竜装騎士、隣領との交易ルートを開拓してしまう

 エルム達、馬車隊は森を抜ける事によって大幅にショートカット。

 今までからすると信じられない速度でボリス村へと到着した。


「す、すげぇ……長年御者をやってるけど、辺境のボリス村がこんなにも近く感じられるなんて……」


「働くゴーレムに、高度な建築! ド田舎だと思っていたのに! これは新たな商いに発展しそうなニオイがしますよ……!」


 ボリス村で交易に使える物を見定めるために乗っていた、丸々太った商人も興奮気味だ。

 エルムはそれを聞きながら、馬車隊をウリコの店へと誘導する。

 ニジン伯爵領から運んでいた痛みやすい食材を、この前作った冷蔵倉庫に移す作業をするためだ。

 その様子を見て、ウリコが走り寄ってきた。


「おかえりなさーい、エルムさん! ……って、これ全部食材ですか!?」


「ああ、頼まれてた日用品とかもあるけど、大体はこの前話していたダンジョン弁当用の食材だ」


「すっごい量! すっごい種類! あ、あそこには脂の乗った喋る豚が乗ってますよ! 鼻息荒くブヒブヒ、まるで金のニオイを嗅ぎ付けた商人みたいです!」


「……それは普通に商人さんだからな、食材じゃなくて人間さんだからな」


「冗談ですよ、冗談。都会ジョークですよ。……田舎舐めてそうな、金と欲に塗れた薄汚い都会へのジョーク……ですよ……ウフフ……」


「お前、都会に対してどんだけ失礼なイメージがあるんだ」


 夜中に現れる悪霊のような薄笑いを浮かべたウリコだったが、一瞬で笑顔に切り替えて商人を防具屋へと案内していった。

 村で一番頭のおかしいウリコだが、きちんと仕事はこなすので商売人としては成長してきているのかも知れない。

 人間としては退化している気もするが。


「最初にジャガイに狙われていた、十五歳のか弱い女の子はどこに行ったんだか……。いや、それより運び込んでしまうか」


 エルムは隊長ゴーレムを呼び寄せて、倉庫の中に積み込む順番や配置を指示。

 風魔法の冷気分断によって、内部温度が違うので場所には気を遣う。

 それを農作業の手が空いている量産ゴーレム達と分担して行わせる。

 やり取りを見ていた商人の一人が驚きながら質問してきた。


「え、エルム辺境伯……。もしかしてゴーレムすらも貴方の所有物なのですか?」


「うん、そうだが――……あ、いや、違う。違うぞ」


 つい条件反射で肯定してしまったが、確か“拾ってきたものを使っているだけ”という外面を保っていたと思い出す。

 その否定も遅く、商人がグイグイと食いついてくる。


「ゴーレムも交易品として扱っては如何でしょうか? 一体だけでも一財産稼げますよ」


「……いや、それは止めておこう。これらはまだ人には過ぎたモノだ。ゴーレムの力、魅力に囚われれば不幸になる人間もいるだろう」


「そうですか。残念です」


「その代わり、村で作れるものや、ダンジョンからの出土品などは自由に交渉してくれ。ニジン伯爵が選んだ人員なら、信頼して取引が出来る」


「は、はは……そうですか。ええと……畑の作物や、ダンジョンで取れるDランクくらいのアイテムですかね? と、とりあえず見て回ってきます」


 商人からしたら、目玉商品になりそうなゴーレムを却下されて、残ったのは田舎の特産だ。

 エルムの手前、ストレートな表現はしないのだが、残念そうな気持ちを隠しきれていない。

 とりあえず辺境伯とコネだけでも作るために、田舎のショボい特産程度でも少しは取引してやるか――そう思っていたのだろう。

 しかし、数十分後。

 村を探索するために散らばっていた商人たちが合流して、大騒ぎになっていた。


「お、おい! ボリス村の作物はおかしいぞ! この地域、この季節では収穫できない品種を取り扱っている! しかも、どの場所で作るよりも美味で、収穫までの時間も異常に短いらしい!」


「こっちも防具屋で見せてもらったダンジョンの出土品が……Sランク相当だ。最近出回っていた謎の装備は、ここからだったのか」


「帝都のように高度な建築物も独自にここで作っているらしい。なんて技術力の村なんだ……!?」


 エルムはホッとした。

 どうやら隣領の商人のお眼鏡にかなう品が村にあったらしい。

 それもエルム本人が大きく名前を出さなくても、村人と冒険者たちだけでやっていけそうな部分だ。

 これで念願叶い、普通にのんびり暮らしながら――。


「どうやら、この村の村長って奴が全てを仕組んだらしいぞ!」


「……」


「それは是非、村長にご挨拶に伺わなければ……!」


「……あ、あの」


「農業に革命を起こし、超高難易度のダンジョンを踏破しながら、技術者まで育てる村長……いったい何者なんだ……!?」


 まだ見ぬ商売の種を発見したとばかりに興奮する商人達。

 さすがにエルムでも“私が村長です”みたいな定型文で答えたらどうなるか予想が付いた。

 視線が外れている隙に、無言でソロリソロリと立ち去ろうとした。

 そこに運悪く、状況を把握していないウリコがやってきてしまった。


「あ、エルムさん。今日は村長の仕事お疲れ様でした!」


「ちょ、待て、ウリコ今はタイミングが――」


「え? どうしたんですか? 村長のお仕事で何かマズったんですか? それならご安心ください。私がエルムさんの村長仕事をちょっとくらい補佐してあげてもいいんですからね! どーんと任せて安心してください、村長!」 


「こういう時だけ、無駄に優しいな!?」


 ウリコの口から連呼されている“村長”という言葉に商人達が驚きの声をあげた。


「なっ!? エルム辺境伯が村長!?」


「え、えーっと……。ワタシ……ガ……ソンチョウ……デス……」


 観念して自白したエルム。その後、詰め寄られて質問攻めに遭うも、何故かカタコトのままだった。

 それを見ていたバハさんは『やれやれ、普通に暮らせるのはいつになる事やら』と楽しそうに笑っていた。

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