竜装騎士、灰の伝説装備で黒幕貴族と交渉して懲らしめる
村人と和解したエルム。
それからしばらく経ったある日、親睦を深めた村人たちは真剣な顔で、エルムの家まで相談しにきていた。
「エルムさん……実は、オラたち脅されていたんです……」
「脅されていた?」
「はい、村からエルムさんを追い出せって……。
言うことを聞かなければ、オラたち村人を領地に住めなくしてやるって……」
「権力による脅しか、許せんな。
それでみんな暗い表情をしていたのか。
──誰なんだ、その最悪な奴は?」
「村の屋敷に住む貴族──ジャガイ辺境伯様です……」
* * * * * * * *
ジャガイ辺境伯屋敷。
「くそ! なんなのだ! あのエルムという、よそ者は!」
豪華な金の調度品が飾られた部屋。
丁寧に作られた高級絨毯に地団駄しながら、歯がみする男がいた。
目付きが悪く、頭がジャガイモのようにデコボコと禿げ上がっている。
無駄に宝石で飾り付けられた貴族服を着て、でっぷりとした腹の部分をプルプルと怒りで震わせる。
「せっかくワシが、ウリコちゃんを手に入れるためにクズ村を潰そうとしていたというのに!」
このジャガイ辺境伯は、ウリコを手に入れたがっていた。
そのためにこんな辺境の村に屋敷を建てたり、村が盛り上がらずに廃れるように仕向け、最後はウリコが自らジャガイ辺境伯の元に嫁ぐように狙っていたのだ。
良い具合に潰れそうになっていた防具屋だったが、ダンジョンが発生して、盛り返しそうになっていたときは焦った。
必死に裏工作をして、腕利き冒険者がダンジョンに挑戦しないようにして、なんとかまた村が潰れそうになってニヤニヤしていたのだ。
「……それを……あのエルムという……よそ者が……!!」
外部からやってきたエルムはウリコと親密になり、どうやったか知らないが防具屋をもり立て、ダンジョンの攻略法を配布して人を呼び、あげくに村人からの信頼も得ていた。
「村八分にするように命令していたというのに……ッ!
役立たずのクズ村人たちが! くそっ! くそっ!
こうなったらまた、アイツから石化毒を買って……」
「へぇ、あの石化病はジャガイ辺境伯──あんたの仕業か」
「なっ!? 誰だ!?」
ジャガイ辺境伯一人だった部屋に、その声は響いた。
ハツラツとした青年の声だが、どこか達観した老齢な口調でもある。
白銀の鎧を身に纏い、気配遮断を解除して歩いてきた竜装騎士。
「お初にお目に掛かる辺境伯──俺がエルムだ」
スッと優雅に一礼して、鋭い眼光を向けるエルム。
「ヒィッ!? な、なぜここに!?」
「普通に歩いて入ってきたぞ? おたく、本当にただの人間だな。
石化毒なんてものを入手できるルートを持っているようにも見えないくらいの、どうしようもなく、ただの人間だ」
「だ、誰か!! 誰か来い!!」
突然のエルムに対して、半狂乱になるジャガイ辺境伯。
必死に助けを呼び、それを聞きつけたメイドがドアから入ってきた。
「ジャガイ様、どうなさいまし──きゃっ」
「わ、ワシの盾になれ……!!」
ジャガイはメイドを背後から拘束。
細い女性の首に、腕の内側を巻き付け、ノドを絞め潰しながら前面に押し出した。
いわゆる肉の盾だ。
「くっ、苦しい……おやめ下さい……」
「ワシのために役に立ち、ワシのために死ね!
ほら、エルムよ! お前が下手なことをするとコイツが死ぬぞ! グハハ!
どうやらお前は
今にも首の骨が折れそうになり、もがき苦しむメイドを挟み、ジャガイとエルムの視線が交錯した。
「ジャガイ辺境伯。お前が、ただ恋に狂っただけとか、そういう同情の余地があったのなら、手心を加えてやったんだけどな……?」
「は? なにを言っているんだお前は……?」
「俺が元いた王国も……最初は民のために竜装騎士を働かせていたんだ」
「……竜装騎士……? 王国……? まさか、お前は伝説の──」
「だが、民のためという気持ちがなくなったのなら、話は別だ。
もう俺は
エルムは昔を思い出して、フッと自虐的な笑みを浮かべた。
白銀のウィルムメイルに魔力を通して、その形状を変化させる。
モードチェンジ。
鎧は一瞬にして、灰色の衣服へと早変わり。
その姿は、社交界の主役のようなスラッとした立ち姿だった。
──“灰の心士衣服タキシードモード”。
神凱七変化の一つで、戦闘能力は皆無なモードだ。
だが、カリスマ溢れる完璧な作法や、魅惑の交渉スキルを使う事ができる。
……いや、今から行われることは交渉などではなく、絶対服従だ。
「外道には外道」
エルムは髪を手でなでつけ、オールバックにした。
その顔は普段の優しいエルムのものではなく、強制する支配者の苛烈な表情。
「ジャガイ辺境伯、今からお前は、俺に絶対服従だ」
「なっ!? なにを馬鹿げたことを! この辺境伯であるワシが──」
「追加ルールだ。反論は許さない」
「……はい、わかりました。エルム様」
ジャガイ辺境伯の目から光が消え、その脳は掻き回され、機械のように作り替えられた。
絶対服従──すなわち“灰”モードの力で洗脳したのである。
「メイドを離せ。
所有する財産、村の土地を含めて全て俺に譲渡しろ。
そのあとに死ね」
「……はい、わかりました。エルム様。
メイドを離します。
所有する財産、村の土地を含めて全て譲渡する手続きを始めます。
そのあとに死にます」
ジャガイはうわごとのようなオウム返しで、メイドを離した。
倒れ込むメイド、その目が完全に怯えきっていた。
まるでエルムを魔王か何かのように見つめている。
正直、エルムもこの“灰”モードは使いたくない部類なのだ。
人間の意識を自由に操るという外道中の外道。
昔の為政者を思い出して、つい使ってしまったが、少し大人げなかったかなと反省した。
そこでエルムはふと思いついた。
「ルール追加だ、一つだけチャンスをやろう。
もし、お前が死んで悲しむ者が一人でもいるのなら、死なずに生きろ」
「……はい、わかりました。エルム様」
その追加ルールでジャガイがどうなるかはわからない。
どんなに外道のように見えても、なにか一つくらい善行をしていた可能性もあるのだから。
「さて、最後に質問だ。お前に石化毒を売った奴を教えてもらおうか」
「はい、エルム様。それは──北に居を構える“魔王軍”からです」
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