新一年生のゲーム制作部への入部希望者は結構拾い上げられたのは良かったよ。

 さて、うちの学校は二年生と三年生の始業式と新一年生の入学式は別々で、入学式の翌日に新入生歓迎会がある。


 生徒会が主催して在校生の二年生や三年生が、新入生の入学を歓迎し、そのときに部活動や委員会の紹介や部活や委員会活動の内容などの実演によるアピールを行い、その後にそれぞれが勧誘するというものなので俺たちもそれに当然参加する。


「最低5人いれば部活としては成り立つけど、部活を継続していくには学年ごとに最低5人はほしいもんな」


 俺がそう言うと同じクラスになった北条先輩がうなずいて言った。


「そうですわね。

 最近では明らかに各部署の人手も足りませんし」


 北条先輩の言葉にうなずいたのは斉藤さん。


「本来なら少人数の部活や零細企業には人事とか経理とか財務とか事務は必要ないはずだけど、そういうわけにはいかないのが現状だものね。

 シナリオライターだって私一人じゃもう厳しいわ」


「絵かきも私だけじゃ全然足らないよー」


 斉藤さんに続いて最上さんも苦笑しながら言うと朝倉さんもうなずく。


「こちらはまだ他に人がいるからましですが、リズムアクションゲームやダンスゲームなどを考えると、作曲出来る人はいくらでもほしいですからやはり厳しいです」


「そうなると自分はまだましな方っすかね。

 アドバンスドテクノスや飛翔企画がある分で」


 明智さんがそう言うと浅井さんもおずおずと言った。


「わ、私も声優さんとか俳優さんがいますからね」


「とりあえず、北条先輩に勧誘のスピーチは任すよ」


「わかりましたわ」


 最初の生徒会長から新入生への入学おめでとうの挨拶が終わると、その後の各部活のスピーチや実演アピールが続く。


 まあどこもここが最初で最大のチャンスだから必死だな。


 そして俺たちゲーム制作部の順番が回ってきた。


「新入生の皆さん御入学おめでとうございます。

 私はゲーム制作部で芸能科二年の北条精華です。

 ゲーム制作部は昨年立ち上げたばかりになりますが、桃の子太郎討鬼伝説やジュエルス、リズムマニアックスと言ったゲームを製造販売した結果、大きな利益を上げるに至りました。

 私達が求める新入部員はやる気と自分の得意なことをお金に変えることが出来る方々です。

 自信のある方は是非部室まで来てください」


 俺は北条先輩のスピーチに合わせてスライドでゲームの画面とかを写して補佐する程度はしたが、こういう交渉ができるのが基本的に北条先輩だけってのもやっぱまずいよなぁ。


 そもそもクリエイターとか発明家というのはあまりマネジメントとかネゴシエートとかは得意じゃないのが普通なんだけど。


 これはトーマス・エジソンとニコラ・テスラとか西芝の升岡富士雄さんなんかを見ればわかるよな。


 で、翌日は健康診断が終わった後の部活見学で、入部希望者が来たのでプログラマーやゲームプロデューサー志望は俺、シナリオライター希望は斉藤さん、イラストレーターやアニメーター、グラフィッカー、ドッター志望は最上さん、サウンドクリエイター志望は朝倉さん、その他は北条先輩が対応してトライアウト要するに入部試験を行う。


 もっともプログラマーやサウンド関係はすでに結構いるのであまり優先順位は高くないけどな。


 日本ではたとえば強豪の野球部でも入部試験があってそれに合格しないと入部できないという制度はあまりないが、これは親に部費を出させるためでもあって、雑用や応援的な声出しだけの新入生ほとんどの部員は希望を見いだせずに途中でやめていってしまう。部員を維持するために部活で利益を上げるという考え方がないからな。


 一方、アメリカの部活はトライアウト制度が厳しくベンチ入りできるだけの人数以外は皆振り落とされてしまうし、俺たちゲーム制作部は部費を捻出するためにはゲームを作って売らなければならないので、何も出来ないようなやる気だけはある部員をとりあえず採用して教えながら育てるということはしない。


