十月三日(金) 朝 教室 【再会】

 朝のホームルーム開始5分前の予鈴が学校中に鳴りびく。

 そのチャイムが鳴り終わる頃に、オレは教室に到着して席に着いた。


 既に絵依は着席していた。

 登校時にオレと顔を合わせないよう、早めに家を出ていたようだ。


 しばらくしてホームルームの開始を告げるチャイムが鳴る。

 それとほぼ同時に担任が教室に入ってきて、教壇前で立ち止まった。


「前からお話していましたが、今日からアメリカの姉妹校から留学生がやってきます」


 来た。

 誰が来るのか、わかりきっている。


「それじゃあ、綾瀬さん!」


 担任が扉の向こうで待っているだろう女の子に向かって教室に入ってくるよう促す。

 すると留学生と言うにはあまりにも日本人っぽい黒髪で黒い瞳の少女が入ってきた。

 教壇にあがり、自分の名前を黒板に書く。


 縦書きで「綾瀬 悠宇」と。


「あやせゆう、です。よろしくお願いします」


 淀みの無い流暢な日本語。

 オレの記憶を辿るように、綾瀬はうやうやしく自己紹介した。


「綾瀬さんのご両親はともに日本人で、綾瀬さん自身も幼い頃は日本で暮らしていました。なので、日本語での会話は問題無いので安心してくださいね」


 あの日と全く同じ展開なので、オレも気をつかって同じことを突っこんだ方がいいのだろうか?

 まぁ、悩むくらいならやって後悔するがオレの信条だ。


「ちなみに、英語もペラペラなんですよね?」


 恐らくクラスメートの誰もが聞きたいことであろうことを、オレが代弁した。

 すると……


「I'm Ayase. I lived in Japan until the age of four, but now I live in New York, USA. Thank you very much for a short while.」


 とても聞き取れないスピードで英語を話し出す。

 あの日と同じ展開。


「……アイムファイン、サンキュー」


 とりあえず返答しておく。


 初めて会ったあの日はウケて微笑んだ綾瀬だが、今回はヤレヤレとため息をつくような苦笑いを浮かべた。

 その表情を見てオレは確信する。

 あの綾瀬はオレと同じ記憶を持っている綾瀬だ。

 オレは自然と笑みをこぼす。

 その笑みを見た綾瀬も、同じく笑みを浮かべた。


「それじゃあ、席だけど……」

「広森君の隣が空いているみたいなので、そこでしょうか?」


 『広森君』、だって!?

 おいおい、アイツ、何を言い出すんだ!?


「あら、広森君を知っているの?」


 突然綾瀬の口からオレの名前が出たことで、担任の永吉先生が驚いていた。


 いや、担任だけじゃない。

 クラスメイト全員がざわつき始めた。

 当然の反応だ。


「えぇ、ツブヤイターをフォローしあっているんです。だから彼から色々と事前に聞いていたんですよ」


 昨日オレが綾瀬の家を尋ねた時についた嘘を、そのまま利用するかのようにでっち上げた。


「それなら話は早いわね。席は広森君の隣で間違いないわ」


 永吉先生のその言葉を待っていたとばかり、


「ありがとうございます」


 綾瀬はスタスタと歩き出し、オレの隣の席に着席すると正面の黒板をみながらオレにだけ聞こえるくらいの声量で呟く。


「……待った?」

「そりゃ、待ったさ。昨日の夜、すれ違うほどな」


 綾瀬に負けず、彼女に聞こえる程度の声量で応える。

 ようやく事情を知っている仲間と再会できた。


「だけどなんだよ、さっきの。オレ達は知り合いってことにするのか?」

「その方が二人きりで話していても違和感ないでしょ?」

「まぁ、そりゃそうだけど……」


 綾瀬はいつもオレの思考を先回りする。

 だからこそ頼もしい。


「早速だけど、放課後にでも話がしたい。本当は今すぐにでも話がしたいけど、しばらくクラスの連中がオマエのこと離さないだろうし」

「放課後? 大丈夫なの? 七瀬さんと書店に向かうんでしょ?」

「絵依? どうして……って、あぁ、そういうことか」


 放課後に絵依と書店に向かう。

 確かに以前の10月3日はそうだったかもしれない。

 綾瀬は時間が戻っていることまでは把握していたが、それが限界だったわけか。


 つまり綾瀬は単純に時間がループしたと考えているらしく、世界が逆になっていることまでは気づいていないらしい。

 オレも始めはそうだった。

 美音から告白を受けるまで、単純に時間が戻っただけと思っていた。


 だけど綾瀬の視点では、10月7日のあの日から10月1日まで戻ったとしても、そこがA世界なのかB世界なのか、判断がつくものは何もない。

 今のところA世界とB世界の違いは、オレの恋人とそれに関連する人間関係だけだ。

 だから綾瀬が世界の入れ替わりまで認識するのは相当難しい話だろう。


「……? そういうことって、どういうこと?」

「ここはB世界なんだよ。だから今のオレの彼女は美音なんだ」

「えっ、B世界!? ……そう、そういうこと」


 恐らく今の一言で綾瀬は全て理解したのだろう。

 10月7日から10月1日に戻った時、そこはB世界だったこと。

 そしてアナザーソウルは自分達自身であったことに。


「美音には放課後に用事があるから先に帰っていて欲しいって言われた。だから放課後はヒマなんだ」

「……わかったわ。それじゃあ、放課後ね」


 オレ達は約束を交わし、次の授業の準備を始めた。

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