10月4日(土) 昼 教室 【積もる話】

 午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。

 ここ数日間、全く授業に集中できない。

 いや、少し訂正すると家でも勉強が手につかない。

 

 毎日、何らかの出来事が発生して精神が疲弊し、勉強に集中できないでいた。

 とにかく来週からテストが始まるというのに、これじゃあ今回のテストは散々なことになることが目に見えている。


 ただ幸い、A世界とB世界で授業内容に差はない。

 時間割は全く同じだし、使っている教科書も同じ物だ。


 それにアナザーソウルが書いているノートの書き方もオレと同じ。

 特に過去の授業については、全く同じ内容がノートに記述されていた。


 A世界とB世界の違いは、オレのカノジョの違いとそれに関係する人間関係だけなのだ。


 しかし、今のところ綾瀬の存在が不確定だ。

 綾瀬もオレ同様、A世界とB世界を往復しているのか?


「なぁ、綾瀬……」


 美音と合流する前に、少しでも綾瀬と話がしたかった。

 しかし、


「一樹先輩、綾瀬先輩! お待たせしました!!」


 美音が教室の入口からオレに向かって手を振っていた。


「早っ!!」


 思わず心の言葉が口に出てしまうほどに、オレは焦った。

 隣の席の綾瀬も美音に気がついたようだ。


「それじゃ、行きましょうか」


 綾瀬はオレに声を掛けると、教室の出口へと向かう。

 オレは綾瀬への対応を見極められないまま、重い腰をあげて教室の扉に向かった。


 ◇


「それじゃあ、どこに行く?」


 三人が合流して向かい合い、行き先を検討する。

 するとまだ日本に来て間もない綾瀬は、オレと美音で決めて欲しいと促した。


「シェ・シブタニはどうですか、一樹先輩?」


 美音は飯名学生御用達のスイーツ店を提案する。

 あそこのスイーツは甘すぎず、それでいてしっかりスイーツしていて抜群にうまい。


 しかもカフェを併設していて、店内で買ったスイーツを持ち込むことが可能な上、その場合ドリンクが半額となる。

 更に学生割引としてドリンクのおかわりが100円で可能だ。

 飯名学生がお茶するならこの店と言われて久しい。


「そうだな……甘い物でも食べながらやるか?」


 美音に応えながら、綾瀬の顔色をうかがう。


「ワタシはよく分からないから、そこで構わないわ」


 決まりだ。


「それじゃあ、行きま……」

「美音!」


 オレ達の後ろから、美音の張り切った声を遮る聞き覚えのある声がした。


「あっ、静香先輩!」

「美音、準備はいい?」

「えっ、準備……? ……あーっ!!」


 美音の表情が、戸惑いから驚きに変化する。


「……まさか、忘れてないわよね?」

「や、やだな、静香先輩。忘れてなんかないですよ、テヘッ」


 オレに背を向けていた美音が、腰を少しかがめて振り返り、顔を寄せてくる。

 それにつられるような形で、オレと綾瀬もまるで円陣を組むように顔を寄せ合う。


「あ、あの、すみません。実はこのあと軽音部のOGのライブがありまして……」


 ひそひそ声でオレと綾瀬にささやく美音。

 どうやら静香とライブに行く約束していたが、すっかりと忘れていたらしい。


「あぁ、わかった。皆まで言うな。早く行った方がいい」


 相手は静香だ。

 約束を忘れていたなんてことになると、実にややこしい事になる。


「先々週からの約束なので……本当にごめんなさい!」


 美音は右手を小さく立ててゴメンナサイのポーズをする。

 そしてすぐに静香の元へ。


「じゃあね、一樹クン。綾瀬さん」

「あぁ、じゃあな」

「さようなら、雪野さん」


 オレ達は礼儀程度の挨拶を交わした。

 すると静香はオレの耳元に顔を近づけ、


「二人で積もる話もあるだろうから、ね!」

「な、なんのことだ!?」


 焦ったオレは静香にツッコむが、当の静香はウインクして去って行った。

 その後をテテテと美音が着いていく。


 ……積もる話?

 オレと綾瀬が?


「『積もる話』って、どういう事かしら」


 どうやら綾瀬にも聞こえていたらしく、同じ疑問を抱いたらしい。

 もしかしたら、アナザーソウルが何かをやらかしたのかも……


「……多分だけど、朝に話した件と関係あるかもしれない」

「ふーん……なるほど」


 うまく朝の話に繋げることができた。

 静香、サンキュー!


「それじゃあ、どこかで朝の話の続きを……」

「それなら、さっき行こうとしていたところでいいわ。シェ・シブタニ?」


 おっ! 結構、前のめりで来たぞ。


「綾瀬、もしかして甘いもの好き?」

「そうね、嫌いじゃないわ」


 クールに肯定する。

 これは相当好きとみた!


「そうか! ならシェ・シブタニにしよう! この学校に来たのなら、一度は行っておいた方がいいからな!」


 良かった。

 これでなんとか無事に二人きりで話ができそうだ。


 さて、どこから話そうかな……

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