魔法学校首席、過去を思い出す3
闇夜の中、エルムが気配を消して村に潜入した。
ボロボロの木造家屋が並び、虫の声だけが聞こえる静寂の世界。
いくつかの人影が周囲を警戒するようにキョロキョロとしている。
「はぁ~。こんな小さな村なんて身内以外は誰も助けにこねぇだろうし、早く酒飲んで寝てぇ~」
エルムは一瞬で風のように近づき、見張りをしていた豚面の魔族の背後に立ち、肩をポンと叩く。
「ん? もう交代なのか……。いや!? お前は誰なん――」
最後まで言わせない。
エルムはトンッと空中に飛びながら、大ぶりな回し蹴りを放ち、それを喰らった豚面の魔族が盛大に吹き飛ぶ。
「ピッグギャ!?」
「あ~あ、エルム。開幕から派手だね~」
「バハさんの感知で、もうここに村人は感じられないんだろう? それなら……いくらでも敵に見つかっていいからな」
騒ぎを聞きつけた他の魔王信奉者が集まってきた。
五十人はいそうだ。
それに対して素手のエルムは構えを取った。
まだこの頃はエルムの身体能力に耐えられる伝説装備を手に入れていないので、布服の徒手空拳で戦っているのだ。
「ハッ!」
撃ち放たれる弾丸のような正拳突き。
群がってくる二桁の相手を、己の肉体のみで倒してく姿は異常に思える。
しかし、それが日常。バハムート十三世の加護を受けたエルムは、その拳だけでも歩く戦略兵器なのだ。
肌も刃は通らないし、そもそも回避してしまう。
敵がポップコーンのように弾かれて、次々と壁に叩き付けられていく。
「ふわ~あ。時間かかりそうだから、ボクはエルムを応援しながら寝ておくよ」
アクビをする子竜は離れた場所の樽の上で寝転がり、ポリポリとお尻を掻いていた。
全くやる気がない。
それには一応の理由があった。
エルムは素手のために、大量の敵を倒すには殲滅速度が遅いのだ。
待つ方の身にもなってほしい、と子竜の態度。
「いや、バハさん。今日は早く終わりそうだぞ」
「んあ~……そういえば、そうだったね。ハンスが張り切っていた」
「……ん? なんか地鳴りが……」
事情を知らない敵達が、異変を感じ取り周囲を見回した。
徐々に大きくなってくる足元からの震動。
その内に遠くを見ていた一人が気が付いた。
「な、なんだありゃ……」
信じられない事に、村の外から地形が移動してきた。
否、それは地形ではなく、六メートルはあろうかという岩石のゴーレムたち。
数は百を超える。
それが隊列を組んだ軍団となって、村に行軍してきたのである。
「ひ、ひぃ!? 何だあの規格外のゴーレムは!? やべぇ逃げろ!!」
魔王信奉者達が圧倒的な質量差に気が付いた時は――もう遅かった。
ゴーレムの一歩と、通常生物の一歩は幅が違いすぎる。
「この天才発明家、ハンス様のゴーレム実験に付き合えー! そこのモルモット達ィー!!」
「つ、潰れっ――うぎゃああああ!!」
国軍以上の戦力によって、村は無事に壊滅させられた。
「さてと、村人たちは既にいなかったわけだが……」
エルムはチラッとハンスの方に視線をやった。
「俺は近くの廃棄砦に向かってみるから、ハンスは村の修復とか、そいつらを閉じ込める檻とか用意してくれ」
「わぁったよ。自分の後始末は自分でするよ、ったく。今回のゴーレムはデカくしたから、制御が難しいし、戦闘が終わったらすぐに崩れちまうしで散々だ……」
村はゴーレムによって踏み荒らされ、しかも当のゴーレムは戦闘の負荷に耐えきれず、ただの岩石に戻ってしまっていた。
準備に時間をかけてウッキウキだったハンスはションボリとしている。
そして倒した魔王信奉者たちは、まだ“手を加えられていない”状態なので、付近の町などで裁きを受けさせる事にした。
ここで首をはねてしまえば、お互い潰し合うのを傍観している魔王の思う壺なのだ。
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