竜装騎士、迷宮攻略作戦を立案する
このボリス村のダンジョンには特殊な縛りがあった。
一度潜ったら、二十四時間後まで再突入できないのだ。
しかも、階層の移動は転移陣のみで、一回の突入で移動できるのは一階層分のみ。
地上施設から転移選択できるのもクリア済みか、その次の新規階層。
そのため、かなり難易度の高いダンジョンになっていた。
「普通の攻撃では傷つかないダンジョンイーター……か。俺がダンジョンに入れるまで――」
そこまで言ったところで、エルムはこほんと咳払いをして訂正した。
「もとい、俺がパーティーとして一緒に潜った、勇者とブレイスがダンジョンに入れるまで、どうにかしないとな」
今は多くの冒険者が酒場にいるため、エルムが伝説装備の神槍でダンジョンイーターを倒すとは言えない。
もし今回ダンジョンイーターを倒しても、手柄は誰かに押しつけるつもりだ。
――というところで、それまで見守っていたウリコが口を開いた。
「エルムさん。ロリオバちゃんが倒しに行ってもいいのでは?」
「ウリコ、良い疑問だ。単純にダンジョンイーターを倒すだけならそれでいい。しかし、気になることがあってな……。過去、法国で傷を受けて行方しれずとなった個体と、傷痕のあった今回の個体……」
「えーっと、もしかして同一個体かも、ということですか……?」
「その通りだ」
傷の位置や形状などを調べなければ詳しくはわからないが、目撃例がほぼないダンジョンイーターに対しては考慮すべき点である。
「でも、それがどうして、ロリオバちゃんが倒しに行くのを止めることと繋がるんですか?」
状況を飲み込めないウリコは首を傾げ、いつの間にか横にいた子竜が代わりに答えた。
「それはこのボクが答えようかな。同じ異界からの来訪者としては、適任だからね」
「あ、バハちゃん、こんにちは。それで同じ異界からってどういうことです……?」
「基本的にしっかりと作られたダンジョンというのは、この世界の住人には壊せないように設計されているのさ。例外としてはそれを超えるような武器を使うか、異界の存在か」
「あー、確かに異界の災害級とか言っていましたね……。バハちゃんも外の世界から来たんでしたっけ」
「うん。その時に通る異界の門を使って、過去の手負いのダンジョンイーターは消えたんだろうね。そして、このボリス村ダンジョンのどこかに異界の門が現れて、そこをダンジョンイーターが通って再出現したと推測する……というのがエルムの考えだよね?」
「そうだ。ダンジョンイーターを倒すのも大事だが、異界の門を壊さなければ第二、第三の別個体が出現する可能性もある」
そのために、なるべく早く異界の門を破壊しなければならない。
貴重な伝説装備持ちのジ・オーバーを投入するとしたら、優先度的にそうなるのだ。
「あ、でもエルムさん……。異界の門がある場所ってどこの階層なんですか?」
「……そこが問題だ。多数の人員を割いて手分けして探すしかないのだが……危険が伴う……」
エルムはそこから先の言葉を上手く伝えることができず、辛そうな表情で歯がみした。
いつもどんな困難でも打破してきたのだが、他者に危険を強要することになる今回のケースは、もっとも苦手な部類なのだ。
そんなエルムの気持ちを知ってか知らずか、周囲の冒険者たちが声をあげた。
「ボリス村の村長さんよぉ。オレ達にできることがあるのなら遠慮なく言ってくれ」
「そうそう、この村を気に入っちまったからな」
「こんな面白い弁当がある場所、異界の災害級だかなんだか知らねぇけど、飯の旨さがわからねぇ化け物に潰されてたまるかってんだ!」
確かに冒険者たちの言うとおり、協力してもらって多くの階層を調査するのが最善だ。
しかし、エルムとしては、今回ばかりは勢いだけでどうにかするというのは許されない。
なぜなら――
「今回ダンジョンが破壊された場合は、蘇生の結界も消滅するということだ……。本当に死ぬんだぞ……?」
これを言ってしまえば冒険者の協力が得られなくなると思っていたのだが、それでもエルムは嘘を吐けなかった。
エルムの驚異的な蘇生魔法も、結界が破壊された余波で魂が崩れたり混ざったりした場合、成功率が極端に落ちる。
どうしても避けられないリスクなのだ。
伝えないわけにはいかない。
――それでも信じられないことに、冒険者たちは態度を変えなかった。
「んなもん、ダンジョンを破壊させなきゃいいんだろう?」
「ガハハ! 普段、ダンジョンの外で生死をくぐり抜けてる冒険者を舐めるなよ!」
その冒険者たちの言葉を聞いたエルムは思い出していた。
もっと過酷だった時代でも、同じように困難に立ち向かっていた人々の顔を。
「そうか、いつの時代でも人間は変わらないな……」
「おっと、村長さんよ! その分、報酬はたんまり出してくれよ!」
「ああ、わかった。異界の災害級・ダンジョンイーターのドロップ品は俺が高額で買い取って、その金を全員で山分けだ」
オォーッ!! と冒険者たちから歓声があがった。
弁当勝負や、村人たちとの交流によって、ボリス村は彼らの愛着ある場所となっていた。
その第二の故郷のような場所を守るためなら、協力を惜しまない。
だが、それでも先立つ物は金である。報酬があった方が俄然やる気が出る。
それと――無償で村を助けるというのも、何か気恥ずかしいという照れ屋も多かった。
「それじゃあ、俺も覚悟を決めないとな――」
エルムは普段は使いたがらない“灰”モードにチェンジした。
一瞬でタキシード姿になり、髪をなでつけオールバックにして、悪魔が乗り移ったかのような魔性で見下しながら優雅に言った。
「作戦を告げる。――お前ら、ボリス村のために死ね」
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