九章エピローグ

 ダンジョンイーターの事件から、しばらくが経った。

 弁当七番勝負で使われたレシピが好評だったため、日替わりで弁当が販売されることになった。

 ただし、一部の極端な弁当は改良されてからだ。

 当分はエルムのダンジョン弁当がメインとなるらしい。

 食糧事情が改善され、冒険者も多くやってくるようになった。


 冒険者と言えば、ダンジョンイーターと戦った者たちだ。

 彼らは無事に全員蘇生が完了した。

 一部の記憶を“灰”で失っていたが、ドロップアイテムを売った分配金を入手できてホクホクだった。

 そのドロップアイテムは、ダンジョンイーターが飲み込んでいた法国の伝説装備だ。

 当時使われた王家の剣らしいのでエドワードに渡そうとしたのだが、受け取りを拒否された。

 そうして現在エルムの手元にあるのだが、どうするかはまだ決めていない。


 その怨敵を討ち取ってもらったエドワードは、憑き物が落ちたような顔をしていた。

 しばらく冒険者を続けながら、法国の件を考えるらしい。

 皇帝であるシャルマと知り合いになったので、いつか法国の王子として返り咲く日も近いかもしれない。


 シャルマはというと――すぐ帝都に帰ってしまった。

 元々は帝国の予言者とやらが、『ボリス村に災害級が現れる』という低確率の予言をして、シャルマが休暇ついでにやってきていただけだ。

 たった数人の護衛と身分を隠してパーティーを組んでいたのも、シャルマ本人が頑丈なのと、エルムがいる場所なら世界で一番安全だということらしい。

 ちなみにシャルマは帰り際『十点満点だ』とエルムに呟いていた。




 そして――


「今日も良い天気だ。よし、畑に行くか!」


 エルムは自らの手で勝ち取った、価値ある普通の日常を満喫していた。

 その頭に乗っているのは、子竜状態のバハムート十三世。


「エルムぅ、そういえば畑にミミズがいたんだけどさぁ……。あれって、蘇生したダンジョンイーターだよね?」


「ああ。魔法修行で色々と応用が利くようになったから、力をそぎ落として普通のミミズっぽくして蘇生しておいた」


 子竜は頭の上で溜め息を吐いた。


「アレは一回、上位竜種になったんだから、また進化する可能性もあるよ? 危なくない?」


「そのときはまた俺がどうにかするさ。それに――」


「それに?」


 エルムは朗らかに笑った。


「この田舎に住んだら、刺々しい心も癒やされるさ」


「まったく、これだからボクのエルムは……」


 呆れ口調だが、どこか嬉しそうな子竜の声が響く。


 どこからか心地良い風が吹き抜け、金色の麦畑を揺らしていく。

 ここは冒険者が行き交い、農耕が盛んなボリス村。

 伝説の竜装騎士エルムは、今日も田舎で普通に暮らしていくのだった。



――――――


あとがき

※追記。


感想で誤解されている方が多いのでサブタイトルを「エピローグ」→「九章エピローグ」に変更しました。

竜装騎士全体のエピローグというわけではなく、九章のエピローグです。


あとコミカライズから来る読者さんも増えたので念のために書いておきますが、そちらの原作は書籍版です。書籍版は半分くらい新規書き下ろしシーンが入っていて、こちらのWEB版とはかなり別物です。

コミカライズの先を読みたいということであれば書籍版をご購入頂ければ幸いです。

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