 一般的な会社であればアルバイトから始めさせてその後、正社員に引き上げるということも出来たりするし、本来であればもっと自由に部活や会社へ入ったりやめたり出来るようにする方が良いのだろうが、そういう考え方は日本ではあまりなじまない。


 一度入った部活や会社にそのままいつづけるために、適正があろうがなかろうが努力するべきというのが日本のやり方なので、最初に合う合わないを見極めて採用不採用を決めるしか無い。


 試用期間があっても実際にはそのまま継続して採用し続けるのが普通だしな。


 とはいえ先輩後輩で立ち位置が変わるようなシステムはうちに部活にはないから、実力があれば今年の1年生でもゲーム制作を投げるし、徒弟制のような従属関係を作るつもりもない。


 で、そこでふと見たことのある顔の女の子がいたんだ。


「あれ? 君、教習所でバイクの俺と一緒に免許取ろうとしてたよね?」


「あ、そうです。

 私は足利裕美あしかがひろみといいます」


「でもゲーム制作部に入ろうとするなんてなんか意外だね」


「あ、でもゲームをつくるほう希望じゃないんですけどね」


「じゃあ北条先輩みたいな渉外担当かな」


「はい」


「まあ、車よりバイクのほうが、移動が早く済む感じはするよね」


 で、面接結果だけどプログラム担当に関しての今年は入部者はなし。


 まあ天才プログラマーのナセルさんを筆頭に毛利さんや島津さんクラスのプログラマーはそうそういないよな。


 会長のほうの採用は渉外担当希望の足利さんと経理財務希望の細川さん。


「足利裕美です。

 皆さんよろしくおねがいします」


「この方は英語もかなりできますので、そちら方面でサポートしていただきますわ」


「へえ、それは心強いね」


細川早苗ほそかわさなえです。

 財務・経理・総務・庶務などを担当することになると思いますので、今後よろしくおねがいします」


 彼女がそう言うと芦名さんと佐竹さんがだいぶホッとしてるな。


「これで僕たちも少しは楽ができるね」


「ああ、俺たちけっこうしんどかったもんな」


 これで北条先輩がさらに留年しないで済むようになってくれればいいんだけど。


 グラフィック関係も2名採用。


「おらほ伊達鈴音だてすずねっちゃ。

 あ?! やっちた……えと、よろしく……です」


 なんか顔を赤らめてるけど方言かな?


「ええと、伊達さんは宮城出身で今年こちらへ引っ越してきたそうです」


「はぁ、やっぱ東京はこえーわ」


「ちなみにこえーは疲れるという意味ですわね。

 私達が怖がられているわけではないですわよ」


 そして最上さんが続けていった。


「彼女はアニメーターとして頑張ってもらうよ」


 イラストレーターは設定からキャラクターを書き上げるが、アニメーターはそれを動かすという点で役割が違うからちょうどよかったな。


「はじめまして。

 南部つぐみです」


 最上さんが続けていった。


「彼女はドッターとして頑張ってもらうよ」


 ドッターはドット絵を描いていく、グラフィック担当。


 1ドットのマスに色の異なる点をちまちま置いて作っていくために非常に辛抱強くマゾっ気がある人でないとやっていられないと言われる分野でパズル好きな人も多いようだ。


「あー専門のドッターがいてくれるとプログラマーはだいぶ楽になるよな」


 今までは皆自分でイラストをドット絵にしていたんだけど、対戦格闘とかのドット絵作業を全部自分でやろうとすれば間違いなく死ぬからな。


 シナリオライターも一人採用した。


「北畠ミチルです。

 皆さんよろしくおねがいします」


 斉藤さんがその後フォローする。


「彼女には主に女性向けのゲームシナリオを担当してもらうわ」


「これからは女性向けのゲーム市場の発掘もおそらく大事だもんな」


「ええ、そうね」


 まあ俺たちが抜けた時のバランスを考えるとまた来年は別の採用を考えるべきなんだろうけど、現状では必要な部分の埋め合わせは出来たかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る