第三章 魔王軍襲来
竜装騎士、ゴーレムを作り村人に喜ばれる
勇者がダンジョンに挑んでから数十日が経った。
徐々に攻略法が組み立てられて、それを元に冒険者も少しずつだが集まってきている。
そんな中、エルムの家に押しかけてきた人物がいた。
「エルムさん! 困ったことになりましたよ!」
「どうしたんだ、ウリコ」
「言われたとおり、防具屋を大きくして、宿屋っぽいものも増設したのですが人手が足りません!」
家に押しかけてきたウリコを見て、エルムは『そういえば』と思い出していた。
ダンジョン目的の冒険者や商人など、村に来る人間が多くなると予想していたため、先に防具屋を大きくしておいた方がいいとアドバイスしていたことに。
「そうか、人手か……それは失念していたな」
「なんか偉い勇者様も泊まっているのですが、かなりセルフサービスになっちゃっていて申し訳ないんですよ……。
それにこれからはお客様の案内とか荷物持ちとか、食事を作ったりとか……。
ああ、私どうしたら……」
エルムは丁度良いモノを思いつき、手をポンと打った。
「そうだ、畑仕事のために考えていたゴーレムを渡そう」
「ご、ゴーレム……? 岩とか土で出来ていて、勝手に動いてくれるやつですか?」
「うん。正確には魔石を核として、人間が命令を出したら、ゴーレムが自己判断で動いてくれるのだけどね」
エルムはさっそく“緑の創作業着クラフトモード”にチェンジして、家の外の畑まで移動した。
エルムは零式神槍グングニルから岩と、ダンジョンで最初に手に入れたS級モンスターの魔石を
胴体とする岩に魔石を埋め込み、頭、腕、脚の岩へと魔力のラインを通していく。
そのあとに頭部には簡易思考、聴覚、視覚、発声、嗅覚の機能を付与。
腕と脚にも、人と同じような動作をするための魔法をかけていく。
「うわ、本当に丸い岩が繋がって人型になりました……」
「一応、間違って命令を出したら危ないから、ゴーレムの戦闘能力は極端に下げてあるよ。
これは、俺が畑で経験を積んで、その動きをトレースするためのゴーレムだからね。
けど、荷物持ちや客案内くらいは出来るはず」
「すごい! すごいです!」
ピョンピョンと跳びはねて喜ぶウリコ。
輝くような白い太股がスカートからチラチラ見えていたりするので、もう少し落ち着きを持った方がいいかもしれない。
「あ、でも……エルムさん……」
「ん?」
「これ、大きさ三メートルくらいあって、宿屋に入りません……」
「しまった。野外用に設計していたのを忘れていた……!」
ウリコは、エルムが初めて失敗しているところを見て、ニマニマ微笑んでいた。
こんな完璧そうな人でもミスをすることがあるんだなと思って、その可愛らしさのギャップ萌え……と。
「うふふふふ」
「な、なんだ……ウリコ。笑いがちょっと怖いぞ……」
「な、なんでもありませんよ!」
本当に何も理解できていないエルムは、混乱の一歩手前。
不死で年齢が離れているだけに、エルムは若者とコミュ障状態なのだ。
ハタから見ればフラグがいくつも立っているように感じるくらいなのに。
突然やってきた彼らも、そう思っていた──。
「ケッ、イチャコラしやがって! よそ者のくせによぉ!」
「あんなダンジョンを盛り上げたって、畑やるだけのオラたちにゃ何の特もねーよ!」
「む、村の皆さん……」
いつの間にか集まってきていたのは村人だった。
最初から険悪なムードで、敵意を向けられているウリコはビクビクしていた。
だが、エルムは平時の表情と変わらず。
「いやー、意外と村人の皆さんにもメリットはありますよ」
「ああん? よそ者、確かエルムっていったなぁ……。
なんだ!? その怪しい妖術の土人形でオラたちを脅そうってのかぁ!?」
魔石を核にして瞬時に作り上げられるゴーレムは、普通の人間にとって未知の存在だ。
冒険者でもゴーレム製造を行える者は皆無。
それをエルムは、何の苦労も無しに一瞬で製造した。
異形の者として恐れられるのは当然かも知れない。
だが──その強すぎる力が、頼もしい味方になると知ったらどうなるだろうか?
「畑仕事って本当に大変ですよね。泥だらけになるし、なにより力仕事で腰がつらい」
「な、なに知ったようなクチを──」
「実際にやってみましたから。農業に携わる方は本当にすごいと思うばかりです」
村人たちは気が付いた。
エルムの家の周りに畑があることを。
それはただの地面に種を植えただけではなく、きちんと土作りから作物に適した畑にした本格的な農業だ。
「──そこで、ダンジョンから取れた魔石を使って、皆さんの農業を少しでも楽にしようと考えました」
「だ、ダンジョンから取れた魔石で……?」
「そう、つまり魔石で──このゴーレムを作ります。これを量産して、農業用としてお配りします」
「こ、この立派なゴーレムを……オラたちに……。
い、いや! 待て! 何か裏があるに違いねぇ! 金目的か!」
「お代は結構。タダでどうぞ」
そのエルムの言葉に、ただ唖然とする村人たち。
「ど、どうしてだ……。エルム……さん……?」
「美味しい野菜とか、果物とか、麦とかいっぱい作ってください。
それをこれから大勢やってくる冒険者に、新鮮なものとして食べさせれば、Win-Winの関係になりますから」
「確かにオラたち村人と、冒険者にはメリットがあるかもしれねぇ。
だけど、エルムさんには何もねぇだろう?」
エルムは、ん~、とアゴに指を当てて思案した。
「村人の皆さんが楽しい表情の方が、俺も楽しいですから」
村人はハッとした。
最近、ねたみや、プレッシャーであまり笑っていなかったことを。
エルムはそれを見ていたのだ、そんな細かいところまで。
そして村人たちのためにと畑仕事を自分で体験して、畑仕事用のゴーレムを開発してくれた。
「エルムさん……オラたち、あんたを誤解していた……。
ただの都会からきた金持ちで、村人たちを見下して、飽きたらすぐにどこかに行っちまうような人間だと思っていた……。
でも、それは違った……すまねぇ、すまねぇ……!!」
村人たちは自らの行いを心底恥じた。
エルムはまったく気にしない表情。
「いや、あの、俺に謝られても……。
得体の知れない俺を置いてくれたというだけで感謝してるので……」
「じゃあ、オラたちも謝罪じゃなくて、感謝の言葉だ!
ありがとう! エルムさん!」
その日から農業用ゴーレムは量産され、村人たちを手伝うようになった。
ここが良い、アレがダメだとフィードバックのために両者はよく喋るようになり、交流も自然と深められていったのだった。
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