第29話 天使の手作りお弁当 1
天使の思い遣りと温かさに触れた僕。よし、と気を取り直すと何とか内に秘めたテンションを戻す事に決めた。
イッツお弁当パーリィッ!!
「それじゃぁ……じゃじゃぁん! はぁい来人くん、おべんとぉ!」
「あ、あぁ、ありがとう!」
『天使』の微笑みと共に差し出されたのは水色の小風呂敷に包まれたお弁当箱。僕はそれを両手で受け取った。
教室内で風花さんが言い放った言葉を思い出す。
あの言葉の直後、残っていたクラスメイトの驚きにより教室中は少しだけざわついた。みんな同様、驚いて固まっていた僕はみんなに視線を向けることは出来なかったが『我らの天使が阿久津君と……っ?』『風花ちゃん大胆ね……!』という事を話しているのは聞き取れた。
一気に教室中の視線と共に羞恥心が無防備な僕に襲い掛かるが、同時に納得もしていた。
昨日SNSのトーク上で好きなおかずを訊かれたのはこういうことだったのかと。
―――いやぁ、僕の為にお弁当を作ってきてくれるなんてすげぇ嬉しいね!!
思わず呆けた返事をした僕だったが、再度風花さんが訊くと僕は慌てて了承。笑みを浮かべた彼女は僕の腕を掴みながらすぐに教室を出て行く。
そして、土下座のくだりを経て現在に至るというわけだ。
廊下を歩いている最中にどういうことか聞いてみたけど、風花さんは満面の笑みを浮かべながら謎の圧力を発生させていて詳しく聞く雰囲気ではなかった。
けれどわざわざ場所を移して屋上に来た今、風花さんの真意がようやく聞ける。
未だ整理のつかない考えと
「ねぇ風花さん。そういえば結構さ、この状況って僕にとって急展開過ぎるんだけど……もしかして昨日の段階からお弁当を作ってくること考えてた?」
「ふっふっふー、愚問だねぇ。でも実はそれよりも前から考えていたかなぁ? だってこういうのってぇ、青春ラブコメ的には定番なんじゃないのぉ?」
「定、番? ……あ、あぁ! そ、そうだよねそっちだよねぇ!?」
「んぅ、そっちぃ……?」
風花さんはこてんと首を傾げながら目をぱちくりさせて小さく呟く。僕はなんでもないことを隣に座る距離の近い彼女に伝えると、風花さんは少しだけ目を細めながら空中に目を彷徨わせた。雲の流れでも見ているのかな?
まぁ、ですよねー……。席替えで隣になった風花さんと良く雑談する仲になったとはいえ、シミュレーションに協力している程度の目立たない陰キャな僕に日頃のお礼としてお弁当を作ってきてくれたなんてそんな都合の良い話なんて転がってこないよねー。
シミュレーションですもんねー。
知 っ て た (意気消沈した目)。
………ようし、僕の勘違いにまたも恥ずかしさが芽生えるがどうにか切り替えよう僕!
「じゃあこれに名前を付けるとしたら"手作りお弁当イベントシミュレーション"ってところかな? い、いやー、シミュレーションだとしても風花さんが作ってきてくれたお弁当を食べれるなんて嬉しいなー!」
「………あぁ、そういうことぉ」
「ん、どうしたの?」
「―――うぅん、なんでもなぁい! でも来人くんがそんなに喜んでくれるなんて嬉しいなぁ。
女の子座りをしている風花さんは、何故か一部の言葉を強調しつつ僕を上目遣いで見遣る。
何やら意味深に聞こえたが、まぁ事実として風花さんは本日の"手作りお弁当イベントシミュレーション"を行なう為に僕にお弁当を作ってきてくれた!
他の女の子の手作りお弁当なんて僕初めてでとても感動しているよ! ひゃっほい!
昨日トークで僕のお弁当のおかずの好みを訊いてきたのはゲリラシミュレーション警報だったわけだね! 僕ったらホントそんなことに気が付かない愚図で鈍間な陰キャなんだからもうー(隙あらばセルフ罵倒)。
いやぁ、もう『天使』のヒロインの気持ちを知る為という向上心は既に限界突破してますねぇ……!
色々な嬉しさや感動で僕はニッコリ顔。僕がうきうきしながらお弁当が包まれている水色の小風呂敷を開けるのを確認した風花さんも、自分用のお弁当が入ったピンク色の小風呂敷を開ける。
そのお弁当箱に敷き詰められていたのは―――、
「どぉ、どぉっ? 頑張って作ったんだよぉ!」
「うわぁ……すっげぇ美味そう………っ! これ、もしかして全部風花さんの手作り?」
「その通りぃ! ふふぅんっ、下味出来るものは夜に仕込んでおいてぇ、朝早起きして作ったんだぁ。あ、来人くんがリクエストしたおかずもしっかりと入れたよぉ! 卵焼きでしょぉ、ウィンナーでしょぉ、ミートボールでしょぉ、唐揚げでしょぉ、焼き鮭でしょぉ♪」
「いやホント凄いね、僕じゃ絶対に作れないよ……。というか僕タンパク質なおかずしかリクエストしてなかったなぁ」
「そぉそぉ、バランスが偏っちゃうなぁって思ったからぁ、もやしとほうれん草のナムルとぉ、ブロッコリーも入れちゃいましたぁ。あ、勝手にお野菜入れちゃたけどぉ、もしかして苦手だったぁ……?」
「いや、好きだよ。加えて風花さんが作った物ならいくらでも食べれちゃう」
「………………はぅっ」
このとき、お弁当に敷き詰められた彩りのバランスの良さに夢中になっていた僕は、小さな声をあげた風花さんが耳まで真っ赤にして胸を押さえていたことに気が付かない。
僕はそんな様子の風花さんを露知らず、小風呂敷に入っていたウェットティッシュで手を拭き吹き。箸を持つと彼女に問い掛ける。
「それじゃあ風花さん、食べてもいいかな?」
「ど、どうぞぉ。召し上がれぇ……っ!」
「………あ、そうだ。その前に一応聞いておくね」
「んぅ、な、なぁにぃ?」
真剣な表情で箸を持った僕は、いざ尋常に目の前のお弁当に挑もうとするが一旦ストップ。こっちをみて微笑む風花さんの瞳をじっと見つめる。
これは、ラノベ好き、しいては王道テンプレ好きな僕としては訊かなければならない事……!
「味見せずに塩と砂糖を間違うなんてことは」
「―――絶対にないけどぉ?」
「ひぃ……っ!」
なんか地雷踏んだ!
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