにへらっとしている。
うん、今日もめちゃんこ可愛いねっ!!
「おはよぉ来人くん。ところで"ねーちゃん"って三年生の阿久津麗華先輩だよねぇ? あんなにびっくりしちゃうって事はぁ、何か怒らせるようなことしちゃったのぉ?」
「おはよう風花さん。いやぁ、どちらかというと弱みを握られちゃった感じ? まぁとにかく風花さんが心配しているようなことじゃないよ。あと出来ればさっきの情けない姿は忘却の彼方へと葬り去ってくれると助かるなっ?」
「ごめぇん、むりぃ♡」
「あっはっはっは……ですよねー」
僕は思わず涙目で風花さんから目を逸らす。風花さん的には前みたいな感じの反応を期待していたんだろうけど、今回ばかりは状況が悪かった。
だって昨日風花さんを名前呼びしている事を姉に知られちゃってさ。歩いてふざけて内心見下していながらもその奥底では姉への潜在的な恐怖が勝っていたんだもの。
やはりさっきのあの姿は天使の目に焼き付いてしまう程情けなかったか、と若干諦めモード。ぐすん。
僕は少しだけ言い訳がましく風花さんへと説明する。
「まぁ姉弟だし、互いに幼い頃から色々知っちゃっているからねぇ……そういう時もあるよ」
「…………むぅ」
「? どうしたの風花さん。そんな眉を顰めながら口もすぼめて」
「―――来人くんってライトノベルとかネット小説が好きだよねぇ。好きになったきっかけも知ってるしぃ、部活も幽霊部員だとしても一応文芸部に入ってるしぃ、SNSのアイコンだっていつも使ってるレザーのブックカバーぁ。飲み物は麦茶ばっかり飲んでるしぃ、食べ物の好き嫌いもあんまり無いしぃ。休日は読書したりソシャゲしたりインドア派でしょぉ? 髪質は少し固めだし頬っぺたはすべすべだし首も案外弱い事も知ってるしぃ。あとは、あとはぁ……!」
「うん、それってだいたい僕のことだよね? 急にどうしたの風花さん? 僕の間違い探し?」
何故か
……なんで?
「……私も来人くんのことぉ、すこーしずつだけど知ってきてるからぁ」
「? うん……………ぇ?」
………え、ちょ、まって。『知ってきてるから』? 可愛さで言えば芍薬、牡丹、百合の花を詰め合わせたような天使が頬を赤く染めて僕の隣でその言葉を言ってる真意ってつまり……?
「ふ、風花さん。それってどういう……」
「そっ、そういえばもうすぐで夏休みだしぃ、期末テストも近いねぇ? 来人くん勉強しっかりしてるぅ?」
「あぁー、うん。出題範囲はばっちり復習済みだよ」
「さすが入試学年一位だねぇ。私も頑張って勉強しないとなぁ」
僕が先程の言葉の意味を訊こうとするも、風花さんにより期末テストの話題に切り替えられる。
うーん、なんだったんだろう。理由は分からないけど、もしかして姉と張り合ってたのかな? まぁそんな風花さんも可愛いねっ(グッ)!!
そうそう、風花さんが言った入試の結果が学年一位っていうのは本当だよ。いやぁ、中学のころ勉強が取り柄なだけあった。おかげで中学の頃の僕を誰も知らない進学校である白亜高校に入学できたしねっ!
因みに風花さんは入試結果二位だった筈。僕は目立つのが嫌だったから新入生代表の挨拶を辞退して風花さんが代わりに壇上に上がって挨拶してたけど……思えばあの間延びした話し方とゆるふわな容姿から人気が出て『天使』って呼ばれるようになって校内で有名になったからなぁ。
……ホント辞退して良かった。
それはともかく、風花さんそんなこと言ってるけど頑張って勉強する必要なくない? 元が良いじゃん。天使じゃん。……え、天使は関係ない?
僕がそのように思っていると風花さんは言葉を続けた。
「そこで来人くん、提案があるんだけどぉ……いいかなぁ?」
「うん、なんとなく想像がつくけど言ってみて。風花さん」
「―――私と一緒にぃ、今日の放課後ぉ、学校の図書室でいっしょに勉強しなぁい?」
「やっぱりそうだ。……うん、わかった。じゃあ一緒にテストに向けて勉強し……っ!」
「ら、来人くん……? どうかしたのぉ……?」
最後まで言葉を紡げなかった僕。
いやいやよく考えろ僕。昨日の姉の言葉を思い出せ。
可能性として、どこで誰が見ていて姉に密告されるか分からないぞ……? 週末の図書室なんて生徒の出入りも多いだろうし、そんな中ふたりで勉強なんてしてたら格好の餌食じゃね?
そう思った僕はある事を思い浮かべる。……うん、明日土曜日だし大丈夫かな。どきどき。
「……風花さん、やっぱり今日は勉強しない」
「えぇ、そんなぁ……で、でもほらぁ、シュミレーションも兼ねることが出来るから一石二鳥だよぉ? 来人くんの練習にも付き合うよぉ……?」
「明日、土曜日って何か用事はある?」
「えぇ? い、いやぁ……特に何もないけどどうしたのぉ?」
「なら良かった。じゃあ風花さん―――明日、一緒に図書館で勉強しよっか」
「………………ふぇっ?」
初めて女の子を誘うことに、僕は少しだけ緊張しながらも一拍を置いて風花さんを誘ったのだった。
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