竜装騎士、ダンジョンで干し肉を囓りながらやりすぎ反省会

 エルム達は魔石や金属片などのドロップ品を回収したあと、ダンジョンの中で食事休憩を取ることにした。

 本来なら外に出て酒場で食べればいいのだが、攻略パーティーの会話内容をあまり聞かれたくないのでダンジョンの中なのだ。

 まだ十一階層は攻略法を張り出していないので、やってくる他パーティーはいない。

 落ちついて話ができる。


「いいか、ブレイス? 普通のパーティーは時間をかけてゆっくりと倒す感じだ。特にガイのパーティーみたいなのだと、もっと手間取る」


「なるほど~。最近はそんなカジュアルな冒険者が多いんですね~。お兄さんとぼく達のパーティーは、一日で百層とか普通だったんで感覚が難しいですよ~」


 エルムとブレイスの会話に、またまた遠い目になるマシューと勇者。

 黙々とダンジョン携行食である干し肉とパンを囓って、水で流し込む作業を行っていた。


 木の皮を食べているように錯覚してしまうくらい水分のない干し肉。フランスパンの百倍くらい堅さのありそうな鉄パン。どちらもアゴが痛くなってくる。しかし、堪えて食べるしかない。


 ブレイスがそれに気が付いた。


「普段、こんな不味そうなものを食べてるんですか?」


「ブレイスさん、人が食べてる最中に不味そうとか、もうちょっと言い方ってものがありませんか……? エルムのアニキ、何とか言ってやってくださいよ!」


「はっ、乾燥してカサカサの干し肉と、カビの生えてそうなパンだったので、見た目通りに不味そうと言っただけですよ? お兄さんにこんなものは食べさせられないですね。マシューならこれで十分ですけど……!」


 また言葉をぶつけ合わせるマシューとブレイスに、エルムは頭を悩ませる。


「なんでお前達、そんなに仲が悪いんだ……。もっと仲良く――」


『できません!』


「ハモらせて本当は仲がいいんじゃないか……」


 とは言いつつも、エルムもダンジョンの食糧事情は問題視していた。

 冒険者の間では、ダンジョンの食べ物は干し肉とパンと決まっていたからだ。

 合理的と言えば合理的なのだが、食はやる気の源である。

 もうちょっと考えてもいいかもしれないと思いながら、エルムは干し肉を囓る。


「そういえば、お兄さん。さっきの放った“煉獄”の事ですけど」


「ん? どうしたブレイス?」


「お兄さんって昔から、エーテル量は膨大なのに雑な魔法の使い方しかしないですよね?」


「うっ……雑……」


 先ほどのブレイスの魔法は、大地の精霊や、雷の精霊に協力してもらう呪文を唱えて、エーテルに細やかな命令を与えて、ターゲットを狙って放ったものだ。


 一方のエルムの魔法はというと、雑にエーテルを炎に変換して火炎放射のように直進させて、強引にフロア内を焼き尽くした。


「以前、ぼくが修行をつけてあげても、ずっとそんな感じでした」


「不甲斐ない弟子で面目ない……」


 ブレイスの指摘が適切すぎて、自覚あるエルムはうなだれるしかなかった。


「ごり押しでこの威力を出せるというのは凄いんですけどね。……でも、今なら装備も揃ってますし、ぼくの修行を受け直してみる気はないですか?」


「ない」


「うわ、お兄さん即答」


 間髪入れずの返事。

 そこはエルムにとって迷うところではないのだ。


「俺はずっと『いつかお前の魔法を越えてやる』と思っていたけど、やっぱり再会してブレイスの魔法を見てしまうとな。どうして俺が魔法の分野を苦手と感じていたかを思い出したんだ」


ぼくの魔法を見て? どうしてですか?」


「……あー、もう。この話は終わりだ、終わり。食べたら外に出るぞ」


「わかりました、お兄さん。でも、気が向いたらいつでも言ってくださいね。魔法を細やかに使えるようになったら、今後――きっと村の発展にも役立ちます」


 確かに繊細にコントロールされた魔法でしかできない事柄も多い。

 エルムは村のためになると思うと、少しだけ心が揺らいだ。

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